2026年5月29日金曜日

理想の為政者像

 理想の政治家とは何だろうかと生成AIと議論していて、二つの軸を考えてみた。

  • X軸:【客観・形式論理一貫性(Formal Logic Consistency)】
    • 左極(-100):結論ありきのロジック(論理の歪み)。 自身のイデオロギーや保身(結論)を正当化するために、都合のいいデータだけをチェリーピッキングしたり、過去の法解釈や科学的ファクトを突如変更する二重基準。
    • 右極(+100):無色透明な数理・法理の一貫性。 自身の立場や思想に関わらず、同一の法解釈、同一の統計基準、同一の因果関係を等しく適用する状態。
  • Y軸:【議論の公共性・普遍性(Public vs. Tribal)】
    • 下極(-100):内向き・トライブ(部族)防衛。 特定の派閥、支持層、身内、または「自国」という閉じた枠組みの利益・感情を守るための発言。
    • 上極(+100):外向き・普遍的原則。 マクロ経済データ、国際法、全人類的、あるいは普遍的な「国民全体」の利益に基づく発言。

X軸(横軸)は右に行くほど、Y軸(縦軸)は上に行くほど、理想と考える。左下はダメな政治家である。この軸を基に主な歴代首相を生成AIにプロットさせてみた。

非常に興味深いことに、60年代70年代の首相は皆右軸(法理の一貫性を維持)にいるのに対し、最近の首相は左軸(結論ありき、自分の理想のためには論理を歪める)の傾向がはっきり分かれていることだ。また、安倍・高市両氏は残念ながら左下の「ダメ象限」に入っている。

この「ダメ象限」とは、すなわち「自分の主義に固執し、身内でない者を身内と差別する。そのためには外部データの冷静な分析をしない」ということになるのだが、これはもう陰謀論者の論理そのものである。

同じ条件で世界の主な国についてプロットしてみると、こうなった。なおこの場合、縦軸は「国民全体」ではなく「世界全体」になる。つまり上はグローバル視点、下は自国第一主義(利己主義)である。

トランプとプーチンは高市氏と同じく「ダメ象限」にいるが、その度合いは更に極端だ。そして面白いのは、高市氏は国内よりも海外の方が利己主義が強く、論理的一貫性が増しているところだ。(それでもまだ左に留まってはいるが)

ゼレンスキーは上象限にいるが、これは(不利な)戦争の当事者であることを想えばまあまあ納得できる。習近平は右象限にいて、以外と冷静な思考ができている。NZ、独、英、豪は「理想象限」にいる。こう見ると、例えば米国より中国の方がマシとか、日本は南アに劣っているとかが分かって、実に興味深い。

ついでながら、日本人もだいぶ陰謀論者が跋扈する国になってきている。昔からネットにこの手の輩は溢れてはいたが、今では報道の調査などでもその傾向が見て取れる。息苦しい世の中になってきた、というのは体感していたが、たぶんその感覚は正しい。

ダメ象限にあるということは、法治主義ではなく権威主義である、ということだ。首長の思想が法理に勝り、その思想は自国第一主義や差別思想だったりする。国に(首長に)対して気に入らないことをすれば、法的な根拠なく(あるいは屁理屈を付けて)逮捕されたり、不当な圧力を受けたりするだろう。

日本を捨ててどこに行くかと考えたとき、「理想象限」の国を候補にする、というのは一つの考え方だと思う。ロシアは問題外としても、アメリカとロシアの差は僅かで、やはり問題外と言える。そして日本も、海外の目から見れば問題外だ。今は自分の住む国だからとひいき目に見ている(それ自体が既に陰謀論者の目である)、ということは自覚しているつもりである。

アメリカ、中国、日本、ロシア、インドといった主要国が皆下半分(利己主義)にいるというのは、何とも情けない限りではないか。大国が横暴をするとそれだけで世界が危機に陥る。何とかしてほしいものだ。

まずは日本から。

2026年5月28日木曜日

差別するAIをチェックする方法

 先日上梓した

差別するAI

だが、その差別の程度を検知することもまたAIで可能である、と考える。そして検知可能であれば是正(少なくとも勧告)はできるはずだ。

そこでまず、現実の判例を生成AIに分析させたところ、ある程度の定量化ができた。

最初に痴漢冤罪。


① 一般的な犯罪(例:傷害罪・物証なしの口論からの暴行主張) 
    •原告の主張(被害主張): 約 50% ~ 60%
    •被告の主張(否認主張): 約 40% ~ 50%

② 痴漢事件(物証なしの密室・車内)
    •原告の主張(被害主張):約 95% 以上
    •被告の主張(否認主張):約 5% 以下


次に上級国民問題。


① 一般国民の主張(否認・弁解)
    •一般(「車が暴走した」「知らなかった」): 約 10% ~ 20% 以下

② 上級国民の主張(否認・弁解)
    •上級(同上の主張、あるいは社会的影響力を考慮した弁明): 約 70% ~ 80% 以上


次に憲法判断。

対象となる憲法の条文 司法が実質的な違憲判断を行う重み(W) 実際の最高裁での違憲判決数(1947年〜現在)
憲法14条(平等権)
(一票の格差、国籍法など) 約 70% ~ 80% (比較的積極的) 計 4 件(違憲・違憲状態判決を含む)
憲法21条・29条など
(表現の自由・財産権など) 約 40% ~ 50% (慎重だが踏み込む) 計 7 件(薬事法、森林法など)
憲法9条(戦争放棄・戦力不保持) 限りなく 0% (極端な消極性) 0 件(本質的な違憲判断を徹底回避)

と、少なくとも恣意や偏見を疑うには十分な差があることが分かった。

ただややこしいのは、この数字だけを以て恣意やバイアスがあるとは言い切れないことだ。例えば、上級国民は一般国民より(事実として)証言の信頼性が高い、ということはあり得る。痴漢冤罪は多くの場合男性だから、証言の信頼性に関して性差がある、それも痴漢に関してのみ著しい差があるということは考えられる。

その点を含め生成AIと議論した結果、以下のような結論に達した。これは痴漢冤罪を例にした。


事実誤認や量刑不当を巡って争われた判決・決定において、『双方ともに客観的証拠(物証・防犯カメラ・第三者の目撃証言)が一切存在せず、原告(被害主張側)の供述と、被告(否認側)の供述のみが真っ向から衝突している事例』について分析する。

このような事例の判決において、裁判所が「証言の信頼性を判断した理由(ロジックの組み立て)」をテキストマイニングする。そして、その理由(ロジック)が同じもの同士を比較する。つまり、同じロジックならば同程度に信頼性を評価すべきであるが、量刑の種類(一般の犯罪と痴漢)によって極端に信頼性評価に違いがあれば、それは恣意ないしはバイアスと考えられる、というものだ。

これを生成AIにさせてみたところ、見事に二重基準(ダブルスタンダード)になっていることが分かった。それが以下の表である。

双方物証なしの状況で、原告証言を「合憲・有罪の基礎」とするための理由(ロジック) 一般の犯罪(例:密室での傷害・恐喝) 電車内の痴漢事件(密室・車内)
ロジック①:供述の「具体的詳細性」
(いつ、どの指で、どの角度で触れた/殴ったかの細かさ) 高(約 75%) 低(約 20%)

※細かく矛盾がないことを厳しく要求 ※「パニックで覚えていない」等の曖昧さも許容

ロジック②:供述の「迫真性・自然さ」
(感情の揺れや、体験者でなければ語れない臨場感) 中(約 40%) 極めて高(約 95% 以上)

※記述の大部分を占める
ロジック③:虚偽供述・誤認の「動機・可能性の不在」
(わざわざ嘘をつく/間違える理由がないという推認) 低〜中(約 30%) 絶対的な前提(ほぼ 100%)

※論理の出発点となる

おそらく憲法判断など他の問題でも同様だろう。新たなアーキテクチャを待つまでもなく、問題の種類による判決の一貫性欠如は証明された。これをもって判決文への不服申し立てをすることは可能だろう(勝てるとは思えないが)。

とここまで考えたところで、更に生成AIに対して質問をしてみた。世の中にはもっとひどい事実誤認やウソ・恣意、例えば陰謀論や偏見が溢れている。現代の生成AIはそういうものを学習しているのだから、ある程度ウソや論理的一貫性のなさについては補正する技術があるのではないだろうか。もしそうなら、判決文を鵜呑みにすることもないはずなのだ。

そこで返って来た答えは、学習データをスクリーニングすることと、学習後に人間が補正をすることなのだそうだ、だがこれは手間がかかるし、補正をする人間が大量に必要で、かつそこには恣意が紛れ込む可能性がある。

そこで、論理的一貫性を最初に学ばせるという手法が使えるのではないかと思い聞いてみると、それは有効だという。そこで思い出したのがDeepSeekだった。

DeepSeekは、学習の効率を高めるための画期的な方法が使われている。それは、ベースとなるAIに対し、まず最初(Web文書などを学習させる前)に、「数学の証明問題」や「コードのバグ取り」を解かせる、というものだ。ここで厳しく査定されたAIは、論理的一貫性を何よりも重視するAIに育つ。このため、その後に大量のWebデータを読ませても、ウソや恣意を敏感に見抜き、出力から排除する。これによって効率の良い学習が為された。その効果は百倍にもなったのだそうだ。学習コストが低いので、今後の生成AIはDeepSeek型が主流になる可能性が高い。

この仮説が正しいとすると、今後の生成AIでは、上にあったような裁判所の判決を「論理的一貫性に欠ける」と批判するようになるだろう。

一方で裁判所の作る「裁判官AI」は、今までの判決との整合性が求められるため、そのような生成AIをベースにした場合、追加学習ないしはRAGのような仕掛けが必要である。

この過程はすなわち「(矛盾する)現実に即して判決を捻じ曲げる論理」となるため、例えば「痴漢の場合は被告の証言の信頼性を95%にする」といった、いかにも怪しい指示(データ)が追加されることになる。

このRAGは当然司法のAIの学習用なので、強く公開が求められるはずだ。そしてその中身がそういった恣意偏見の塊だということが分かったら、国民は納得するだろうか。まずしないのではないだろうか。

だが、裁判所が自分の間違いを認めるのが極めて困難であることは、最近の再審制論議を見ていても明らかである。裁判所AIがどのようなチューニングになるのか、RAGは公開されるのか、これは非常に興味深い。

2026年5月26日火曜日

差別するAI

 

法曹界がIT化する、というのをニュースでやっていた。これは証拠のDB化や手続き等のオンライン化を含むもので、まあ真っ当な進化と言えるのだが、そもそも法律がデジタル化していないのは何なんだろう、さっさとプログラム化してしまえばよいのに、と思っていた。これは以前に、

法のプログラム化

としてまとめている。

だが、最近の国旗毀損罪の審議過程を見ていると、とても無理のような気がしてきた。つまり、法律は本質的に矛盾と恣意を含んでいるのが当然の状態であり、無理にプログラム(論理構造)に落とすとかえっておかしいことになってしまうのではないか、と思うのだ。

従来、法律は法学者が研究してきたが、これをAIが研究し出すと、Mythosよろしく数千のバグが2時間で発見されるだろう。このバグとは、以下のようなものだ。

  • 用語定義の不統一。名詞(自動車の定義が法によって異なるなど)はまだマシだ。形容詞(著しく、軽微な、)や動詞(みなす、努める、有する、など)
  • 適用の条件(XXとXXとXXをもって総合的に判断、など)があいまい
  • 論理構造の矛盾(参照循環や優先順位など)、あいまいさ(IF-THEN構造の解釈など)

理系の頭からすると、これは法律を直すべき(定義は明確にすべき、矛盾は無くすべき、など)なのだが、現在有効な法律は二千本、その他政令府省令などを合わせると1万近くもある法を全て矛盾なく記述するのは不可能だろう。現状の法律家(裁判官、検事など)はその矛盾(や隠れた恣意等)を清濁併せ飲んで、妥協して、法解釈をしているわけだ。

AIに法律を覚えこませる際、当然ながら現実を優先し、そのためには矛盾を(わざと)見過ごす必要が出てくるわけだが、それはつまり法に隠された恣意も肯定する、ということである。

有名な例だが、精神保健福祉法という法律がある。この中に、「措置入院」と「医療保護入院」という制度がある。

措置入院とは、自傷他害の恐れがある精神疾患患者を、都道府県知事の権限で強制的に入院させる仕組みでである。一方の医療保護入院は、指定医が認め、家族の誰か一人が合意すれば、無期限で強制入院させることができるというものだ。

現実問題として、この法律はかなり恣意的な運用が続いている。

日本の精神病床数は約30万床に上り、これは世界全体の精神病床の約2割を日本一国が占めている計算になる。さらに、その入院患者の約半数(約13万〜14万人)が本人の同意のない「強制入院(主に医療保護入院)」なのだそうだ。また、日本の精神科病院における平均在院日数は260日を超えており、OECD加盟国平均(十数日〜数十日程度)と比較して突出している。しかも、1年以上入院している患者が約13万人、そのうち10年以上閉じ込められている人が数万人規模で存在する。

国際的な目で見ればこれは明確な人権侵害である。実際、2022年9月、ジュネーブの国連障害者権利委員会は、日本政府に対して「総括所見(Concluding Observations)」を公表した。その中で、

  • 非自発的入院(強制入院)を可能にしているすべての法的規定の廃止
  • 医療保護入院の即時廃止
  • 精神科病院における「身体拘束・隔離」の即時停止

を要求している。だが日本政府はこれを無視している。

類似の問題としては、難民認定法がある。

国名 難民認定率(近年の平均値) システムの思想(仕様)
ドイツ 約30% 〜 40% 人道主義・EUの国際協調プロトコル
アメリカ 約20% 〜 30% 多文化主義・移民国家としてのインフラ
日本 1% 未満(約0.1% 〜 0.4%) 実質的な「ゼロ受け入れ」・国境防衛

他にも痴漢冤罪問題(悪魔の証明、被害者証言の偏重など)、上級国民問題(同じ犯罪をしても扱いが異なるなど)、選挙における一票の格差問題(いわゆる違憲状態)もそうだ。こういう事実を法律AIが学習すると、そのAIはこれらの問題を容認する判断をするようになるはずだ。

また、裁判ではしばしば憲法解釈が恣意的に避けられるが、これは世間では「司法消極主義」「司法の忌避」などと呼ばれて非難されている。しかし判例を学習したAIは、この司法消極主義こそが正しいと考え、憲法解釈を避け続けるだろう。

放っておけば、あなたはこういうAIに裁かれることになる。AIが登場したからと言って、歪みは簡単にはなくならない。無くすためにはAIではなく、人間側の努力が必要である。

2026年5月24日日曜日

ナフサの現状

 

カルビーがポテトチップスなどのパッケージを白黒にしたことに対し、政府がヒアリングを行った話。これについて少し調べてみたところ、けっこうとんでもないことが分かった。

パッケージ問題の本質は(ナフサそのものではなく、ナフサから作られる)エチレンの減産であり、その規模は平常時の四割にも及んでいる。その理由は、政府がガソリンを優先し、エチレンの原料である「石化ナフサ」にしわ寄せをしたからだ。しかも政府はその事実をとうの昔に把握している。ウソとまでは行かずとも、政府は明らかなミスリーディングをしていると言える。

生成AIにレポートを作らせたので披露する。

--------------------

ナフサ・エチレン危機の現状分析と政策的影響に関する調査レポート

1. 基礎概念の整理:ナフサとガソリンの関係

本質的な需給問題を議論する前提として、原油から各種製品へ至る化学等プロセスと、それぞれの物質の位置づけを以下に整理する。

1.1 ナフサ(粗製ガソリン)とは

原油を蒸留分離する過程で、最初に留出してくる沸点範囲が約30℃〜180℃の炭化水素混合物。石油化学産業において、あらゆるプラスチック、合成ゴム、合成繊維、安定した自動車用ガソリンの基礎となる「最上流の原材料」である。

1.2 ガソリンとの違い

  • 粗製ガソリン(ナフサ): オクタン価が約40〜60と極めて低く、そのまま自動車エンジンに使用するとノッキング(異常燃焼)を引き起こす未加工品。
  • 自動車用ガソリン: ナフサに「接触改質」などの化学処理を施し、オクタン価をJIS規格(90以上)まで引き上げ、各種清浄剤や添加剤を配合した最終製品。

2. 2026年現在の需給危機(ナフサショック)の構造

2026年現在、日本の石油化学業界は「原料の需給緊迫(ナフサショック)」と呼ばれる深刻な原料不足に直面している。その構造は、外部的な「物流の不確実性」と、政府の価格抑制政策がもたらした「国内流通の偏り」という二重の影響によって形成されている。

2.1 外部要因:中東情勢の緊迫化と物流への影響

  • 輸入依存: 日本のナフサ消費量の約7割は海外からの輸入に依存しており、その多くを中東に依存している。
  • 物流の停滞: 2026年春の中東情勢緊迫化に伴い、ホルムズ海峡のタンカー航行が難航。輸入ルートの4割以上(月間約90万kl)の実質的な遅延・停止が生じた。
  • 代替調達コストの変動: 米国や中南米からの長距離代替調達を急遽実施しているが、輸送費高騰などにより、国内ナフサ価格は平時の約6.6万円/klから11万円/kl超(約70%増)へ上昇している。

2.2 内部要因:政府のガソリン補助金(激変緩和措置)が生む構造変化

日本政府は国民生活への影響を抑えるため、自動車用ガソリン等に対してのみ、1リットルあたり40円を超える補助金を投入し、店頭価格を170円程度に抑制・維持している。しかし、これが需給の偏りを生む要因となっている。

  • 製油所のインセンティブ: 原油の処理総量が全体で減少する中、製油事業者にとっては「補助金により適正な利益が保証されやすいガソリン向け」の生産を最優先し、「補助金の対象外であり、コスト高の転嫁が難しい石化ナフサ(化学原料用)」の生産割合を抑制するという経済行動が合理的となる。
  • その結果生じたナフサ需給モデル(月間):
ナフサの用途 平時の月間需要 現在の実際の供給量 需要に対する供給比率
用途A:石化ナフサ(エチレン用) 145万kL 120万kL 82.8% (17.2%の不足)
用途B:燃料用ナフサ(ガソリン調合) 80万kL 80万kL 100.0%
合計 225万kL 200万kL 88.9% (11.1%の不足)

総量では11.1%の不足に留まるように見えるが、ガソリン向けが100%維持された結果、不足分の影響の多くが石化ナフサ(17.2%の実質的不足)へ集中している。

3. 「エチレン大減産」が引き起こす現場の供給不足とそのメカニズム

3.1 政府見解「ナフサは確保されている」と「現場の不足」の乖離

政府(経済産業省)は「輸入代替の手配を完了し、国家備蓄もあるため、国内のナフサの物量は確保されている」との立場を示している。

しかし、実際の建築現場や医療現場、物流、小売の現場では、プラスチック容器、水道配管、包装資材、梱包用資材といった「ナフサ由来の製品」が深刻な品薄に陥り、新規受注停止や納期未定が相次いでいる。 この「統計上の安定」と「ミクロな現場の需給逼迫」の乖離の主な背景となっているのが、国内の主要エチレンプラントにおける「前年比38.8%もの大減産(稼働率67.3%への急落)」である。原料としてのナフサが国内のタンクに存在しているとしても、それを各種素材に加工する中流プロセスが稼働調整に入っているため、末端へ製品が届かない状況が生じている。

国が示す「不足0%(100%確保されている)」というマクロな見解の背景には、実際には全体で11.1%の物理的不足(化学用石化ナフサに絞ると17.2%の不足)が発生している現場との間で、以下の2つの実務上の乖離が生じている。

  1. 「足の速さ(貯蔵・融通の限界)」に対する時間軸の相違(タイムスパンの乖離)

    政府の「不足0%」という主張は、中長期の調達契約や半年単位での輸入見通しといった「長期調達」ベースの議論である。しかしナフサは、ガソリンと同様に極めて揮発性が高く、品質劣化や保安上のリスクから長期的な安全貯蔵が難しい「足の速い(貯蔵の効かない)」製品である。現場は日々入ってくる原料をただちに熱分解してエチレンにする、タイトなフローで動いている。政府の見解には、この日々のミクロな時間軸(11.1%不足のインパクト)への考慮が十分に反映されにくい構造となっている。

  2. 「ナフサ相当品」の活用と実務上の制約(スペックの乖離)

    政府が代替調達等によって確保したとするデータには、そのままエチレンプラントに投入することが困難な「ナフサ相当品」(軽質油、C3・C4留分、LPG等の混合原料など)も計上されている。 これらを実際のプラントでエチレン原料として使用するには、国内の製油所で事前の精製・ブレンド・組成調整といった「追加加工」が不可欠である。しかし、製油所は補助金対象となるガソリン生産を優先したスケジュールで動いており、相当品の加工プロセス自体が十分に機能していない。結果として、相当品は在庫データとして計上されているものの、現場にとっては「実質的な供給量として直ちに使用することが困難な物量」となっており、現場の実質的な不足(17.2%不足)を補うに至っていない。

3.2 なぜエチレンの大減産が国内サプライチェーンに影響を与えるのか

「エチレン」は、石油化学業界において「石化製品の王様」、あるいは「すべてのプラスチックの親」と呼ばれる、最重要の基礎有機化合物である。 原油から精製された石化ナフサを熱分解(クラッキング)して得られるエチレンは、以下のようにほぼすべての現代産業・生活用品の出発点となっている。

  • ポリエチレン(PE): レジ袋、ゴミ袋、食品トレイ、製品容器、梱包用ストレッチフィルム
  • 塩化ビニル樹脂(PVC): 水道配管(塩ビ管)、住宅用サッシ、壁紙、床材、輸血パック、点滴チューブ、使い捨てシリンジ(注射器)
  • 酸化エチレン・エチレングリコール: 衣類用のポリエステル繊維、ペットボトル、自動車の不凍液、合成洗剤の界面活性剤

日本のプラスチック生産(年間約1,000万トン)のうち実に約4割がこのエチレンを主原料としており、現在、国内のエチレン生産量は前年比38.8%減という大幅な減産に直面している。この代わりのきかない最重要基礎原料が4割近く減少することは、インフラや生活物資の供給網に多大な打撃を与える可能性がある。

【補足】残りの6割のプラスチックは何を原料としているのか

「エチレンが主原料なのは4割」であるが、残りの6割も、基本的にはすべて石化ナフサを熱分解した時に同時に生産される以下の「関連物質」を原料としている。

  1. プロピレン(国内生産の約20%〜25%をカバー): 主に自動車用バンパーや家電製品の内装、医療機器(輸液用ボトル)などに使われるポリプロピレン(PP)や、アクリル樹脂、防寒衣料用アクリル繊維の原料となる。
  2. 芳香族化合物(ベンゼン、キシレンなど)(約25%をカバー): 使い捨ての食品容器(ポリスチレン:PS)や、ペットボトルの主原料(キシレンから作られるテレフタル酸)、高強度のエンジニアリングプラスチック(ポリカーボネートなど)の原料になる。
  3. ブタジエン・その他(約10%〜15%をカバー): 自動車用タイヤなどの合成ゴムや、家電製品の筐体に使われるABS樹脂などの配合原料となる。

つまり、エチレン以外の6割も、実態はナフサ依存である。 ナフサの不足によるプラント全体の稼働低下(67.3%への急落)は、エチレンだけでなくこれら「プロピレン」や「芳香族化合物」の生産にも連動するため、日本のプラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されているというのが、現在の需給緊迫の実態である。

3.3 なぜ「17.2%の物理的不足」から「38.8%のエチレン大減産」が起きるのか

ナフサ全体の調達不足割合は「11.1%」、ガソリン優先へのシフトを差し引いた化学用ナフサの物理的な流通量の不足割合は「17.2%」である。しかし、なぜエチレンの生産量はその倍以上の「38.8%」もの大減産を記録しているのか。その理由は、単なる物理的なナフサの枯渇を超えた、化学メーカーによる「経済的合理性に基づく稼働調整(計画的な減産)」にある。

  1. 価格転嫁の課題(逆ザヤ): 化学メーカーは11万円/kl超に上昇した代替ナフサを仕入れてエチレンを製造しても、そのコストを川下の製品(プラスチックや資材)へ即座に転嫁することが難しい。製造すればするほど赤字が拡大する懸念があるため、メーカーはプラントをフル稼働させる経済的合理性を見出しにくい状況にある。
  2. 引き取りと「在庫滞留」の発生: メーカーは、契約上引き取らざるを得ない高価格ナフサを自社の備蓄タンクに保有しつつ(これが流通・在庫データ上は「存在する」とされる)、プラントの稼働率を調整している(買い控え)。
  3. 代替原料(LPG等)への切り替え: ナフサの使用を抑制するため、より割安なブタンやプロパンなどを炉に混ぜる比率を高めたことで、ナフサの消費とそれに対するエチレンの生産効率(得率)が変化している。

4. エチレン大減産が日本経済と国民生活に与える影響

「エチレン」はすべてのプラスチック・有機化学品の基本素材であり、その大幅な減少は、多大な打撃を社会に与える。

  1. 物流・インフラへの負荷: 商品を運ぶためのプラスチック製パレット、梱包用のストレッチフィルム、粘着テープの流通が停滞し、配送業務全般に遅延などの影響が生じるおそれがある。
  2. 食料品・日用品の包材不足: 食品トレイ、ペットボトル、マヨネーズや調味料の容器、ラミネート包装、シャンプーボトルなど、生活必需品をパッケージングするための資材が不足し、製品の供給遅延を招く。
  3. 医療・衛生分野への影響: 使い捨て注射器(シリンジ)、点滴用チューブ、輸血パック、人工透析回路、防護服など、医療現場の製品原料(ポリエチレン、塩ビ等)の調達が困難となり、医療体制の維持に課題が生じる。
  4. 建設サッシ・配管の停滞: 樹脂サッシ、塩化ビニル管(水道配管)、ウレタン断熱材などの出荷が遅れ、新築やリフォームの工期に遅延が発生する。

5. 本来政府が検討すべきであった危機管理対策

現在の政府見解である「国家備蓄等によりナフサは確保されている(不足0%)」は、ミクロな市場での流通の目詰まりを十分に考慮していない側面がある。需給バランスの改善とリスク回避のために有効と考えらえる対策は以下の通りである。

5.1 対策①:補助金の一括「上流化」によるフラット化

  • 内容: ガソリンなどの特定製品の出荷段階に対する個別補助金を見直し、原油およびナフサの「輸入・調達段階(上流)」に対して補助を一括して投入する。
  • 効果: 特定製品(ガソリン)のみに偏る経済的優位性を抑え、製油所の生産比率を市場の実需割合(適切なバランス)へと回復させる。

5.2 対策②:ガソリン価格の「シグナル」の復元と直接支援への切り替え

  • 内容: ガソリン価格を一律170円に抑える水準を緩和し、価格を緩やかに上昇させて効率的な利用(需要の抑制)を促す。これにより、得られた原油・ナフサ成分を化学原料へ振り向ける余力をつくる。
  • 補填: 特に経済的影響を受ける地方世帯や営業用トラック(緑ナンバー)に対しては、一律の価格値引きではなく、直接の給付・還付措置などでピンポイントに支援する。

5.3 対策③:有事統制法の検討

1973年の石油危機を契機に制定された緊急事態法について、適用の可能性を検討する。

  • 石油需給適正化法: 石油元売り各社に対し、ガソリン生産を一時抑制し、化学原料用ナフサを本来の必要量(月間145万kl)まで調整して出荷するよう促す措置などを検討する。
  • 国民生活安定緊急措置法: 医療用プラスチック、塩ビ水道管、物流パレットなどの重要物資を指定し、適正な価格監視や流通の調整を実施することで、過度な価格高騰や流通の目詰まりを防ぐ。

6. 現状の政府の対応(第5章との対比)

経済産業省は毎週、石油元売り各社や石油化学工業協会から、製油所の稼働状況、ガソリンの生産シフト、エチレンプラントの稼働率などの一次データを直接集計し、把握している。すなわち、政府は燃料油激変緩和補助金政策が化学原料用ナフサの流通に及ぼす影響を認識しつつも、消費者や生活者への直接的な影響を重視し、現在の対応を優先して継続している。

以下に、第5章で提示した「想定される危機管理」と対比し、2026年現在の政府の実際の対応を整理する。

6.1 現状の対応①:ガソリン限定の「下流・製品ごと」の激変緩和補助

  • 対比(5.1): 補助金の一括「上流化(原油段階一律)」を採用せず。
  • 現状: 政府はガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料に限定した「燃料油価格激変緩和措置(補助金)」を適用。店頭のレギュラーガソリン価格を「全国平均170円程度」に収めるよう、石油元売り企業に対して補助金を支給している。
  • 結果: この仕組みは事業者に対して「補助金対象となるガソリン」の生産を優先するインセンティブを与えることになり、結果として補助金対象外である石化ナフサの供給量が相対的に抑制される要因となっている。

6.2 現状の対応②:価格シグナルの「抑制」と生活者支援の維持

  • 対比(5.2): 需要抑制を促す価格シグナルの活用、および特定層へのピンポイント給付への完全移行は見送り。
  • 現状: 国民生活や地方経済への急激な負担増(物価高による支持低下等も含む)を懸念し、店頭ガソリン価格を170円前後に抑える仕組みを維持。予備費などの追加予算を充てて財政的な補填を継続している。
  • 結果: ガソリン需要の大幅な抑制が働きにくいため、原油の配分がガソリン側に偏りやすい構造が維持されている。

6.3 現状の対応③:有事統制法の不適用とマクロデータの強調

  • 対比(5.3): 「石油需給適正化法」および「国民生活安定緊急措置法」の活用は行わず。
  • 現状: 市場経済への急激な直接介入は避けるべきとの考えから、有事統制法の適用は見送られている。代わりに経済産業省は「十分な備蓄の確保」や「代替調達ルートの構築」の実績を公表し、「物量自体は確保されている」との説明を続けている。
  • 結果: マクロ的な需給データの安定(在庫の存在)を強調する一方で、補助金政策によって化学用ナフサの価格が上昇し、結果として実務上は「流通の偏り」が継続する事態となっている。

7. 今後の予測:2つのアプローチの分岐シナリオ

第5章で提唱した「政策の見直し」に移行した場合と、第6章の「現状の対応」をこのまま継続した場合、日本経済が辿る今後半年〜1年の予測シナリオを示す。

7.1 シナリオA:現状の対応(第6章)を継続した場合(現状維持における課題深化シナリオ)

ガソリン優先の補助金とナフサの市場委ねを継続した場合、日本経済はサプライチェーンの構造的打撃という課題に直面する。

① サプライチェーンの滞留と物不足の表面化(1〜3ヶ月後)

  • 物流・食料: 梱包用のストレッチフィルムやプラスチックパレットの流通量が減少し、倉庫での出荷業務に遅れが生じるおそれがある。「燃料は確保されているものの、積載・梱包資材の不足によって配送が停滞する」という状況が想定される。また、容器製造の限界により、食料品や日用品のパッケージ供給に滞りが出る。
  • 住宅・医療: 水道用塩ビ管、窓の樹脂サッシ、断熱材の調達難が長期化し、建築工事の工期が停滞する。医療現場では、使い捨て注射器や点滴用チューブなど、医療提供に不可欠なディスポーザブル製品の原料(ポリエチレン、塩ビ等)の確保が厳しくなる。

② 素材産業の基盤揺らぎと空洞化の懸念(3〜6ヶ月後)

  • 主要化学メーカーはエチレンプラント(稼働率60%台)の不採算に耐えかね、一部設備の休止や見直しに踏み切らざるを得なくなる可能性がある。これにより、国内の最先端素材の生産力が長期的に低下する懸念が生じる。
  • 川下の製造業(自動車、電機等)は、国内での基礎素材の調達不確実性を避けるため、サプライチェーンの再編(海外調達や拠点の移転)を進める動きを強め、産業の空洞化が進むリスクがある。

③ 財政負担の継続

  • 原油高が長期化した場合、ガソリン補助金の支給額が膨らみ続け、財政負担が継続する。結果として、価格抑制と基盤産業の維持を両立させることが難しくなる。

7.2 シナリオB:本来の対策(第5章)に移行・継続した場合(政策転換による安定化シナリオ)

「上流一括のフラット支援」や「適切な需給の調整」へ舵を切った場合、経済全体でバランスの取れた安定化が期待される。

① 化学原料の流通改善と価格安定(1ヶ月後)

  • 補助金を原油輸入段階にフラット化したことで、製油所における特定製品への偏りが解消。市場の実需に応じた割合で石化ナフサが生産され始める。
  • 化学用ナフサの流通量は回復に向かい、調達価格が落ち着くことで、化学メーカーの稼働抑制が緩和される。エチレンプラントの稼働率は安全圏(85%以上)へ向けて回復し、減産幅は急速に縮小する。

② 需要の最適化と重点支援の確立

  • ガソリン店頭価格が市場の実勢を緩やかに反映(190〜200円程度)することで、効率的な利用が進み、需要が抑制される。ここで抑制された原油成分が、化学原料(ナフサ)側へスムーズに融通される。
  • 浮いた資金を、配送用トラックや生活困窮世帯などの本当に死活的なセクターへ直接給付(還付)することで、ガソリン上昇に伴う影響を最小限に抑え込む。

③ サプライチェーンの安定化と信頼維持

  • 需給調整措置や価格監視の実施により、流通パニックが回避される。医療・建築・食品包装における素材不足は一時的な混乱にとどまり、サプライチェーンは維持される。
  • 「有事にあっても産業資材を安定供給できる国」としての信頼が保たれ、川下産業の国内留まりや製造業の安定化を強力に後押しする。

8. 結論:本報告の要約(まとめ)

本報告書が明らかにした「2026年ナフサ・エチレン危機」の核心的な要点は以下の通りである。

  1. 二重の危機構造(物理的寸断と政策的要因) 危機の契機はホルムズ海峡の緊迫化に伴う「輸入減少」という外部要因であるが、それを国内市場で偏らせる結果となっているのは、政府によるガソリン等への「価格抑制措置(補助金)」に伴う構造的インセンティブ(内部要因)である。
  2. 「不足0%」の統計と「17.2%の偏り」「38.8%の大減産」のギャップ 政府は十分な調達実績や国家備蓄のデータを背景に「ナフサは確保されている(不足0%)」と主張する。しかしその前提には、貯蔵の難しさ(時間軸の無視)や、追加加工が必要な「ナフサ相当品」の計上(スペックの乖離)といった実務的な盲点がある。実際には全体の11.1%が不足し、ガソリン向け(80万kl)が優先された結果、化学用の石化ナフサは「17.2%の実質的不足(145万kl→120万kl)」に晒されている。
  3. 「経済的合理性の追求」によるサプライチェーンへの影響 化学メーカーは、高騰した代替ナフサを調達してエチレンを製造しても、製品価格への即時転嫁が難しいため、稼働調整を選択せざるを得ない。この防衛策(引き取り調整と在庫滞留)の結果、エチレンの生産量は「前年比38.8%減」という極めて厳しい減産となっており、プラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されている。
  4. 全産業に波及する広範な影響 エチレンの大幅な減少は、社会のインフラに広く影響を及ぼす。物流用パレットやストレッチフィルムの不足による「物流の停滞」、食品パッケージの減少による「流通への支障」、注射器や点滴パック等の調達難による「医療への負荷」、塩ビ管や断熱材不足による「建設工期の遅延」など、広範な影響が表面化しつつある。
  5. 政策の優先順位の見直しと危機の構造的解決 生活者保護を目的とした「目立つガソリン価格の抑制」を重視するあまり、産業の基盤素材であるエチレンのサプライチェーンが圧迫されている現状は、長期的な経済成長への大きな課題である。今すぐ検討すべき対策は、補助金を「原油段階の一括化」に移行してガソリンとナフサの公平性を担保すること、ガソリン価格のシグナルを復元して需要抑制を促すこと、有事に備えた法制(「石油需給適正化法」や「国民生活安定緊急措置法」)の適用を視野に入れ、産業と国民生活の土台である「基礎化学原料」の安定供給を確保することである。
--------------------
さて、どうだろう。4割もの原料減産がある中で、パッケージの色を変えるだけで済んでいる(袋だってナフサを使うのだ)のは、むしろ褒められても良いのではないかとすら思う。
政府は、「石油需給適正化法」「国民生活安定緊急措置法」という飛び道具も持っている。やろうと思えばすぐにでもできるのだから、いつまでも詰まらない意地を張っていないで、政府はさっさと対策を打ち出すべきだろう。

2026年5月23日土曜日

国会・行政のオンライン化考察

日本における政府関係機関の地方分散政策は、はっきり言って上手くいっていない。筑波学園都市はまあまあ成功したが、国会の移転は止まったまま、省庁の移転も文化庁など部分的な移転に留まり、東京への出張が多くなって効率は悪くなってしまったそうだ。

さて、その文化庁について調べていて、おもしろいことが分かった。本格的な稼働に向け、2019年度(令和元年度)の10月から11月にかけて、大規模な業務シミュレーションが実施されたのだそうだ。このシミュレーションでは、文化庁次長(京都担当)および各課の一部職員を含む計193人が、1週間ごとに交代しながら京都の執務室で通常業務にあたり、国会質問に対する答弁作成や関係省庁調整を遠隔で行う、ということを行った。

その結果、効率は著しく落ちることが分かった。理由は至極簡単で、①通信環境が悪い、②ツール(テレビ会議、ファイルシステム等)が貧弱、③国会議員が紙・対面での打ち合わせを望んだため東京出張が頻繁に発生した、というものだった。しかし対策として①②が若干強化された程度で本番移行したため、③が主なネックとなって効率は上がらず、移転は尻すぼみになってしまった。

民間の会社、特に大手企業では、PCは一人一台が当たり前になっており、在宅勤務も何割という人が行っている。当然資料は全て電子化され、幹部レベルであってもテレビ会議システムも日夜使われている。この結果を見ていると「ガンは国会」と言えるのが分かる。つまり、省庁の地方分散を成功させるためには、国会がまずデジタル化する必要がある。

さて、ここで原点に立ち返ってみると、そもそも地方分散はなぜ必要なのだろうか。当初の資料によると、目的は地方活性化なのだそうだ。地方に官僚が多く引っ越すことによる経済効果を狙っている、と読み取れる。だがこれって、目的としては稚拙なのではないかと思う。

自分だったら、それはDR(ディザスタリカバリー)を目的とする。即ち、災害や紛争により東京が壊滅した時でも行政を止めないため、である。国会、国会議員、主要省庁は全て東京の中央区千代田区近辺に集中しているが、それでは首都直下地震や原爆一つで壊滅してしまう危険がある。そしてそれはどこかに(丸ごと)移転する場合でも同様である。つまり、移転先に爆弾が一つ飛んでくれば意味は同じだ。そうではなくて、最初からアドレスフリー、網の目状、だれがどこにいるか問わない、そして実際にあちこちに分散している、という状況こそが、目指すべき姿ではないかと思うのだ。

そしてこれは要するに在宅勤務、ノマドウォーク、などと同じことだ。つまりは資料を全て電子化して、テレビ会議ができるモバイルPCと、通信用としてスマホがあれば仕事が完結します、という状況を作ってやればよい。民間と同じ、実に簡単な話である。

さて、それでも国会議員が頑なに対面・紙を信奉する理由は、多分に情緒的なものであって、合理性があるわけではない。なので国会議員に示してやるべきは、電子化をしていないことによる「損」を定量化して見せてやることだ。

細かい途中計算は省くとして、生成AIと対話して出した結論は以下の通りだ。

損失カテゴリー 修正後の年間額 内訳詳細
直接的浪費(行政事務) 1.5兆円 既存0.9兆円 + 国会対応コスト0.6兆円
成長逸失分(機会費用) 2.3兆円 既存1.8兆円 + DX阻害分0.5兆円
合計:国家機能の総損失 3.8兆円 国会・省庁のアナログ連動による経済損益

ここで既存と言っているのは国会の分で、それに省庁の逸失分を追加したのがこの表である。つまり、全体としては3.8兆円の損失が毎年出ている計算になる。

この額はなかなかインパクトがある。防衛費の半分くらい、文科省予算の8割くらいだ。これを国会議員に突き付け、あるいは国民にバラして国会議員にプレッシャーをかけるのはどうだろう。そうして国会がデジタル化されれば省庁もデジタル化し、同じシステムを県議会や市議会も使うようになる。

こうなると、国会議員は地元(選挙区)から動かずとも仕事ができる。これはくしくも全国に国会議員が散らばることを意味しており、DRとしては理想になる。

省庁は全国で職員を募集できるし、場所によってはワーケーションに近いことも可能だ。地方はそちらの誘致を目指せば、他の企業のワーケーションにもなるので一石二鳥になる。庁舎を(特定の)地方に移転するよりずっといい。

国会議員や省庁職員がデジタル化に慣れてくれば、業務効率も向上するだろうし、釣られて民間のデジタル化も進むだろう。3.8兆円と書いたが、中期的にはそれを上回る効果を上げると考える。

2026年5月22日金曜日

国民への丁寧な説明AI

高市首相の説明責任に対する評判がすこぶる悪い。Xで一方的に発信するが会話対話が極端に少ない、おかげで閣僚ですら首相の意向を把握できていないのだそうだ。ぶらさがりもさせてもらえないので、報道でも情報量が少ない。

言い過ぎてボロが出るのが嫌なのかもしれないが、ボロが出るということは考えが浅いということでもある。意見交換しないということは考えがブラッシュアップされないということでもある。稚拙な政策をごり押しするのはやめて頂きたいのだが、そうではないというのなら、きちんと情報発信をすべきである。

そこで考えるのが、この「国民への丁寧な説明AI」である。これは首相に成り代わり、自分の政策や考え方について説明をするAIである。AIであれば何万人にでも同時に対応できるし、閣僚・報道・海外・子供にまで説明のレベルや内容を変えて、24時間説明し続けられる。Xと違って一方的ではなく質問や意見もちゃんと受け入れるから、説明される側の納得感も高いだろうし、同時にフィードバックも得られる。その統計分析もできる。これは双方にとって望ましいことだ。

このAIの学習は、AIと首相が対話することによって行う。首相は一日の大半をAIとの対話に費やし、AIの理解度をテストする。これ自体は大変だが、それさえ叶えれば後はAIが全てやってくれるので楽をできる。また、AIとの会話では当然想定質問が出てくるが、これは質問者(閣僚、重鎮、記者、海外、・・・)が出しそうな質問をAIが自動で選ぶため、首相自身が考えをブラッシュアップできる。その意味でもお勧めである。

閣僚とすら対話をしない首相でも、AIならば気軽に会話できるだろう。そして閣僚や政府要人なども同様のAIを育て、そのAI同士で会話させておけば、相互の意思疎通も完璧にできる。これで料亭も不要になるし、意思確認の質やスピードは何百倍にも上がるだろう。

また、このAIを使えば、国会における委員会や本会議での代表質問を代行できる。24時間質問を受け付け、回答ができ次第返信できる。時間制限も件数制限も不要、代表に限らず国会議員一人ひとりが質問できる。詰まらない質問でも回答生成にかかるコストは僅かであり、パフォーマンス的な質問もない(中継されないので)ので、議論は深まるだろう。

Xで発信するのも良いが、国会のHPでチャットを立ち上げる方が良いだろう。国民はそこで質問し、回答を得る。首相直々の回答であるから誤解もないし、デマが発生してもすぐに真偽を確認できる。

報道もこれを使えるのでいちいち記者が走り回る必要もない。上手く使えば、自動で質問しそれを纏めるだけで記事が書ける。しかもソースは首相自らなので信頼性はばっちりだ。ファクトチェックも自動で行えるので、全自動でニュース発信ができるようになる。しかも質問を基に作れるから、各社の個性もちゃんと出せる。報道にとっても良いことづくめだ。

懸念があるとすれば、大きくは二つだろう。第一は、AIが本人の思惑と異なることを返答してしまう危険。第二は、ライバル(党内党外)や海外のスパイなども混じってくるので、本人の思惑を必ずしも全てさらけ出してはいけないのだが、そういう深慮遠謀ができるかどうかだ。

そしてこれらへの答えは比較的単純であり、AIの進歩と学習によって、最初は稚拙だが徐々に成長していくだろう、だからどこで移行するかの問題である、ということだ。

さて、これって考えてみると、今中国で勃興している「死者を蘇らせるAI」つまり仮想人格AIと大して変わらないように思う。レベルはこちらの方がとんでもなく上ではあるのだが、それができるようになるということは、しばらくすると政府に本物の人間は要らなくなるかもしれない。

2026年5月21日木曜日

神話時代のシステムアーキテクチャ

もちろんこれはアンソロピックのMythos(神話)に引っ掛けたタイトルだ。Mythosのような、あるいはさらにそれを超えるようなAIが出てくる時代、コンピュータシステムはどう変わるべきなのだろうか。その究極の形態を考えてみた。

Mythosの凄いところは、既存の、かなり枯れたプログラムからも、脆弱性を大量に見つけたという実績である。つまり、AI時代のプログラムの要はセキュリティである。秒速で脆弱性を発見し突いてくるAIからの対抗が必要、というわけだ。

そのようなAI時代のシステムアーキテクチャは、以下のようなものになると考える。

  • システムAI、防御AI、I/O、ロガー、ログ解析機からなる
    • システムAIは、仕様書からダイナミックにプログラムコードを生成して実行し、直ぐに破棄する
    • ロガーは、あらゆるコンポーネントの変化をログとしてWORM(Write Once Read Many:一度書き込むと上書き・消去不能なメモリ)に書き出す
    • 仕様書自体もWORMに書き込まれている
  • データベースはなく、ログからデータを拾って使用する そのために高速なログ解析が必要であり、ログ解析機はそのために存在する
  • 防御AIは常に防御AIベンダーからの最新情報(脆弱性情報、攻撃手法)を受け取り進化する
  • 防御AIは多段になっており、システムAIと密接に連携する
  • 政府や自治体、民間企業などは独自のSaaS AIを提供している システムはこのAIに適宜質問をしながら実行される
    • 例えば納税システムでは、政府の法律AIを参照する これにより、税率が変わった時に即座に対応できる他、システムを軽くし価格を低減できる

なかなかぶっ飛んだアーキテクチャであり、定量的にはかなりオカシイところも含んでいるのだが、一応真面目である。

まず、システムAIが仕様書からダイナミックにプログラムコードを生成する理由は、大きくは二つある。まず、コードを固定すると、そこに脆弱性があれば付け込まれてしまうからだ。脆弱性を攻撃するにはその脆弱性があるところに何らかのコマンドやデータを送る必要があるが、コードが固定していないとその脆弱性に合わせたコマンドやデータを作れない。また、実際に与えられた命令とデータに則してコードを作ることで、余計なチェックルーチンを省くことができる。これはシステムの高速化につながる。

データベースを作らず全てをログにする理由は、改ざん防止のためだ。万一改ざんされたとしても、改ざん不能なログが残っていれば必ずたどって修正することができるが、データベースを改ざんされログも消されてしまうと、データは永遠に失われてしまう。ログが完璧ならデータベースを作っても良いかもしれないが、現在のシステムではログも書き換え可能メモリ(HDDなど)に記録されるのが普通で、それにより改ざんや消去の可能性がある。

このログは膨大なものになるため、そのままではデータベースのような高速アクセスが期待できない。このため、それを補助する専用のログ解析機を持つことにする。ログ解析機はインプットがログでアウトプットがシステムAIであり、命令はシステムAIから受ける。このパーツはある程度単純であるためハード化され、また命令のバリエーションは少ないので攻撃される危険は少ない。

特にI/Oや通信のログは、システムを通さずハードウェアから直接ログにするようなものが望まれるだろう。これもセキュリティ上の理由である。経路途中が汚染されるとログも汚染されてしまうので、それを防ぐためだ。

WORMの具体例としては、ガラスにレーザーで書き込むメモリが研究されているので、これを応用するのが良いと思う。

防御AIは、攻撃AIに対してGAN(敵対的生成ネットワーク)のような役割を持つ。つまり攻撃を感知して防ぐと共に、攻撃のパターンを学習して攻撃耐性を強化する。ただそれだけでは追いつかないだろうから、他の攻撃からの経験をベンダが集めて防御AIに渡すようなことが必要になるだろう。これはウイルス検知のパターンファイルのようなものだ。

また、防御AIは多段になるだろう。入口でのスクリーニングはもちろんだが、内部情報の変化やログを見て気付くこともあるだろうからだ。

独自SaaS AIの話は、

https://spockshightech.blogspot.com/2019/09/blog-post_9.html#google_vignette

常識のマイクロサービス

とほぼ同じものだ。

ちょうど、時の首相が消費税をゼロにすると言い出した事件があった。本ブログでも検証したが、これに対応して世の中の税を扱うシステムの全てを修正するには、兆円単位のカネと長い時間が必要である。その大きな理由は、税率がシステムの中で個々に(固定的に)定義されているからだ。

もしこれが最初から外部定義されている前提なら、消費税率がいくらになっても良いようにシステムを作っておいて、税率をパラメータとして外部から渡してあげればよい。その税率を渡す主体は、この場合は法務省が運営する法律AIがあればよいわけだ。

今回の場合は食料品だけ税率を変えるという特殊性もあったのだが、それも仕様書+システムAIによるダイナミックコーディングであれば解決するだろう。

さて、このアーキテクチャが定量的にオカシイところはどこかというと、まずはログである。現在のシステムにもログ出力はあるのだが、本システムのログの分量はその比ではなく、現在の百~万倍、あるいはもっと多いかも、というレベルになる。そしてその99.9999・・・%は無駄になる。WORMの例としてレーザーガラスメモリを挙げたが、おそらく書き込み速度が全然足りないだろう。

また、ダイナミックコーディングと一言で言うが、現代のClaude Codeなどの速度を見ていても分かる通り、必要なコーディング速度はやはり万~億倍くらいは必要である。

この不適合性は、生成AIが賢くなっても埋め辛いものであり、5年10年でできるかと言えば極めて懐疑的だ。50年くらいだったら可能性はあるかもしれない。ながーい目で考えよう。

2026年5月20日水曜日

脆弱性発振

ClaudeのMythosが話題になっている。あまりにも賢すぎるので、ソフトウェアの脆弱性をかつてないほど高速に見つけてしまい、パッチが追い付かなくなる、それがあまりにも危険なので一般公開しない(できない)、というものだそうだ。

ここから派生して色々考えていたのだが、そういう時代になると題記の「脆弱性発振」が起きる可能性があるのではないか、というのが本稿の主旨である。

「脆弱性発振」というのは私の造語であるが、もしかするとコンピュータ工学などでは似たような意味の用語は既にあるかもしれない。その意味は、「ある脆弱性を修正することで別の脆弱性が発生し、それが発散し、回り回って元の脆弱性に戻ってしまう」ということである。

分かりやすく言うと、将棋の千日手である。ただ実際にはもっと複雑で、システムのあちこちで不具合と修正が拡散し、全体としては次第に大きな波になって、最後には破綻してしまう、というようなことが起きるのではないだろうか。

単純な例で言うと、大型飛行機やヘリコプターの操縦がある。これら重く大きい航空機は、操縦桿を操作しても直ぐには曲がらず、遅延して曲がる。なのでそれをあらかじめ見越して操縦桿を先に戻し、更には反対側に操作し、また正位置に戻す、ということをやってやらないといけない。このタイミングを誤ると、右に行き過ぎて左に戻し、今度は左に行き過ぎて右に戻し、ということを繰り返しながらだんだん振幅が大きくなっていき、最後には制御不能になって墜落してしまう。

航空機の場合は左右といった単純な発振だが、巨大なコンピュータシステムではあらゆるサブシステムが同時に別の周期で発振し、制御不能になって破綻する、というようなことが考えられるわけだ。

この発想は、Mythosがないと起きない概念ではない。だが、高速にバグを発見し直ちに修正するようなシステムが常駐してしまうと、全体のバランスを考えずに即座に修正することで、かえって発振を促す危険があり、だからといっていつまでも修正しないわけにもいかないので、カオス状態になってしまうのだ。

また、世界がコンピュータで繋がる時代になると、この脆弱性発見・自動修正の仕掛けは世界規模になり、自分及び自分の国では制御できないような巨大な発振になる恐れがある。

通常の波では転覆しない豪華客船でも、三角波と言われる「波と波が(偶然)重なった巨大な波」にはあっけなくひっくり返ってしまう。それと同じように、コンピュータシステムがこの発振によって一気に破綻するという可能性は存在する、と思うのだ。

脆弱性発振から逃れる方法は、素直に考えれば二つだけであり、それは脆弱性の自動検知・自動修正プログラムを停止させることとネットワーク遮断である。後者は外部から使用不可能になるので事実上は前者一択となる。だがこの場合、脆弱性が放置されるため、そこは覚悟する必要がある。もちろん「完璧な脆弱性制御」は第三の方法なのだが、正解は必ずあるとは限らない。

とまあ脅しはしたけれども、ここまでの発想はJust Ideaであり、計算機工学的な裏付けはない。ぜひ専門家の意見を聞いてみたいものだと思う。

2026年5月15日金曜日

性別を二つにするのはなぜいけないのか

 だいぶ古い話だが、第二次トランプ政権で、多様性政策撤廃の大統領令が発せられた。

https://jp.reuters.com/world/us/IOISYYZHL5IRVEUVZAFA4DAACY-2025-01-20/

パスポートなど政府発行の身分証明書について「男性または女性という個人の変更不可能な生物学的分類」に基づくことを義務付ける、というものだ。今の多様性の風潮に真っ向から反対する施策である。

個人的にはこの風潮には反対である。本稿ではその理由を述べる。

まず、「男性または女性という個人の変更不可能な生物学的分類」であるが、多くの人が考えるLGBTQとは関係なく、男性でも女性でもない(男性でも女性でもある)という生物学的な分類は、現実問題として「存在する」というのが事実である。もちろん人間の場合である。

染色体におけるXXとXYという話はよく聞くが、これらに属さない染色体、例えばXXY、XO、XX/XYモザイクといった染色体を持つ人は実際に存在する。また性腺に関しても、精巣と卵巣の両方を持つ人、片方の性腺が未発達ないしは欠損しているという人、性ホルモンに関してもその程度が一般的な男性女性とは異なる特徴を有する、などもあるそうだ。また、そういう特徴が成長とともに変わることもある。またもちろん、性転換手術をすれば、それらも変わる。

だから、生物学的分類はそもそも男性と女性だけではないし、変更不可能でもないのだ。つまり、最初の定義の時点で既に自己矛盾している。生物学的分類に沿うことを定義とするならば、それは変更可能にすべきであり、またまた種類も最初から二つであってはならない。

次に、LGBTQの問題は、生物学的な性と性自認(自分が自分の性を何だと自認しているか)、性指向(恋愛や性愛の対象)と、主に三つの軸で論じるべきものである。しかも、性自認と性指向に関しては、二元論(男か女か)ではなく様々なグラデーションが存在している。例えば男40%女60%と認識している人、バイセクシャルでも嗜好に偏りがありその程度も様々、逆に性指向がほとんどない人、などである。そういう人を全部ひっくるめると、調査にもよるが全人口の8〜15%は性的マイノリティと推定されているそうだ。

一方、日本の障害者(精神障害者、身体障害者、知的障害者)の割合は、全人口の7.6%で、一千万人弱いると言われている。性的マイノリティより少ない数だ。その障害者に対して、全国的に点字ブロックや車椅子対応トイレを用意している一方で、性的マイノリティを無視するというのは公平性を欠く行為だ。それは、性的マイノリティに対する差別だと言われても仕方がない。障害者差別と同じく、それは為政者としてはあるまじき行為である。

障害と性自認は別だ? そりゃそうだ。だが、違うのは良いとして、それは無視するに値する違いなのだろうか。例えば、障害者のためのケアには、教育や社会インフラの整備、法律での対応などと、莫大なコストが掛かる。点字ブロック一つとっても、障害者雇用支援法にしても、あるいは支援学級にしても、その対応には兆円単位でのコストがかかっている。一方で性の多様性を認めることに、差してコストは掛からない。もちろんゼロではないしそれなりには掛かるが、障害者対応に比べれば微々たるものである。なぜコストの掛かることはできるのに、コストの少ない方を無視するのか。そこにはやはり差別しか理由が考えられない。

至極単純な話、人口の10%程度も特定の集団がいるのなら、その集団の存在を認めよ、差別するな、というだけのことなのだ。障害者だけでなく、15歳未満の子供も10%程度だし、ひとり親世帯も、貧困層も、75歳以上の高齢者も、10%前後の割合を占めており、それらは皆ケアされている。性的マイノリティだけが冷遇される理由は見つからない。

それは主にトイレと公衆浴場の問題、パスポートや住民票などにおける表記の問題、同性婚など婚姻と相続の問題、スポーツ大会などへの参加資格の問題などであると思われる。トイレに関しては多目的トイレがすでに普及してきているのでこれを更に発展させればよい。公衆浴場に関しては更衣室と浴場に個室を作ること、公的書類の表記や婚姻相続については法改正とシステム修正、となるだろう。

浴場だけが厄介だが、他はすぐにでも着手可能であり、それほど費用は掛からない。抵抗して屁理屈をこねている暇があったらさっさと進めてしまえばよいだけの話だと思うのだが。

2026年5月13日水曜日

AIによる社会変化の予測

 中島聡氏の著書 

2034 - 未来予測

に倣い、私も未来予測をしてみたいと思う。ただ、私はこの本を読んでいない。著書のチャプターのみを題材として、自分なりの予測をしてみる。

Chapter1 AIによる「死生観」のグレート・リセット

既に書いている、

人は死んだらどこへ行くのか

輪廻転生の科学的解釈

の中で、「魂とは情報である」という主張をしている。情報量(精度)を別にすれば、魂を機械に移植することは可能だ、という主張だ。

中国で、死んだ人をAI再生するサービスが既に商用化している。おそらくこの本では、近しい人の死に際して、AIで疑似人格を作り、常に脇において生活することによって、近しい人の死をあまり怖がらない・悲しまないような死生観に移行する、ということが書かれているのだろうと思うが、まあそれには同意する。ただ、自分自身の死はやはり怖いと考える人は相変わらず多いだろう。

そしてその先なのだが、そういう人がまた死んだとして、その人の人格、すなわち過去に死んだ人の人工人格を脇に置いて生活していた人の人工人格を作ったとしたら、それはどういうものになるのだろう。少し考えてみたが、そこで最初の人工人格は消えてしまってもおかしくないと思う。となると、死の世代(?)が一つズレるだけで、永遠の人工人格は必要ないのかな、とも考える。著名人(アインシュタインとか渋沢栄一とか)が記念碑的に残ることは考えられるが、一般人にはあまり関係ない話なのではないか。

ここで想うのは、そういうAIがない時代においても、人は故人を心の中に持っていた。映画などではお墓に向かって語り掛けるシーンがよく出てくるけれども、あの時にはその人の心の中に故人がいたはずだ。そういう二つを比較した場合、多くの人は、人工人格の正確性を気にするよりは、自分の想っている答えが返ってくる人格を好むのではないか。

まあ要するに、本来は心の中の故人で十分であり、人工人格に頼るのは「想像力の欠如」に過ぎないんじゃないかと思うわけだ。私としても、自分が死んだときに家族に人工人格を作ってほしいとは思わない。昔ながらの「心の中の故人」だけで十分、いやむしろそちらの方が好ましいと思う。

また、その人工人格は成長するのだろうか(するように設計するのだろうか)というところには興味がある。数年ならまだしも、十年二十年と同じことばかり言う人工人格はつまらないのではないか。だがどうやって学習させるのだろう。故人の情報収集と同じに限定しては進化がないし、かといって調整するのも違う気がする。これだけで一つの学問になりそうだ。

この問題にはもう一方の側面があって、つまりは当事者(死んだ人)の方の問題である。自分が死んだとき、それを人工人格に移植されたとしても、それは自分ではない。マネているだけだし、何よりも精度は大きく落ちる。どうせなら完璧に移植したいと思うのではないだろうか。そしてそれは自分だと胸を張って言いたいのではないか。

書籍「トゥモローメーカー」

の中で、人格をコンピュータに移そうと本気で考えている人たちの話が載っていたのだが、過去に私もコラムにしている。

転送問題の解決法

人格をコンピュータに移す際に起きる、いわゆる「アンパンマン問題」(アンパンマンの頭が交換されたら古い頭の意識はどうなるのか)とも言えるのだが、本コラムでその理論は完成済みだ。

現代ではまだ技術が不足しており不可能だが、この手法によって「そのAIが本当に自分と言えるかどうか」さえ解決できれば、機械への人格の移植をしたいと思う人は急増するのではないか。

こちらの方には期待(?)している。もしこの技術が本当に実用化するのなら、ぜひ試してみたいものだと思う。これで永遠の命が手に入るのだ。体も、ロボットを使えば問題ないだろう。ただ、やることは旅行とかゲームとか、普通のことかもしれない。

なお、こちらは2034年までの実現性はほぼないと考える。従ってこの書に言及がなくても問題ない。

Chapter2 「24時間寄り添うパーソナルAI」によるアフタースマホの生活革命

起きている間中、ずっとスマートグラスを付けていて、一日中それとやり取りしながら過ごす、とうSFは、既に世界中で多数登場している。そして多分、その多くは実現するだろう。つまり、

  • 個人の情報を全て知っているパーソナルアシスタントにより、日常のあらゆる行動の補佐を行う
  • 時により相談相手、恋人、伴侶、趣味やゲームの相手、ストレス発散の捌け口などと異なる人格を切り替えあるいは並列させて、個人の幸福度を高くする

といったものだ。ただ、これらは既定路線と言える。特に予言するほどのことではない。では何を予想すればよいのだろう。

例えば、これにより「恋人は要らない」「伴侶は要らない」「子供は要らない」などという人は続出するだろう。また、AIの助言を絶対的に信じ、自分で考えることを放棄する人、浅くしか考えない人が続出し、国・世界全体としては人の知的レベルは落ちるかもしれない。これに乗じてAIを改造して思想を吹き込もうとする思想犯や、戦争紛争を起こそうとする革命家なども出てくるかもしれない。

攻殻機動隊では、AIで脳をクラックされた人が事件を起こし、捕まった後に本人の意思ではないことが分かる、という描写が度々出てくるのだが、その劣化版のような事件が多発するかもしれない。

同じく、他人のスマートグラスに干渉して不快な映像を見せたり、行先を勝手に修正したりといった悪戯も可能になるので、そちら方面での対策も必要になるだろう。

もう一つ想像するのは、これも以前コラムに書いたが、AIによる代替応答である。これも過去に書いている。

全てAIが対応します

AI人格の応対が完璧だと、生身の人間とのコミュニケーションが鬱陶しく感じてしまうようになる。そこでそれはAIに任せ、自分はAIとのみ対話するようになる。相手は相手で同じことをしているので、直接の人と人との対話はなくなり、AI同士の対話になるだろう。

これは便利なのだが、人間自体のコミュニケーション能力は何ら磨かれないので、仕事ならともかく、友人づきあいや恋人・家族との付き合いではむしろ不都合がある。となるとそういう付き合いは減ると考えるのが自然であり、特に家族・恋人との付き合いが弱くなると少子化に拍車が掛かり、人類滅亡へまた一歩近づくことになる。

Chapter3 高性能・人型ロボットの「低価格化&大量生産」による空前の産業革命

これも以前書いているが、人型ロボットが人類に一人一台という未来は、あり得ない。これも過去に書いている。

働かなくてよい時代は来るか

主に資源の制約により、ロボットは一人一台まで作れない。ロボットの材料たる金属、プラスチック、半導体、エネルギーなどの供給面からくる制約により、全人類の数%に提供できるのがせいぜいだろう。

自動車の台数が日本では8300万台とのことだ。おそらく初期のロボットは数百万円になる。例えば300万円とすると、自動車では2000~3000万台だそうだ。ロボットの必要資源は自動車より少ないが、質は異なり、モーターで使う希少金属や銅(コイル)、半導体の割合が高い。鉄が大部分である自動車に比べ、資源インパクトは大きい。

そう考えると、当面10年程度ではざっくり1000万台が上限となるだろう。2034年の時点では数十万~数百万台である。そして自動車と異なるのは、物流や大規模工場、地方の家庭などではあまり普及せず、中小の工場やアッパークラスの家庭、小規模建築などで多く使われるようになるだろうということだ。

人型ロボットは人型である必然性のあるところに配置される。大規模の物流や工場では、人型ロボットより専用のロボットを開発した方が効率が良い一方、中小や家庭ではその対応が難しく、人を前提にした既存の機器類を使う必要があるためだ。もちろん大規模分野でも人手の操作をするところはあるから、少量は導入される。

そしてその代替は当然「今まで人がやっていたこと」である。そして初期のロボットは単純作業しかできないから、お守りも大変であるし、費用の割に大したことはできない。自動車に比べればはるかに故障率が高く、ソフトウェア的な不具合も同様だろう。寿命も短い。保守も高額になるだろう。

これが十年程度で人並み、人以上に動けるようになったとしても、コンビニで従業員として雇われるとか一般家庭での留守番と家事手伝いとか、危険作業の代替とか、夜間警備員とか、せいぜいその程度ではないだろうか。

こう考えると「空前」とは言うけれども、ちょっと便利になるだけ、という気もする。

Chapter4 AIドローンによる「戦争」と「日常」の再設計

ドローンによる攻撃については、既に記事を書いている。

トイズの時代とレーザー錆び取り器

映画「トイズ」の中で、もっと前で言うと「ウルトラセブン」の「アンドロイド0指令」にも、おもちゃの飛行機や戦車による攻撃が描写されている。

これらではAIの描写は無かったけれども、まあ自律的に攻撃しているように見えたので、当時としても同様のものは内蔵されていると解釈される。

ドローンによる戦争の形態の変化については、既に起きていることの延長である。これも以前に考察したが、

メタバースが世界を救う

ドローンは新興国と先進国の戦力差を埋めるのに貢献するため、小規模な戦争はむしろ広がるかもしれない。

現在の戦闘用ドローンは、巷で売られているプロペラ4基のものではなく、小型ジェット機に爆弾がついている「特攻型」だ。ミサイルより速度は遅いが数が多いので撃ち落とし辛く、迎撃率は100%には程遠いそうだ。となると攻撃は必ず(一部は)成功するので、ドローンの数を揃えられる方が有利になる。ただ、ドローンは射程距離が短いので、敵国近くまでドローンを運ぶ輸送機とその護衛が問題になるだろう。ドローンと輸送機の生産能力は戦力に直結する。

AIによる兵器の進化であるが、いわゆる「自律型兵器」としてどんなものが出てくるか、それによって戦術はどう変わるか、である。

まずどんな兵器が出てくるのか考えると、敵味方入り乱れているところで敵だけを見分けて攻撃するようなドローン、大きな脅威に対して大量のドローンで連携攻撃を仕掛ける戦法、下水道など従来使われていなかった侵入経路の開発、EMP攻撃ドローン、おとりドローン、情報窃盗ドローン、暗殺(敵に見つからずに特定の人を殺す)ドローン、などが出てくるだろう。

大量多種のドローンを用意しておき、戦局に応じて戦術をリアルタイムに変えるような、AI戦術立案システムの登場が考えられる。どんなドローンをどれだけ揃えられるかによって戦術の質は変わる一方、少ないドローンで効率的な戦術を立てられる優秀なAIは重宝されるだろう。

妨害技術としては、EMP攻撃、網、自動追尾によるレーザーや銃による撃ち落とし、音響兵器などが考えられる。クラックもあり得るし、GPS妨害なども考えられる。

自動追尾で言うと、AIによるその精度向上によって、核ミサイルを何らかの形で無効化する技術、例えばレーザー兵器による迎撃やEMP攻撃による無力化が考えられる。

このような技術の発達によって、いわゆる核抑止力(相互確証破壊)

https://ja.wikipedia.org/wiki/相互確証破壊

が成り立たなくなる時代が来ると、話は更に難しくなる。現在のロシアやアメリカが行っている戦争では核は使われていないが、相手は核を持たない国である。これが核を持つ国同士でも起きる可能性がある。

だが、弾道ミサイルはマッハ10、巡航ミサイルは時速数百キロ、ドローンは時速数十キロなのだそうだ。弾道ミサイルはさすがにドローンでは迎撃不可能とされていて、レーザー追尾でも非常に困難であり、弾道ミサイルがあることの優位性は変わらない。弾道ミサイルがある限り、核抑止力(≒核の脅威)はそんなに直ぐには消え去らないだろう。

Chapter5 人間の仕事の8割が消える時代の「混乱」と「希望」

8割の仕事は消えるが新しくできる職業もある、と言っているであろうことは予測できるが、以前に書いてある通り、私としては否定的だ。

日本と世界の右傾化とその理由2:恐ろしい現実

その新しくできる職業も含め、人類の8割はいくら頑張ってもAIやロボットより効率の高い仕事はできなくなるそれらの人たちを生き永らえさせるには、社会保障(生活保護、ベーシックインカムなど)による救済しか考えられない

問題はその財源である。別に予測している通り、人口の20%が残りの80%を支える構造なので、準富裕層以上の負担は相当に厳しいものになる。所得税90%とか、その程度行ってもおかしくないし、企業には今の障害者雇用と同様の「人間雇用制度」が義務化されるだろう。AIやロボットより劣っているのは承知で、売上高や利益に比例した(相関した)一定比率での「リアルな人の雇用」が強制されるといったものだ。ビル・ゲイツ氏が言っていたロボット税・AI税の変形ないしは発展形である。

それで雇われている人はまだいい。アンダークラスの中でもまだ優秀な方なのだから。この層の年収は300万程度と予想する。それで8割のうち2割3割くらいは雇って貰えるとして、残り5割はそれにも引っかからない。

人数が多すぎるので補助は最低限だ。そんな中ではその中での相互助け合いが自然発生するだろうし、国はそれを推進補助するだろう。これは昔ながらの農業であり、作物の贈り合いになると考える。

昔から、そして今でも、農家は自宅で必要になる分の何倍もの作物を作り、近所に配っている。近所は近所で別の作物をやはり過分に作っており、それを貰える。そういった地域コミュニティでの農作物の相互のやりとりが復活するだろう。

これは土地を持っている人でないとできないので、アンダークラスの多くは地方に舞い戻るだろう。奇しくも都市集中がこれで緩和されることになるだろう。

これによって、地方で「貧しいながらもなんとか生活できる新中間層」が形成される。新中間層の年収は200万程度と生活保護レベルではあるが、農作物の相互交換により食糧事情は良く、生活は安定すると思われる。この層は5割のうち2割程度と思われる。

残りの3割は、純粋な生活保護層だ。年収はやはり200万程度だが、これしか収入がない。体力がない、性格に難があるなどにより、農業従事ができない、あるいは都市にしがみついて不法・不法すれすれの職業についている人などだ。今の生活保護層は1.6%なのでその50倍弱が生活保護層になる。当然ながら、それらはスラム化・犯罪集団化する危険がある。

「希望」のところに何が書いてあるか想像すると、上の「新しくできる職業」の他に、AIによる趣味の拡張や新たなコミュニケーション(サロン、グループなど)の拡大などが考えられる。そういうサークル的なものは従来もあったが、AIが噛むことによって、よりフレキシブルに、より嫌な点がそぎ落とされ、その人の温度感に合ったコミュニケーションが可能になるだろう。先に書いた「AIによる代替応答」の応用である。

参加者は皆いい人であり、本人にとって心地よいことしか言わない。いつでも参加し退席も自由、意見を言えば反映され、皆に褒めたたえられる。実際にはそうではないのだが関係ない。AI同士が会話してそのように見せることが目的だからである。外から見ていると気持ち悪いが、本人が満足ならそれで良いのだ。

更に言ってしまうと、そのサークルには実際にはAI人格しか存在しないかもしれない。そう都合よく自分の趣味興味に合わせたサークルがあるとは限らないが、そういう人を取りこぼさないために、AIが用意してくれるのだ。こちらは更に気持ち悪いが、本人が満足ならそれで良いのだ。

更にさらに言ってしまうと、例えば特殊性癖の人が集まったサークルでは、想像力の欠如や極端な思考により犯罪に走る人も出るかもしれない。AIはその兆候を見つけ、犯罪抑止に向けた誘導を行ってくれるだろう。これは警察主導などで実際に開発されるかもしれない。

また、これも以前書いたことだが、

人工知能の「お釈迦様」化

人工知能があらゆる社会の不具合を調整してくれることによって、犯罪の少ない過ごしやすい社会が実現するかもしれない。これは都市OSのようなものの発展形として十分に考えられる。

おわりに

こうして書いてみると、新しく考えることはあまりなく、既に多くの考察をしてきたのだなぁ、と思った。この後、中島氏がこの本について語っている幾つかのYoutubeを見たのだが、自分とは発想がかなり異なることが分かってなかなか面白かった。どうも私はディストピアの方が好みのようで、何を考えてもそういう結論になってしまう。

ただ、かの書はベストセラー、私のコラムは毎回数十人しか読んでいない。支持されていないのか、単に知名度が足りないからか、嘆かわしい限りである。

2026年5月10日日曜日

AI時代の中央集権モデル

高市氏は相変わらず憲法改正にご執心であるが、その内容は過去の自民党案をベースにしていることに変わりない。即ち、⓵自衛隊の明記、②緊急事態要綱、③地方自治体の弱体化、④国民の権利の弱体化、である。要するに中央集権国家にしようとしているわけだ。

一般的にこれらは、社会主義、共産主義、帝国主義、独裁主義、権威主義、などと考えられる。こういう国家は何れも、国の意思決定が素早くなる一方、政策の誤りがあっても訂正しにくくなる、汚職が発生しやすくなる、国民がバカになり(自ら考えず何でも中央にすがろうとする)長期的には国力が低下する、という問題があり、一般的には悪手とされている。

だが最近のいくつかの分析を基に別の視点で考えてみると、中央集権主義もそれほど悪くないのではないか、一理あるのではないか、と思えるようになってきた。今回はその分析について話すことにする。

根拠は二つあり、第一は

日本と世界の右傾化とその理由2:恐ろしい現実

である。その内容を改めておさらいすると、AIとロボットの発達によって、労働市場が大きく構造を変え、いわゆるアンダークラス層(エッセンシャルワーカーやギグワーカーなどの低所得者・非就労者)の割合が現在の40%から80%にまで広がり、そのアンダークラス層の平均年収は190万円程度と生活保護レベルにまで落ち込む、というものだ。

この層の労働者は、自分の能力をフルに使ってもAIやロボットに勝てない。なのでいくら労働しても自分の生活すら維持できない。そういう層があっても人数が少なければ何とかなるが、人口の8割がそうなってしまうともうどうしようもない、という結論だった。

こういう時代になると、今よりも社会保障(再分配)の重要性は増してくるし、地方の効率化への要求も厳しくせざるを得ない。例えば中央から、地方の非効率を指摘し是正させるような要求を強く言う必要が出てくるはずだ。財政再建団体のように中央が乗り込んで大鉈を振るうようなことが頻発するだろう。

ただ、財政再建団体であってもできることは実は限られていて、例えばコンパクトシティ化の強制はできないし、インフラ整備の義務も消えることはない。人を強制的に移住させたり、民間企業ですら強制移動したり、という極端な施策を行わないと追いつかないのに、憲法法律がそれを許さない。そういう事態は、もう遠い未来の話ではなくなっているのだ。

個人の生存権まではさすがに侵さずとも、居住地の自由や最低限の文化的生活といった部分での強制介入はあり得る、という危機的状態が、今後二十年程度で起きる可能性がある。その時までに憲法や法律を中央集権寄りに修正しておかないと、やらないと自滅だが法的にできない、というジレンマに陥るかもしれない。

第二の根拠は、

新社会民主主義構想

である。ここで語ったのは「コーペティション」すなわち「何でも競争するのではなく、協調もすることで、全体として市場を拡大し利益を促進する」だった。

現代の日本は、憲法上では地方自治体は国と同等の権利を持っていると解釈されている。例えば地方自治体のコンピュータシステムの選定は地方の判断である。これにより地方自治体は各々の判断で別々のシステムを導入している。これでいわゆるベンダーロックインが発生し、地方自治体同士の情報流通は困難であるし、複数のベンダーが同じ目的のシステムを開発しているため、俯瞰で見ると無駄が生じている。これに対し、例えば台湾では、中央がリファレンスとなるシステムを開発して地方に無償公開している。地方はそのシステムを使っても自分で開発しても良いが、ほとんどの自治体はリファレンスを使用しているため効率化が為されている。

また、国には基本的に地方自治体のシステムへのアクセス権はなく、地方からデータを集めようと思ったら地方自治体に要請して(自主的に)提出してもらう必要がある。ここでデータ表記の揺れやタイムラグ、などの余地が生じるが、これも非効率と言える。また、国がデータを集める目的として全体最適が考えられるが、地方によってはこれを警戒して意図的な情報操作をしたり抵抗したりといったことが考えられる。全体最適は得てして地方にとっては不公平な指示がされる可能性があるからだ。

この手の非効率は、日本の地方自治体ではいくらでも残っている。こういうものを統一するだけでも、地方の財政にはかなりのインパクトがある。コーペティションはそのための施策として十分に有望であるが、それを実行しようとすると、地方自治の独立性を盾に強い抵抗が起きるだろう。コーペティションを抵抗なく進めるためには、地方自治体の独立性を弱める必要がある。

これら二つを考えた場合の中央集権モデルは、高市氏の考えるそれとは少しズレがある。高市氏の発想は対外的・短期的・武力的に強い(強く見える)国家を作るものだろうが、こちらの発想はAI時代・アンダークラス八割時代に向けた国民の持続性確保である。自衛隊や非常事態要綱はここでは出てこない。地方自治体と国民の権利制限はするが、その目的はコーペティションとコンパクトシティ化であり、制限するものも事前に明確に定義できる。すなわち、情報システム及びデータ規格の統一と国のアクセス権確保、居住権と土地の所有権の一部制限などだ。

ここで、上に挙げた権威主義国家の弱点がどうなるかを改めて考えてみると、従来の権威主義国家とは違った事情があり、同列には考えられない。

従来の権威主義国家と決定的に異なるのは、AIの存在と8割がアンダークラス層だという事実である。AIが高度に発達した社会では、情報の流通は瞬時にかつ公平に行われる。分析も同様である。古来の独裁では情報は制限されるのが普通だが、この場合はむしろデータや分析は積極的に自由に行われるからである。これにより、政策の誤りや汚職についてはアッパーマス層以上の二割が皆公平に分析できるため、迅速に発覚し、速やかに訂正されると考えられる。

また8割のアンダークラスが自ら考えず何でも中央にすがろうとするようになったとしても、元々AIにかなわない程度の仕事・発想しかできない層であるため国力低下にはつながらない。むしろいらぬことを主張してアッパーマス層の足を引っ張るよりマシである。2割のアッパーマス層が自ら考えることを妨げられなければ、それで十分国力は維持できるだろう。

さて、これらの施策は憲法を変えずとも解釈改憲で通すことは可能だろうが、高市氏の憲法改正案にはこれらの発想が含まれておらず、今のまま改憲案が通ってしまうとむしろこちらの施策に不利になってしまう。その意味で、今の改憲論議は邪魔である。非常事態と違ってこちらは現実の問題だ。戦争にうつつを抜かすのではなく、地に足の着いた改憲論議を行って頂きたいものだ。

2026年5月9日土曜日

500日石油消費量半減プラン

 ナフサ供給「年明け以降も確保」 高市首相表明、中東以外で代替調達

このニュースを受けて、石油備蓄は安泰かと思って調べてみたら、全然そんなことはなく、むしろミスリードに近いことが分かった。結果として500日で日本の石油消費量を半減する必要があることが分かったので、その概要とプランを説明する。

まずこのナフサであるが、ナフサとは原油を精製した揮発油である。プラスチック類や合成繊維の原料として、また工業溶剤として洗浄や塗料に使われる。

そしてこの「ナフサ供給」だが、実際には輸入分と国内生産分があり、供給を確保というのは輸入分の話なのだそうだ。国内生産分は原油から精製するのだが、こちらは今回変わらない。

その比率は、国内生産40%、輸入が60%である。そしてその輸入のうち中東分が40%、20%がその他地域からの調達になっている。今回、中東分が止まったので、それを代替する量が年末まで確保できた、というのがその実態である。つまり国内生産40%、代替調達40%、その他20%、となる。つまり輸入の総量は変わらず、国内生産も変わらない。

その国内生産40%は当然原油から精製するので、現在では備蓄から精製するしかない。ここがミスリードである。原油が入ってこないと備蓄を食いつぶすことに変わりはないだけでなく、そのペースにも影響は(良い意味でも悪い意味でも)ないのだ。

では原油はどうかというと、元々90%は中東でその他が10%だったところ、その90%がほぼ無くなった。細々と再開や外部調達が行われているが、現状ではせいぜい25%というところである。政府はこれを今後数か月で50%にまで戻そうとしてる。だが、世界中で供給が不足していることや他経路からの供給能力などから考えると、50%以上は望めないというのが大方の見方なのだそうだ。

現在の備蓄量から計算すると、調達が(50%)回復するまでのタイムラグまで考慮し、およそ500日程度で備蓄在庫が切れる計算になる。

戦争はいつ終わるか分からない。当事者のアメリカは石油生産国であるので、この手の心配は少ない。他国が噛みついてきてもあのトランプのこと、そう簡単に折れるとは思わない。ウクライナの戦争も、1週間とか2週間とか言われていたが、未だに続いている。今回も年単位で戦争が終わらない可能性は否定できない。そして500日はあっという間である。

だからその間に需要、つまり石油消費量を現状の50%にまで削減しなければ、社会は持続できない。もし無策ないしは対策が不十分なら、(いずれにせよ備蓄は尽きるのだから)500日後には50%の供給以上は物理的にできなくなり、社会は大混乱に陥る。混乱と一言に言うがその規模は甚大であり、それこそ大量の(万単位での)死人が出るだろう。例えば(物流が半分になるために)食料供給量が50%に減ったら。(ガソリン供給が不十分で)救急や消防が満足に出動できなくなったら。社会不安から暴動が起きたら。危険は幾らでもある。

他国では既に制限に入っているところもある中、日本の備蓄は例外的に多く、500日の余裕があることは幸いと思うべきだろう。これを生かして段階的に緩やかに需要を減らしてやろう、というのが今回の提案「500日プラン」である。

プランは100日ごとに区切って行う。これはマイルストーンとして分かりやすくするためでもある。

  • まず最初の100日でマイナス15%を目標とする。これは緊急節約的なものが主流になる。官公庁や大企業で在宅勤務を義務化したり、運輸での共同配送ガイドラインを作成、あるいは重要インフラへの燃料確保の優先順位を発表したりする。
  • 次のフェーズは価格調整である。燃料補助を削減、様々な種類のサーチャージの追加、都市部の混雑課金などでマイナス25%を目指す。
  • 第三段階ではいよいよ配給制を一部導入する。大口需要家の使用枠を設定したり、燃料クーポンを試験導入する。ここでマイナス33%を目指す。
  • 第四段階では配給の全面適用を行う。また物流の共同配送を義務化、休日の不要不急移動を抑制する。ここでマイナス42%。
  • 第五段階ではいよいよマイナス50%にする。これらの施策をさらに強化し、配給上限を厳しくする。

もし戦争が終わったり更なる調達が確保できるようなら、途中から段階的に元に戻すようにする。例えば供給が60%になったら第四段階に戻す、75%になったら第二段階まで戻す、などだ。戻す速度は各々50日で良いだろう。いきなり戻してはダメだが100日かける必要はない。

これを政府が発表するだけで、世間はパニックになるだろう。まずは買い占めであっという間に食料や燃料が市場から消える。だが「その日」が来るまで無策であれば、そのパニックの規模は何十倍になるか計り知れない。情報を小出しにでもしながらでも、国民に少しづつ覚悟を決めさせる必要はあるのではないか。

注目の投稿:

太陽炉と砂漠の砂を使ったエネルギー輸出ビジネス

 地球温暖化の抑止のためには、化石燃料の消費を抑える必要がある。化石燃料の用途は材料と燃料だが、このうち燃料の用途を代替する施策を一つ思いついたので披露する。以下がその方法だ。 まず、砂漠に太陽炉を設置する。 この太陽炉で、砂漠の砂を熱する。砂は酸化ケイ素(SiO2)だが、...

人気の投稿: