3Dプリンター木造建築工法3 脅威の性能とコスト
以前この提案した建築法の、更なる改良を試みる。
1.ハニカム構造(壁)の構成
前回、200℃での吐出、架橋促進剤噴霧、ヘラで押す、というのが気に入らなかったので、もっと簡単にした。
まずベース材として、リグニン粉末と上質(インク除去)古紙パルプを混合したものを保管しておく。乾燥保管であれば何ヶ月でも保管できる。
現場で、これと水、炭酸ナトリウムを混合する。炭酸ナトリウムによりアルカリ性になったリグニンは可溶化・膨潤し、ペーストを形成する。
これを3Dプリンタで常温で吐出し、直後にクエン酸を噴霧する。クエン酸によってまず数秒でゲル化し自立する。これにより上層の積層に耐えられる強度を得る。続いて2〜6時間で硬化し、人が触れても変形しない硬さになる。更に24〜48時間で完全に架橋化し、必要強度を得る。
ハニカム材の厚さは1.2mm、ハニカム径は30〜60mm、壁厚は150mmに変更した。強度がオーバースペックであることが判明した一方、断熱性と遮音性が不足していたためである。
以前ヘラで押すのを止めたことによって層間剥離が心配になるが、計算によれば断熱材がこれを抑止してくれることが判明したため、問題ない。
なお、吐出に際し、表面がギザギザになるような吐出口を使うことで、層間強度は若干増すことになる。
2.断熱剤(ハニカム充填)の構成
充填剤ではハニカム材と同じ方法は使えない(発泡するので噴霧しても全体に行き渡らない)。そこで、直前に混合する方法に変更する。
つまり、ベース材としてリグニン粉末と低質(インク残留)古紙パルプを混合したものを作っておいて、現場ではまず水と重曹を混ぜ、吐出直前にクエン酸を混合する。
直前混合がハニカム材で使えない理由は、吐出口が1.2mmと細径であるため詰まりの問題があるからだ。断熱充填剤は15mm程度は確保できるため、多少間違って硬化が早まっても詰まる心配が少ないこと、多少不均質に混ざっても問題ないことにより、断熱材限定で採用する。
また、上に書いたように、断熱材はハニカム材の層間剥離防止剤としても作用する。
3.強度他の計算
以上の変更による各種定量的データの変更は、以下の通りである。
断熱性:壁厚を150mmにしたことが大きく、HEAT20 G3レベル(壁単体 U値 0.207 W/m²K)となった。これは国内の断熱性規格の最高峰である省エネ基準地域区分5〜7における断熱等級7(U値 0.26 W/m²K)に比べて、約 1.26 倍(※熱損失が約20%少なく、国内最高峰規格を余裕で上回る)の余裕がある。
耐震性:ハニカム厚を薄くしハニカム径を大きくしたことによって以前よりは落ちたが、それでも最高の耐震等級(最高耐震等級): 耐震等級 3の仕様:存在壁高あたりの必要壁倍率 5.0 相当(せん断耐力 9.8 kN/m)に対して約 49.0 kN/m (壁倍率換算 約 25.0 相当)あり、約 5.0 倍の余裕がある。
遮音性:主に壁厚が増えたことが影響し、国内の遮音性能規格の最高峰である日本建築学会 遮音性能等級 特級(D-65 / D-60)の値:500Hz帯において 60dB以上の減衰に対して500Hz帯において 約 68.5dBの減衰があり、約 1.14 倍(音エネルギー比で約 7 割減衰)の余裕がある。
耐火性:断熱剤にもハニカム材にも難燃剤を混入するので、やはり国内最高峰規格の建築基準法 1時間耐火構造(外壁・構造耐力上主要な部分)の加熱1時間において裏面温度260℃未満維持、構造耐力維持に対して120分(2時間)加熱時で裏面上昇温度 約115℃(非加熱面)であり、約 2.0 倍(耐火時間ベースで200%達成)倍の余裕がある。
耐荷重性:ハニカムを薄く、径も大きくすることによって落ちたが、これはそもそもオーバースペックだったからだ。建築基準法の定める木造2階建て1階壁に求められる長期許容鉛直荷重 約 15 kN/mに対して約 185 kN/mと、約 12.3 倍の余裕がある。
気密性:国内最高級の超高気密住宅基準(AAA)の数値 0.5cm²/m²に対して 0.05cm²/m²であり、10倍の性能的余裕がある。
つまり、全ての性能において、国内で定める最上級の規格を余裕でクリアする、ということになる。
4.コスト
最後にコストである。
住宅1棟分(外壁面積 100m²相当)の躯体・断熱コスト比較をすると、
| 一般木造住宅(普及帯・等級4〜5) | 一般木造住宅(高価格帯・等級7) | 本提案 | |
|---|---|---|---|
| 1棟 総建設コスト(税別) | 約 1,515万円 | 約 2,360万円 | 約 1,197.4万円 |
| 坪単価(税別 / 30.3坪換算) | 約 50万円 / 坪 | 約 77.9万円 / 坪 | 約 39.5万円 / 坪 |
| 合計現場工期 | 約 90 〜 120日(約3〜4ヶ月) | 約 120 〜180日(約4〜6ヶ月) | 約 14日(約2週間) |
となった。
見ての通り、価格も凄く安いのだが、工期が短いのは特筆すべきだろう。にわかには信じられない短納期である。それこそ「ボコボコ家が建つ」レベルの驚異だ。
5.まとめ
まあ何れにしても初期の試算レベルの話であり、実際にやってみると色々問題は出てきて、その都度コスパは悪くなっていくのだろう。だが従来の木造住宅より多少高くなったとしても十分に検討に値する数字だと思う。
調べてみると、慶應義塾大学 Tanaka Labにて紙パルプとリグニンの架橋化による建築部材の研究が行われているらしい。ハニカムに関してはイタリアのWASP(World's Advanced Saving Project)というプロジェクトで3Dプリンタ建築の技術が進んでおり、ハニカムを空気層(断熱層)として使っている。だがそこに詰めているのは籾殻であり、強度には貢献しない。
つまり、もしかするとこの提案は最先端である可能性があるわけだ。どちらかのプロジェクトに拾って頂けると幸いである。

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