2022年10月15日土曜日

バイオトイレのアイデア


バイオトイレ、すなわち微生物で糞便を分解することで下水に頼らないトイレについて、アイデアを提供する。

従来のバイオトイレには、比較的大きな問題がある。それは、おがくずタンクのおがくずを定期的に交換しなければならないことだ。

バイオトイレで用を足すと、撹拌機により、糞便はおがくずタンク内に満遍なく混ざってしまう。つまり、交換の直前に用を足した場合、まだ分解が終わっていないものを交換することになってしまう。これを避けるためには、交換の直前半日から一日程度は排便しないようにする必要がある。交換する量も、一回100L以上とかなりのものになる。年に数回とはいえ、まず計画的にトイレを我慢し、それだけの量のおがくずを一度に買い、保管し、交換し、捨てるのは大変だ。近年ではゴミ袋も有料であるが、一度に大量に捨てると自治体に目を付けられるという話もある。そういうものは心理的抵抗にもなる。

バイオトイレが普及しているオーストラリアでは、トイレは2つあって、交互に使うのだそうだ。まあこの方法でも良いのだが、土地の狭い日本としては参考程度にしかならない。

この問題を解決するには、おがくず交換を連続的に(量を少なく回数を多く)行えるようにする必要がある。そのためには、糞便を全てのおがくずに均等に混ぜるのではなく、一部のみで混ぜ、それを順次入れ替えていくような仕掛けが必要だ。

もう一つの大きな問題点は、バイオトイレの本体はトイレの下部に、かなりの体積をもって設置しなければならないということだ。これにより、端的には一軒家でしか使えない。マンションの10階で使おうと思えば、介護用のいす型やポータブル型しか選択肢が無くなる。

例えば、正和電工のKBT-15は家具調の椅子形状をしており、座面を外すとバイオトイレになる。これは一日16~20回の使用が可能で、おがくず量は0.15㎥(150L)。重さは150㎏にもなる。重い原因は、全体が頑丈な鉄でできているからだ。攪拌を150Lのおがくず全体で行うため、モーターも大きく重くなり、筐体にも強度が求められるのだろう。

便座直下におがくずがあるタイプは、通常の便器とは形状がかなり異なり、足回りに余裕がない。筐体の金属もむき出しである。正直、実用一本やりで美しくない。別荘ならともかく、都会の自宅で毎日使おうという気にはならない。

つまり、運用や形状が市場を狭くしているのである。一般のトイレに近い形状と簡単な保守が実現できれば、市場はぐんと広がるはずだ。

ここで考えるのは、既存の(つまり一般家庭の)トイレを置き換えることが可能な、デザイン的にも既存のトイレに近いトイレである。そのための基本方針は次の通りである。①便器の外形は通常便器に近いものにする、②おがくずタンクは座面直下ではなく背後に置く、③おがくずは年2回100Lではなく、毎週5Lといった少しづつの交換とする、④(床下に余裕のない)既存のマンションのトイレをリフォームで代替できるようにする。

ここで肝になるのは「粉体輸送」である。形状を自由にするためには、便器内でおがくずと攪拌した後、別の場所にあるおがくずタンクにその混合物を輸送する必要がある。また、おがくずタンクから便器におがくずを補充することも必要だ。このための技術が粉体輸送で、代表的にはスクリューコンベア、バケットコンベア、吸引、圧送(圧搾空気で送る)等がある。

この中で注目すべきはスクリューコンベアだ。スクリューコンベアには、チューブ状になっていてある程度経路を曲げることのできる「フレキシブルスクリューコンベア」というものがあり、これを使えば便器から背後のおがくずタンクにおがくずを送ることが可能になる。

これを基本にして、以下のようなものを考えてみた。

まず便器だが、形状は既存の物を踏襲しつつ、大容量のおがくずを貯められ、また便器の中で撹拌ができるようなものを作る。例えば5Lくらい入るものにする。撹拌機は、既存のバイオトイレで使っているものの小型版でよい。

ここでおがくずタンクを先に説明しておくと、従来はトイレの下(地下、便座下)に水平に設置していたものだが、ここでは便器の背後に縦型に設置する。水洗トイレの水タンクをもっと巨大にしたようなものになる。ここではとりあえず、奥行250、幅900、高さ1000mmを想定する。このサイズは、単純計算では225Lとなる。なお、既存の水洗トイレに対しての違いとしては、コンセントと排気パイプは必要である他、手洗いは完全に別系統になる。

排便したら便器内でおがくずと撹拌する。十分に撹拌ができたら、それをフレキシブルスクリューコンベアで便器下部からタンクの上部に送り、おがくず溜まりに落とす。

これが終わったら、おがくずタンクの下部から同じく粉体輸送でおがくずを汲み上げて、便器に投入する。これがワンサイクルである。

大と小ではおがくずの状態が大きく違うだろうから、おがくずタンクの上部四分の一程度は投入都度撹拌が必要であろうと考える。またこの部分は、微生物の活動を促進するためヒーターで保温をする。この部分は排泄後間もないため水分量も多く、ヒーターは効果的に水分を蒸発させてくれる。

タンクの大部分は力が掛からないので、丈夫に作る必要はない。上部四分の一程度の部分だけは可動部があるので注意が必要だが、そこを含め基本的にはプラスチックで十分だろう。これで軽量化が実現できる。

容易に想像できる通り、このおがくずタンクでは、上部は排泄攪拌から時間が経っておらず、下の方ほど時間が経っているため、分解の程度が進んでいる。このため、おがくずを下から取り出して廃棄し、新しいおがくずを上から投入すれば、連続的な交換が可能になるわけだ。

おがくずは全部でなく一部のみ撹拌するため、攪拌機構及びモーターの小型化に貢献する。また、おがくずを循環させること自体も一種の攪拌になっており、好気性微生物の活性化に有利である。

保温をタンク上部に限ること、タンクをプラスチックにすることは、軽量化の他、金属より断熱性があるために節電に効果がある。

おがくずの交換は、便器の横に排出口を作っておいて、便器へのおがくず補充とレバー等で切り替えて出せるようにしておけばよい。そこには取り外し可能なタンクをつけておく。一方で補充は、おがくずタンクの上から蓋を開けて、減った分だけおがくずを投入する。

便器は、おがくずタンクと直結するように作る。まずおがくずタンクを奥に設置し、便器を前からはめ込む仕掛けである。おがくず排出口も投入口も斜めになっていて、便器にはフレキシブルスクリューコンベアは届かない(穴だけ)ようになっている。便器内攪拌器は機構だけが入っており、モーターはおがくずタンク内にあって、ギアで動きを伝達する。はめ込むことでギアがはまる。

おがくずの必要量だが、既存品だと0.5立方メートルで1日当たり80-100回という目安がある。ここから、5Lで1回という計算になる。1日の使用回数を20回(4人家族で1人5回)、おがくず使用量を5L/回とすると、100Lで1日分になる。上に想定したタンクであれば、150L程度は入るものと考える。これは、上で事例を示した介護用トイレと同じである。これにより、交換するおがくずは1日半経過したものとみなすことができる。

このサイズのモデルの場合、毎週5Lづつ交換することで、年間240Lのおがくずを交換できる。

なお、ジャストアイデアであるが、ここでおがくずではなく、木質ペレットを投入することは考えられる。木質ペレットはおがくずを5倍程度に圧縮したもので、猫砂として市販されており、全国どこでも簡単に手に入る。投入後は上部四分の一の攪拌によって水分を吸収し、膨らんで元のおがくずに戻る。おがくずの入手を不安視する向きへの対策になる他、かさばらないので保管に便利である。

保守モードとして、便器からおがくずを排出するだけのモード、及び便器におがくずを補充するだけのモードが考えられる。前者は点検や修理で便座を外す場合、後者はおがくず交換及び修理完了後の補充に使われる。ヒーターやタンク上部・便器内攪拌についても各々自動の他にオン、オフのモードが設定される。

このトイレは、既存のバイオトイレの市場とは大幅に異なる、新築市場やリフォーム市場に広く入り込むことができる。即ち普段使いのトイレとして使用できる。これで下水と独立するため、地震等で下水が不調の時にも、普段と同じトイレを使い続けられる。但し停電中は使えないので、ポータブルバッテリー等の準備が推薦される。

また停電時には、ビニール袋を便座に被せ、補充用のおがくずを振りかけて縛って保存する、という使い方もできる。これは市販の非常用トイレキットとほぼ同じ方法だが、おがくずのストックが常にあるが故に、一般家庭のように特別な準備が必要ない。

また、従来のトイレ以上に便利なところもあり、それは段差が必要ないことだ。廊下と段差のないトイレが実現できるので、高齢者や要介護者でも別にトイレを設置する必要がないことは注目に値する。

このトイレの欠点は、コストと故障率だろう。フレキシブルスクリューコンベアが二つ入るため、水洗はもちろん従来型バイオトイレに対してもかなり故障率は上がるだろう。このため、この部分を保守しやすいように設計する必要がある。例えばフレキシブルスクリューコンベアのみの交換が容易にできるようにする工夫が考えられる。

初期導入コストはやはり機構が複雑になる分高くなるが、一方で市場が広がることによる量産効果が出る可能性も期待できる。ランニングコストは、おがくずは100Lで5千円程度と予測する。ヒーターの電力は20W程度と見積もる。合わせて年間で数万円程度だろう。水洗では水道料がかかるから、その分を差し引けば、結構良い勝負になるのではないか。そして合併浄化槽よりは大幅に安く上がると考える。

また、既存のトイレの中では、背後に上下水が来ているものもあると思われる。これは便器には必要ないが手洗いには使われる。それがこの巨大なおがくずタンクを設置する際に邪魔になる。リフォーム前提なら大改造も可能だろうが、そうでない向きに対してはう回が必要となる。このためには、もっと縦長で幅の狭いおがくずタンクの設計が必要になるかもしれない。例えば幅を600mmにして高さと厚さを増やす、等だ。これは便器右側タイプと左側タイプが必要になるかもしれない。

もう一つの欠点として、一回排便したらおがくずが入れ替わるまで数十秒待たなければならない。この問題の回避方法はない。

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