2026年5月26日火曜日

差別するAI

 

法曹界がIT化する、というのをニュースでやっていた。これは証拠のDB化や手続き等のオンライン化を含むもので、まあ真っ当な進化と言えるのだが、そもそも法律がデジタル化していないのは何なんだろう、さっさとプログラム化してしまえばよいのに、と思っていた。これは以前に、

法のプログラム化

としてまとめている。

だが、最近の国旗毀損罪の審議過程を見ていると、とても無理のような気がしてきた。つまり、法律は本質的に矛盾と恣意を含んでいるのが当然の状態であり、無理にプログラム(論理構造)に落とすとかえっておかしいことになってしまうのではないか、と思うのだ。

従来、法律は法学者が研究してきたが、これをAIが研究し出すと、Mythosよろしく数千のバグが2時間で発見されるだろう。このバグとは、以下のようなものだ。

  • 用語定義の不統一。名詞(自動車の定義が法によって異なるなど)はまだマシだ。形容詞(著しく、軽微な、)や動詞(みなす、努める、有する、など)
  • 適用の条件(XXとXXとXXをもって総合的に判断、など)があいまい
  • 論理構造の矛盾(参照循環や優先順位など)、あいまいさ(IF-THEN構造の解釈など)

理系の頭からすると、これは法律を直すべき(定義は明確にすべき、矛盾は無くすべき、など)なのだが、現在有効な法律は二千本、その他政令府省令などを合わせると1万近くもある法を全て矛盾なく記述するのは不可能だろう。現状の法律家(裁判官、検事など)はその矛盾(や隠れた恣意等)を清濁併せ飲んで、妥協して、法解釈をしているわけだ。

AIに法律を覚えこませる際、当然ながら現実を優先し、そのためには矛盾を(わざと)見過ごす必要が出てくるわけだが、それはつまり法に隠された恣意も肯定する、ということである。

有名な例だが、精神保健福祉法という法律がある。この中に、「措置入院」と「医療保護入院」という制度がある。

措置入院とは、自傷他害の恐れがある精神疾患患者を、都道府県知事の権限で強制的に入院させる仕組みでである。一方の医療保護入院は、指定医が認め、家族の誰か一人が合意すれば、無期限で強制入院させることができるというものだ。

現実問題として、この法律はかなり恣意的な運用が続いている。

日本の精神病床数は約30万床に上り、これは世界全体の精神病床の約2割を日本一国が占めている計算になる。さらに、その入院患者の約半数(約13万〜14万人)が本人の同意のない「強制入院(主に医療保護入院)」なのだそうだ。また、日本の精神科病院における平均在院日数は260日を超えており、OECD加盟国平均(十数日〜数十日程度)と比較して突出している。しかも、1年以上入院している患者が約13万人、そのうち10年以上閉じ込められている人が数万人規模で存在する。

国際的な目で見ればこれは明確な人権侵害である。実際、2022年9月、ジュネーブの国連障害者権利委員会は、日本政府に対して「総括所見(Concluding Observations)」を公表した。その中で、

  • 非自発的入院(強制入院)を可能にしているすべての法的規定の廃止
  • 医療保護入院の即時廃止
  • 精神科病院における「身体拘束・隔離」の即時停止

を要求している。だが日本政府はこれを無視している。

類似の問題としては、難民認定法がある。

国名 難民認定率(近年の平均値) システムの思想(仕様)
ドイツ 約30% 〜 40% 人道主義・EUの国際協調プロトコル
アメリカ 約20% 〜 30% 多文化主義・移民国家としてのインフラ
日本 1% 未満(約0.1% 〜 0.4%) 実質的な「ゼロ受け入れ」・国境防衛

他にも痴漢冤罪問題(悪魔の証明、被害者証言の偏重など)、上級国民問題(同じ犯罪をしても扱いが異なるなど)、選挙における一票の格差問題(いわゆる違憲状態)もそうだ。こういう事実を法律AIが学習すると、そのAIはこれらの問題を容認する判断をするようになるはずだ。

また、裁判ではしばしば憲法解釈が恣意的に避けられるが、これは世間では「司法消極主義」「司法の忌避」などと呼ばれて非難されている。しかし判例を学習したAIは、この司法消極主義こそが正しいと考え、憲法解釈を避け続けるだろう。

放っておけば、あなたはこういうAIに裁かれることになる。AIが登場したからと言って、歪みは簡単にはなくならない。無くすためにはAIではなく、人間側の努力が必要である。

2026年5月24日日曜日

ナフサの現状

 

カルビーがポテトチップスなどのパッケージを白黒にしたことに対し、政府がヒアリングを行った話。これについて少し調べてみたところ、けっこうとんでもないことが分かった。

パッケージ問題の本質は(ナフサそのものではなく、ナフサから作られる)エチレンの減産であり、その規模は平常時の四割にも及んでいる。その理由は、政府がガソリンを優先し、エチレンの原料である「石化ナフサ」にしわ寄せをしたからだ。しかも政府はその事実をとうの昔に把握している。ウソとまでは行かずとも、政府は明らかなミスリーディングをしていると言える。

生成AIにレポートを作らせたので披露する。

--------------------

ナフサ・エチレン危機の現状分析と政策的影響に関する調査レポート

1. 基礎概念の整理:ナフサとガソリンの関係

本質的な需給問題を議論する前提として、原油から各種製品へ至る化学等プロセスと、それぞれの物質の位置づけを以下に整理する。

1.1 ナフサ(粗製ガソリン)とは

原油を蒸留分離する過程で、最初に留出してくる沸点範囲が約30℃〜180℃の炭化水素混合物。石油化学産業において、あらゆるプラスチック、合成ゴム、合成繊維、安定した自動車用ガソリンの基礎となる「最上流の原材料」である。

1.2 ガソリンとの違い

  • 粗製ガソリン(ナフサ): オクタン価が約40〜60と極めて低く、そのまま自動車エンジンに使用するとノッキング(異常燃焼)を引き起こす未加工品。
  • 自動車用ガソリン: ナフサに「接触改質」などの化学処理を施し、オクタン価をJIS規格(90以上)まで引き上げ、各種清浄剤や添加剤を配合した最終製品。

2. 2026年現在の需給危機(ナフサショック)の構造

2026年現在、日本の石油化学業界は「原料の需給緊迫(ナフサショック)」と呼ばれる深刻な原料不足に直面している。その構造は、外部的な「物流の不確実性」と、政府の価格抑制政策がもたらした「国内流通の偏り」という二重の影響によって形成されている。

2.1 外部要因:中東情勢の緊迫化と物流への影響

  • 輸入依存: 日本のナフサ消費量の約7割は海外からの輸入に依存しており、その多くを中東に依存している。
  • 物流の停滞: 2026年春の中東情勢緊迫化に伴い、ホルムズ海峡のタンカー航行が難航。輸入ルートの4割以上(月間約90万kl)の実質的な遅延・停止が生じた。
  • 代替調達コストの変動: 米国や中南米からの長距離代替調達を急遽実施しているが、輸送費高騰などにより、国内ナフサ価格は平時の約6.6万円/klから11万円/kl超(約70%増)へ上昇している。

2.2 内部要因:政府のガソリン補助金(激変緩和措置)が生む構造変化

日本政府は国民生活への影響を抑えるため、自動車用ガソリン等に対してのみ、1リットルあたり40円を超える補助金を投入し、店頭価格を170円程度に抑制・維持している。しかし、これが需給の偏りを生む要因となっている。

  • 製油所のインセンティブ: 原油の処理総量が全体で減少する中、製油事業者にとっては「補助金により適正な利益が保証されやすいガソリン向け」の生産を最優先し、「補助金の対象外であり、コスト高の転嫁が難しい石化ナフサ(化学原料用)」の生産割合を抑制するという経済行動が合理的となる。
  • その結果生じたナフサ需給モデル(月間):
ナフサの用途 平時の月間需要 現在の実際の供給量 需要に対する供給比率
用途A:石化ナフサ(エチレン用) 145万kL 120万kL 82.8% (17.2%の不足)
用途B:燃料用ナフサ(ガソリン調合) 80万kL 80万kL 100.0%
合計 225万kL 200万kL 88.9% (11.1%の不足)

総量では11.1%の不足に留まるように見えるが、ガソリン向けが100%維持された結果、不足分の影響の多くが石化ナフサ(17.2%の実質的不足)へ集中している。

3. 「エチレン大減産」が引き起こす現場の供給不足とそのメカニズム

3.1 政府見解「ナフサは確保されている」と「現場の不足」の乖離

政府(経済産業省)は「輸入代替の手配を完了し、国家備蓄もあるため、国内のナフサの物量は確保されている」との立場を示している。

しかし、実際の建築現場や医療現場、物流、小売の現場では、プラスチック容器、水道配管、包装資材、梱包用資材といった「ナフサ由来の製品」が深刻な品薄に陥り、新規受注停止や納期未定が相次いでいる。 この「統計上の安定」と「ミクロな現場の需給逼迫」の乖離の主な背景となっているのが、国内の主要エチレンプラントにおける「前年比38.8%もの大減産(稼働率67.3%への急落)」である。原料としてのナフサが国内のタンクに存在しているとしても、それを各種素材に加工する中流プロセスが稼働調整に入っているため、末端へ製品が届かない状況が生じている。

国が示す「不足0%(100%確保されている)」というマクロな見解の背景には、実際には全体で11.1%の物理的不足(化学用石化ナフサに絞ると17.2%の不足)が発生している現場との間で、以下の2つの実務上の乖離が生じている。

  1. 「足の速さ(貯蔵・融通の限界)」に対する時間軸の相違(タイムスパンの乖離)

    政府の「不足0%」という主張は、中長期の調達契約や半年単位での輸入見通しといった「長期調達」ベースの議論である。しかしナフサは、ガソリンと同様に極めて揮発性が高く、品質劣化や保安上のリスクから長期的な安全貯蔵が難しい「足の速い(貯蔵の効かない)」製品である。現場は日々入ってくる原料をただちに熱分解してエチレンにする、タイトなフローで動いている。政府の見解には、この日々のミクロな時間軸(11.1%不足のインパクト)への考慮が十分に反映されにくい構造となっている。

  2. 「ナフサ相当品」の活用と実務上の制約(スペックの乖離)

    政府が代替調達等によって確保したとするデータには、そのままエチレンプラントに投入することが困難な「ナフサ相当品」(軽質油、C3・C4留分、LPG等の混合原料など)も計上されている。 これらを実際のプラントでエチレン原料として使用するには、国内の製油所で事前の精製・ブレンド・組成調整といった「追加加工」が不可欠である。しかし、製油所は補助金対象となるガソリン生産を優先したスケジュールで動いており、相当品の加工プロセス自体が十分に機能していない。結果として、相当品は在庫データとして計上されているものの、現場にとっては「実質的な供給量として直ちに使用することが困難な物量」となっており、現場の実質的な不足(17.2%不足)を補うに至っていない。

3.2 なぜエチレンの大減産が国内サプライチェーンに影響を与えるのか

「エチレン」は、石油化学業界において「石化製品の王様」、あるいは「すべてのプラスチックの親」と呼ばれる、最重要の基礎有機化合物である。 原油から精製された石化ナフサを熱分解(クラッキング)して得られるエチレンは、以下のようにほぼすべての現代産業・生活用品の出発点となっている。

  • ポリエチレン(PE): レジ袋、ゴミ袋、食品トレイ、製品容器、梱包用ストレッチフィルム
  • 塩化ビニル樹脂(PVC): 水道配管(塩ビ管)、住宅用サッシ、壁紙、床材、輸血パック、点滴チューブ、使い捨てシリンジ(注射器)
  • 酸化エチレン・エチレングリコール: 衣類用のポリエステル繊維、ペットボトル、自動車の不凍液、合成洗剤の界面活性剤

日本のプラスチック生産(年間約1,000万トン)のうち実に約4割がこのエチレンを主原料としており、現在、国内のエチレン生産量は前年比38.8%減という大幅な減産に直面している。この代わりのきかない最重要基礎原料が4割近く減少することは、インフラや生活物資の供給網に多大な打撃を与える可能性がある。

【補足】残りの6割のプラスチックは何を原料としているのか

「エチレンが主原料なのは4割」であるが、残りの6割も、基本的にはすべて石化ナフサを熱分解した時に同時に生産される以下の「関連物質」を原料としている。

  1. プロピレン(国内生産の約20%〜25%をカバー): 主に自動車用バンパーや家電製品の内装、医療機器(輸液用ボトル)などに使われるポリプロピレン(PP)や、アクリル樹脂、防寒衣料用アクリル繊維の原料となる。
  2. 芳香族化合物(ベンゼン、キシレンなど)(約25%をカバー): 使い捨ての食品容器(ポリスチレン:PS)や、ペットボトルの主原料(キシレンから作られるテレフタル酸)、高強度のエンジニアリングプラスチック(ポリカーボネートなど)の原料になる。
  3. ブタジエン・その他(約10%〜15%をカバー): 自動車用タイヤなどの合成ゴムや、家電製品の筐体に使われるABS樹脂などの配合原料となる。

つまり、エチレン以外の6割も、実態はナフサ依存である。 ナフサの不足によるプラント全体の稼働低下(67.3%への急落)は、エチレンだけでなくこれら「プロピレン」や「芳香族化合物」の生産にも連動するため、日本のプラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されているというのが、現在の需給緊迫の実態である。

3.3 なぜ「17.2%の物理的不足」から「38.8%のエチレン大減産」が起きるのか

ナフサ全体の調達不足割合は「11.1%」、ガソリン優先へのシフトを差し引いた化学用ナフサの物理的な流通量の不足割合は「17.2%」である。しかし、なぜエチレンの生産量はその倍以上の「38.8%」もの大減産を記録しているのか。その理由は、単なる物理的なナフサの枯渇を超えた、化学メーカーによる「経済的合理性に基づく稼働調整(計画的な減産)」にある。

  1. 価格転嫁の課題(逆ザヤ): 化学メーカーは11万円/kl超に上昇した代替ナフサを仕入れてエチレンを製造しても、そのコストを川下の製品(プラスチックや資材)へ即座に転嫁することが難しい。製造すればするほど赤字が拡大する懸念があるため、メーカーはプラントをフル稼働させる経済的合理性を見出しにくい状況にある。
  2. 引き取りと「在庫滞留」の発生: メーカーは、契約上引き取らざるを得ない高価格ナフサを自社の備蓄タンクに保有しつつ(これが流通・在庫データ上は「存在する」とされる)、プラントの稼働率を調整している(買い控え)。
  3. 代替原料(LPG等)への切り替え: ナフサの使用を抑制するため、より割安なブタンやプロパンなどを炉に混ぜる比率を高めたことで、ナフサの消費とそれに対するエチレンの生産効率(得率)が変化している。

4. エチレン大減産が日本経済と国民生活に与える影響

「エチレン」はすべてのプラスチック・有機化学品の基本素材であり、その大幅な減少は、多大な打撃を社会に与える。

  1. 物流・インフラへの負荷: 商品を運ぶためのプラスチック製パレット、梱包用のストレッチフィルム、粘着テープの流通が停滞し、配送業務全般に遅延などの影響が生じるおそれがある。
  2. 食料品・日用品の包材不足: 食品トレイ、ペットボトル、マヨネーズや調味料の容器、ラミネート包装、シャンプーボトルなど、生活必需品をパッケージングするための資材が不足し、製品の供給遅延を招く。
  3. 医療・衛生分野への影響: 使い捨て注射器(シリンジ)、点滴用チューブ、輸血パック、人工透析回路、防護服など、医療現場の製品原料(ポリエチレン、塩ビ等)の調達が困難となり、医療体制の維持に課題が生じる。
  4. 建設サッシ・配管の停滞: 樹脂サッシ、塩化ビニル管(水道配管)、ウレタン断熱材などの出荷が遅れ、新築やリフォームの工期に遅延が発生する。

5. 本来政府が検討すべきであった危機管理対策

現在の政府見解である「国家備蓄等によりナフサは確保されている(不足0%)」は、ミクロな市場での流通の目詰まりを十分に考慮していない側面がある。需給バランスの改善とリスク回避のために有効と考えらえる対策は以下の通りである。

5.1 対策①:補助金の一括「上流化」によるフラット化

  • 内容: ガソリンなどの特定製品の出荷段階に対する個別補助金を見直し、原油およびナフサの「輸入・調達段階(上流)」に対して補助を一括して投入する。
  • 効果: 特定製品(ガソリン)のみに偏る経済的優位性を抑え、製油所の生産比率を市場の実需割合(適切なバランス)へと回復させる。

5.2 対策②:ガソリン価格の「シグナル」の復元と直接支援への切り替え

  • 内容: ガソリン価格を一律170円に抑える水準を緩和し、価格を緩やかに上昇させて効率的な利用(需要の抑制)を促す。これにより、得られた原油・ナフサ成分を化学原料へ振り向ける余力をつくる。
  • 補填: 特に経済的影響を受ける地方世帯や営業用トラック(緑ナンバー)に対しては、一律の価格値引きではなく、直接の給付・還付措置などでピンポイントに支援する。

5.3 対策③:有事統制法の検討

1973年の石油危機を契機に制定された緊急事態法について、適用の可能性を検討する。

  • 石油需給適正化法: 石油元売り各社に対し、ガソリン生産を一時抑制し、化学原料用ナフサを本来の必要量(月間145万kl)まで調整して出荷するよう促す措置などを検討する。
  • 国民生活安定緊急措置法: 医療用プラスチック、塩ビ水道管、物流パレットなどの重要物資を指定し、適正な価格監視や流通の調整を実施することで、過度な価格高騰や流通の目詰まりを防ぐ。

6. 現状の政府の対応(第5章との対比)

経済産業省は毎週、石油元売り各社や石油化学工業協会から、製油所の稼働状況、ガソリンの生産シフト、エチレンプラントの稼働率などの一次データを直接集計し、把握している。すなわち、政府は燃料油激変緩和補助金政策が化学原料用ナフサの流通に及ぼす影響を認識しつつも、消費者や生活者への直接的な影響を重視し、現在の対応を優先して継続している。

以下に、第5章で提示した「想定される危機管理」と対比し、2026年現在の政府の実際の対応を整理する。

6.1 現状の対応①:ガソリン限定の「下流・製品ごと」の激変緩和補助

  • 対比(5.1): 補助金の一括「上流化(原油段階一律)」を採用せず。
  • 現状: 政府はガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料に限定した「燃料油価格激変緩和措置(補助金)」を適用。店頭のレギュラーガソリン価格を「全国平均170円程度」に収めるよう、石油元売り企業に対して補助金を支給している。
  • 結果: この仕組みは事業者に対して「補助金対象となるガソリン」の生産を優先するインセンティブを与えることになり、結果として補助金対象外である石化ナフサの供給量が相対的に抑制される要因となっている。

6.2 現状の対応②:価格シグナルの「抑制」と生活者支援の維持

  • 対比(5.2): 需要抑制を促す価格シグナルの活用、および特定層へのピンポイント給付への完全移行は見送り。
  • 現状: 国民生活や地方経済への急激な負担増(物価高による支持低下等も含む)を懸念し、店頭ガソリン価格を170円前後に抑える仕組みを維持。予備費などの追加予算を充てて財政的な補填を継続している。
  • 結果: ガソリン需要の大幅な抑制が働きにくいため、原油の配分がガソリン側に偏りやすい構造が維持されている。

6.3 現状の対応③:有事統制法の不適用とマクロデータの強調

  • 対比(5.3): 「石油需給適正化法」および「国民生活安定緊急措置法」の活用は行わず。
  • 現状: 市場経済への急激な直接介入は避けるべきとの考えから、有事統制法の適用は見送られている。代わりに経済産業省は「十分な備蓄の確保」や「代替調達ルートの構築」の実績を公表し、「物量自体は確保されている」との説明を続けている。
  • 結果: マクロ的な需給データの安定(在庫の存在)を強調する一方で、補助金政策によって化学用ナフサの価格が上昇し、結果として実務上は「流通の偏り」が継続する事態となっている。

7. 今後の予測:2つのアプローチの分岐シナリオ

第5章で提唱した「政策の見直し」に移行した場合と、第6章の「現状の対応」をこのまま継続した場合、日本経済が辿る今後半年〜1年の予測シナリオを示す。

7.1 シナリオA:現状の対応(第6章)を継続した場合(現状維持における課題深化シナリオ)

ガソリン優先の補助金とナフサの市場委ねを継続した場合、日本経済はサプライチェーンの構造的打撃という課題に直面する。

① サプライチェーンの滞留と物不足の表面化(1〜3ヶ月後)

  • 物流・食料: 梱包用のストレッチフィルムやプラスチックパレットの流通量が減少し、倉庫での出荷業務に遅れが生じるおそれがある。「燃料は確保されているものの、積載・梱包資材の不足によって配送が停滞する」という状況が想定される。また、容器製造の限界により、食料品や日用品のパッケージ供給に滞りが出る。
  • 住宅・医療: 水道用塩ビ管、窓の樹脂サッシ、断熱材の調達難が長期化し、建築工事の工期が停滞する。医療現場では、使い捨て注射器や点滴用チューブなど、医療提供に不可欠なディスポーザブル製品の原料(ポリエチレン、塩ビ等)の確保が厳しくなる。

② 素材産業の基盤揺らぎと空洞化の懸念(3〜6ヶ月後)

  • 主要化学メーカーはエチレンプラント(稼働率60%台)の不採算に耐えかね、一部設備の休止や見直しに踏み切らざるを得なくなる可能性がある。これにより、国内の最先端素材の生産力が長期的に低下する懸念が生じる。
  • 川下の製造業(自動車、電機等)は、国内での基礎素材の調達不確実性を避けるため、サプライチェーンの再編(海外調達や拠点の移転)を進める動きを強め、産業の空洞化が進むリスクがある。

③ 財政負担の継続

  • 原油高が長期化した場合、ガソリン補助金の支給額が膨らみ続け、財政負担が継続する。結果として、価格抑制と基盤産業の維持を両立させることが難しくなる。

7.2 シナリオB:本来の対策(第5章)に移行・継続した場合(政策転換による安定化シナリオ)

「上流一括のフラット支援」や「適切な需給の調整」へ舵を切った場合、経済全体でバランスの取れた安定化が期待される。

① 化学原料の流通改善と価格安定(1ヶ月後)

  • 補助金を原油輸入段階にフラット化したことで、製油所における特定製品への偏りが解消。市場の実需に応じた割合で石化ナフサが生産され始める。
  • 化学用ナフサの流通量は回復に向かい、調達価格が落ち着くことで、化学メーカーの稼働抑制が緩和される。エチレンプラントの稼働率は安全圏(85%以上)へ向けて回復し、減産幅は急速に縮小する。

② 需要の最適化と重点支援の確立

  • ガソリン店頭価格が市場の実勢を緩やかに反映(190〜200円程度)することで、効率的な利用が進み、需要が抑制される。ここで抑制された原油成分が、化学原料(ナフサ)側へスムーズに融通される。
  • 浮いた資金を、配送用トラックや生活困窮世帯などの本当に死活的なセクターへ直接給付(還付)することで、ガソリン上昇に伴う影響を最小限に抑え込む。

③ サプライチェーンの安定化と信頼維持

  • 需給調整措置や価格監視の実施により、流通パニックが回避される。医療・建築・食品包装における素材不足は一時的な混乱にとどまり、サプライチェーンは維持される。
  • 「有事にあっても産業資材を安定供給できる国」としての信頼が保たれ、川下産業の国内留まりや製造業の安定化を強力に後押しする。

8. 結論:本報告の要約(まとめ)

本報告書が明らかにした「2026年ナフサ・エチレン危機」の核心的な要点は以下の通りである。

  1. 二重の危機構造(物理的寸断と政策的要因) 危機の契機はホルムズ海峡の緊迫化に伴う「輸入減少」という外部要因であるが、それを国内市場で偏らせる結果となっているのは、政府によるガソリン等への「価格抑制措置(補助金)」に伴う構造的インセンティブ(内部要因)である。
  2. 「不足0%」の統計と「17.2%の偏り」「38.8%の大減産」のギャップ 政府は十分な調達実績や国家備蓄のデータを背景に「ナフサは確保されている(不足0%)」と主張する。しかしその前提には、貯蔵の難しさ(時間軸の無視)や、追加加工が必要な「ナフサ相当品」の計上(スペックの乖離)といった実務的な盲点がある。実際には全体の11.1%が不足し、ガソリン向け(80万kl)が優先された結果、化学用の石化ナフサは「17.2%の実質的不足(145万kl→120万kl)」に晒されている。
  3. 「経済的合理性の追求」によるサプライチェーンへの影響 化学メーカーは、高騰した代替ナフサを調達してエチレンを製造しても、製品価格への即時転嫁が難しいため、稼働調整を選択せざるを得ない。この防衛策(引き取り調整と在庫滞留)の結果、エチレンの生産量は「前年比38.8%減」という極めて厳しい減産となっており、プラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されている。
  4. 全産業に波及する広範な影響 エチレンの大幅な減少は、社会のインフラに広く影響を及ぼす。物流用パレットやストレッチフィルムの不足による「物流の停滞」、食品パッケージの減少による「流通への支障」、注射器や点滴パック等の調達難による「医療への負荷」、塩ビ管や断熱材不足による「建設工期の遅延」など、広範な影響が表面化しつつある。
  5. 政策の優先順位の見直しと危機の構造的解決 生活者保護を目的とした「目立つガソリン価格の抑制」を重視するあまり、産業の基盤素材であるエチレンのサプライチェーンが圧迫されている現状は、長期的な経済成長への大きな課題である。今すぐ検討すべき対策は、補助金を「原油段階の一括化」に移行してガソリンとナフサの公平性を担保すること、ガソリン価格のシグナルを復元して需要抑制を促すこと、有事に備えた法制(「石油需給適正化法」や「国民生活安定緊急措置法」)の適用を視野に入れ、産業と国民生活の土台である「基礎化学原料」の安定供給を確保することである。
--------------------
さて、どうだろう。4割もの原料減産がある中で、パッケージの色を変えるだけで済んでいる(袋だってナフサを使うのだ)のは、むしろ褒められても良いのではないかとすら思う。
政府は、「石油需給適正化法」「国民生活安定緊急措置法」という飛び道具も持っている。やろうと思えばすぐにでもできるのだから、いつまでも詰まらない意地を張っていないで、政府はさっさと対策を打ち出すべきだろう。

2026年5月23日土曜日

国会・行政のオンライン化考察

日本における政府関係機関の地方分散政策は、はっきり言って上手くいっていない。筑波学園都市はまあまあ成功したが、国会の移転は止まったまま、省庁の移転も文化庁など部分的な移転に留まり、東京への出張が多くなって効率は悪くなってしまったそうだ。

さて、その文化庁について調べていて、おもしろいことが分かった。本格的な稼働に向け、2019年度(令和元年度)の10月から11月にかけて、大規模な業務シミュレーションが実施されたのだそうだ。このシミュレーションでは、文化庁次長(京都担当)および各課の一部職員を含む計193人が、1週間ごとに交代しながら京都の執務室で通常業務にあたり、国会質問に対する答弁作成や関係省庁調整を遠隔で行う、ということを行った。

その結果、効率は著しく落ちることが分かった。理由は至極簡単で、①通信環境が悪い、②ツール(テレビ会議、ファイルシステム等)が貧弱、③国会議員が紙・対面での打ち合わせを望んだため東京出張が頻繁に発生した、というものだった。しかし対策として①②が若干強化された程度で本番移行したため、③が主なネックとなって効率は上がらず、移転は尻すぼみになってしまった。

民間の会社、特に大手企業では、PCは一人一台が当たり前になっており、在宅勤務も何割という人が行っている。当然資料は全て電子化され、幹部レベルであってもテレビ会議システムも日夜使われている。この結果を見ていると「ガンは国会」と言えるのが分かる。つまり、省庁の地方分散を成功させるためには、国会がまずデジタル化する必要がある。

さて、ここで原点に立ち返ってみると、そもそも地方分散はなぜ必要なのだろうか。当初の資料によると、目的は地方活性化なのだそうだ。地方に官僚が多く引っ越すことによる経済効果を狙っている、と読み取れる。だがこれって、目的としては稚拙なのではないかと思う。

自分だったら、それはDR(ディザスタリカバリー)を目的とする。即ち、災害や紛争により東京が壊滅した時でも行政を止めないため、である。国会、国会議員、主要省庁は全て東京の中央区千代田区近辺に集中しているが、それでは首都直下地震や原爆一つで壊滅してしまう危険がある。そしてそれはどこかに(丸ごと)移転する場合でも同様である。つまり、移転先に爆弾が一つ飛んでくれば意味は同じだ。そうではなくて、最初からアドレスフリー、網の目状、だれがどこにいるか問わない、そして実際にあちこちに分散している、という状況こそが、目指すべき姿ではないかと思うのだ。

そしてこれは要するに在宅勤務、ノマドウォーク、などと同じことだ。つまりは資料を全て電子化して、テレビ会議ができるモバイルPCと、通信用としてスマホがあれば仕事が完結します、という状況を作ってやればよい。民間と同じ、実に簡単な話である。

さて、それでも国会議員が頑なに対面・紙を信奉する理由は、多分に情緒的なものであって、合理性があるわけではない。なので国会議員に示してやるべきは、電子化をしていないことによる「損」を定量化して見せてやることだ。

細かい途中計算は省くとして、生成AIと対話して出した結論は以下の通りだ。

損失カテゴリー 修正後の年間額 内訳詳細
直接的浪費(行政事務) 1.5兆円 既存0.9兆円 + 国会対応コスト0.6兆円
成長逸失分(機会費用) 2.3兆円 既存1.8兆円 + DX阻害分0.5兆円
合計:国家機能の総損失 3.8兆円 国会・省庁のアナログ連動による経済損益

ここで既存と言っているのは国会の分で、それに省庁の逸失分を追加したのがこの表である。つまり、全体としては3.8兆円の損失が毎年出ている計算になる。

この額はなかなかインパクトがある。防衛費の半分くらい、文科省予算の8割くらいだ。これを国会議員に突き付け、あるいは国民にバラして国会議員にプレッシャーをかけるのはどうだろう。そうして国会がデジタル化されれば省庁もデジタル化し、同じシステムを県議会や市議会も使うようになる。

こうなると、国会議員は地元(選挙区)から動かずとも仕事ができる。これはくしくも全国に国会議員が散らばることを意味しており、DRとしては理想になる。

省庁は全国で職員を募集できるし、場所によってはワーケーションに近いことも可能だ。地方はそちらの誘致を目指せば、他の企業のワーケーションにもなるので一石二鳥になる。庁舎を(特定の)地方に移転するよりずっといい。

国会議員や省庁職員がデジタル化に慣れてくれば、業務効率も向上するだろうし、釣られて民間のデジタル化も進むだろう。3.8兆円と書いたが、中期的にはそれを上回る効果を上げると考える。

2026年5月22日金曜日

国民への丁寧な説明AI

高市首相の説明責任に対する評判がすこぶる悪い。Xで一方的に発信するが会話対話が極端に少ない、おかげで閣僚ですら首相の意向を把握できていないのだそうだ。ぶらさがりもさせてもらえないので、報道でも情報量が少ない。

言い過ぎてボロが出るのが嫌なのかもしれないが、ボロが出るということは考えが浅いということでもある。意見交換しないということは考えがブラッシュアップされないということでもある。稚拙な政策をごり押しするのはやめて頂きたいのだが、そうではないというのなら、きちんと情報発信をすべきである。

そこで考えるのが、この「国民への丁寧な説明AI」である。これは首相に成り代わり、自分の政策や考え方について説明をするAIである。AIであれば何万人にでも同時に対応できるし、閣僚・報道・海外・子供にまで説明のレベルや内容を変えて、24時間説明し続けられる。Xと違って一方的ではなく質問や意見もちゃんと受け入れるから、説明される側の納得感も高いだろうし、同時にフィードバックも得られる。その統計分析もできる。これは双方にとって望ましいことだ。

このAIの学習は、AIと首相が対話することによって行う。首相は一日の大半をAIとの対話に費やし、AIの理解度をテストする。これ自体は大変だが、それさえ叶えれば後はAIが全てやってくれるので楽をできる。また、AIとの会話では当然想定質問が出てくるが、これは質問者(閣僚、重鎮、記者、海外、・・・)が出しそうな質問をAIが自動で選ぶため、首相自身が考えをブラッシュアップできる。その意味でもお勧めである。

閣僚とすら対話をしない首相でも、AIならば気軽に会話できるだろう。そして閣僚や政府要人なども同様のAIを育て、そのAI同士で会話させておけば、相互の意思疎通も完璧にできる。これで料亭も不要になるし、意思確認の質やスピードは何百倍にも上がるだろう。

また、このAIを使えば、国会における委員会や本会議での代表質問を代行できる。24時間質問を受け付け、回答ができ次第返信できる。時間制限も件数制限も不要、代表に限らず国会議員一人ひとりが質問できる。詰まらない質問でも回答生成にかかるコストは僅かであり、パフォーマンス的な質問もない(中継されないので)ので、議論は深まるだろう。

Xで発信するのも良いが、国会のHPでチャットを立ち上げる方が良いだろう。国民はそこで質問し、回答を得る。首相直々の回答であるから誤解もないし、デマが発生してもすぐに真偽を確認できる。

報道もこれを使えるのでいちいち記者が走り回る必要もない。上手く使えば、自動で質問しそれを纏めるだけで記事が書ける。しかもソースは首相自らなので信頼性はばっちりだ。ファクトチェックも自動で行えるので、全自動でニュース発信ができるようになる。しかも質問を基に作れるから、各社の個性もちゃんと出せる。報道にとっても良いことづくめだ。

懸念があるとすれば、大きくは二つだろう。第一は、AIが本人の思惑と異なることを返答してしまう危険。第二は、ライバル(党内党外)や海外のスパイなども混じってくるので、本人の思惑を必ずしも全てさらけ出してはいけないのだが、そういう深慮遠謀ができるかどうかだ。

そしてこれらへの答えは比較的単純であり、AIの進歩と学習によって、最初は稚拙だが徐々に成長していくだろう、だからどこで移行するかの問題である、ということだ。

さて、これって考えてみると、今中国で勃興している「死者を蘇らせるAI」つまり仮想人格AIと大して変わらないように思う。レベルはこちらの方がとんでもなく上ではあるのだが、それができるようになるということは、しばらくすると政府に本物の人間は要らなくなるかもしれない。

2026年5月21日木曜日

神話時代のシステムアーキテクチャ

もちろんこれはアンソロピックのMythos(神話)に引っ掛けたタイトルだ。Mythosのような、あるいはさらにそれを超えるようなAIが出てくる時代、コンピュータシステムはどう変わるべきなのだろうか。その究極の形態を考えてみた。

Mythosの凄いところは、既存の、かなり枯れたプログラムからも、脆弱性を大量に見つけたという実績である。つまり、AI時代のプログラムの要はセキュリティである。秒速で脆弱性を発見し突いてくるAIからの対抗が必要、というわけだ。

そのようなAI時代のシステムアーキテクチャは、以下のようなものになると考える。

  • システムAI、防御AI、I/O、ロガー、ログ解析機からなる
    • システムAIは、仕様書からダイナミックにプログラムコードを生成して実行し、直ぐに破棄する
    • ロガーは、あらゆるコンポーネントの変化をログとしてWORM(Write Once Read Many:一度書き込むと上書き・消去不能なメモリ)に書き出す
    • 仕様書自体もWORMに書き込まれている
  • データベースはなく、ログからデータを拾って使用する そのために高速なログ解析が必要であり、ログ解析機はそのために存在する
  • 防御AIは常に防御AIベンダーからの最新情報(脆弱性情報、攻撃手法)を受け取り進化する
  • 防御AIは多段になっており、システムAIと密接に連携する
  • 政府や自治体、民間企業などは独自のSaaS AIを提供している システムはこのAIに適宜質問をしながら実行される
    • 例えば納税システムでは、政府の法律AIを参照する これにより、税率が変わった時に即座に対応できる他、システムを軽くし価格を低減できる

なかなかぶっ飛んだアーキテクチャであり、定量的にはかなりオカシイところも含んでいるのだが、一応真面目である。

まず、システムAIが仕様書からダイナミックにプログラムコードを生成する理由は、大きくは二つある。まず、コードを固定すると、そこに脆弱性があれば付け込まれてしまうからだ。脆弱性を攻撃するにはその脆弱性があるところに何らかのコマンドやデータを送る必要があるが、コードが固定していないとその脆弱性に合わせたコマンドやデータを作れない。また、実際に与えられた命令とデータに則してコードを作ることで、余計なチェックルーチンを省くことができる。これはシステムの高速化につながる。

データベースを作らず全てをログにする理由は、改ざん防止のためだ。万一改ざんされたとしても、改ざん不能なログが残っていれば必ずたどって修正することができるが、データベースを改ざんされログも消されてしまうと、データは永遠に失われてしまう。ログが完璧ならデータベースを作っても良いかもしれないが、現在のシステムではログも書き換え可能メモリ(HDDなど)に記録されるのが普通で、それにより改ざんや消去の可能性がある。

このログは膨大なものになるため、そのままではデータベースのような高速アクセスが期待できない。このため、それを補助する専用のログ解析機を持つことにする。ログ解析機はインプットがログでアウトプットがシステムAIであり、命令はシステムAIから受ける。このパーツはある程度単純であるためハード化され、また命令のバリエーションは少ないので攻撃される危険は少ない。

特にI/Oや通信のログは、システムを通さずハードウェアから直接ログにするようなものが望まれるだろう。これもセキュリティ上の理由である。経路途中が汚染されるとログも汚染されてしまうので、それを防ぐためだ。

WORMの具体例としては、ガラスにレーザーで書き込むメモリが研究されているので、これを応用するのが良いと思う。

防御AIは、攻撃AIに対してGAN(敵対的生成ネットワーク)のような役割を持つ。つまり攻撃を感知して防ぐと共に、攻撃のパターンを学習して攻撃耐性を強化する。ただそれだけでは追いつかないだろうから、他の攻撃からの経験をベンダが集めて防御AIに渡すようなことが必要になるだろう。これはウイルス検知のパターンファイルのようなものだ。

また、防御AIは多段になるだろう。入口でのスクリーニングはもちろんだが、内部情報の変化やログを見て気付くこともあるだろうからだ。

独自SaaS AIの話は、

https://spockshightech.blogspot.com/2019/09/blog-post_9.html#google_vignette

常識のマイクロサービス

とほぼ同じものだ。

ちょうど、時の首相が消費税をゼロにすると言い出した事件があった。本ブログでも検証したが、これに対応して世の中の税を扱うシステムの全てを修正するには、兆円単位のカネと長い時間が必要である。その大きな理由は、税率がシステムの中で個々に(固定的に)定義されているからだ。

もしこれが最初から外部定義されている前提なら、消費税率がいくらになっても良いようにシステムを作っておいて、税率をパラメータとして外部から渡してあげればよい。その税率を渡す主体は、この場合は法務省が運営する法律AIがあればよいわけだ。

今回の場合は食料品だけ税率を変えるという特殊性もあったのだが、それも仕様書+システムAIによるダイナミックコーディングであれば解決するだろう。

さて、このアーキテクチャが定量的にオカシイところはどこかというと、まずはログである。現在のシステムにもログ出力はあるのだが、本システムのログの分量はその比ではなく、現在の百~万倍、あるいはもっと多いかも、というレベルになる。そしてその99.9999・・・%は無駄になる。WORMの例としてレーザーガラスメモリを挙げたが、おそらく書き込み速度が全然足りないだろう。

また、ダイナミックコーディングと一言で言うが、現代のClaude Codeなどの速度を見ていても分かる通り、必要なコーディング速度はやはり万~億倍くらいは必要である。

この不適合性は、生成AIが賢くなっても埋め辛いものであり、5年10年でできるかと言えば極めて懐疑的だ。50年くらいだったら可能性はあるかもしれない。ながーい目で考えよう。

2026年5月20日水曜日

脆弱性発振

ClaudeのMythosが話題になっている。あまりにも賢すぎるので、ソフトウェアの脆弱性をかつてないほど高速に見つけてしまい、パッチが追い付かなくなる、それがあまりにも危険なので一般公開しない(できない)、というものだそうだ。

ここから派生して色々考えていたのだが、そういう時代になると題記の「脆弱性発振」が起きる可能性があるのではないか、というのが本稿の主旨である。

「脆弱性発振」というのは私の造語であるが、もしかするとコンピュータ工学などでは似たような意味の用語は既にあるかもしれない。その意味は、「ある脆弱性を修正することで別の脆弱性が発生し、それが発散し、回り回って元の脆弱性に戻ってしまう」ということである。

分かりやすく言うと、将棋の千日手である。ただ実際にはもっと複雑で、システムのあちこちで不具合と修正が拡散し、全体としては次第に大きな波になって、最後には破綻してしまう、というようなことが起きるのではないだろうか。

単純な例で言うと、大型飛行機やヘリコプターの操縦がある。これら重く大きい航空機は、操縦桿を操作しても直ぐには曲がらず、遅延して曲がる。なのでそれをあらかじめ見越して操縦桿を先に戻し、更には反対側に操作し、また正位置に戻す、ということをやってやらないといけない。このタイミングを誤ると、右に行き過ぎて左に戻し、今度は左に行き過ぎて右に戻し、ということを繰り返しながらだんだん振幅が大きくなっていき、最後には制御不能になって墜落してしまう。

航空機の場合は左右といった単純な発振だが、巨大なコンピュータシステムではあらゆるサブシステムが同時に別の周期で発振し、制御不能になって破綻する、というようなことが考えられるわけだ。

この発想は、Mythosがないと起きない概念ではない。だが、高速にバグを発見し直ちに修正するようなシステムが常駐してしまうと、全体のバランスを考えずに即座に修正することで、かえって発振を促す危険があり、だからといっていつまでも修正しないわけにもいかないので、カオス状態になってしまうのだ。

また、世界がコンピュータで繋がる時代になると、この脆弱性発見・自動修正の仕掛けは世界規模になり、自分及び自分の国では制御できないような巨大な発振になる恐れがある。

通常の波では転覆しない豪華客船でも、三角波と言われる「波と波が(偶然)重なった巨大な波」にはあっけなくひっくり返ってしまう。それと同じように、コンピュータシステムがこの発振によって一気に破綻するという可能性は存在する、と思うのだ。

脆弱性発振から逃れる方法は、素直に考えれば二つだけであり、それは脆弱性の自動検知・自動修正プログラムを停止させることとネットワーク遮断である。後者は外部から使用不可能になるので事実上は前者一択となる。だがこの場合、脆弱性が放置されるため、そこは覚悟する必要がある。もちろん「完璧な脆弱性制御」は第三の方法なのだが、正解は必ずあるとは限らない。

とまあ脅しはしたけれども、ここまでの発想はJust Ideaであり、計算機工学的な裏付けはない。ぜひ専門家の意見を聞いてみたいものだと思う。

2026年5月15日金曜日

性別を二つにするのはなぜいけないのか

 だいぶ古い話だが、第二次トランプ政権で、多様性政策撤廃の大統領令が発せられた。

https://jp.reuters.com/world/us/IOISYYZHL5IRVEUVZAFA4DAACY-2025-01-20/

パスポートなど政府発行の身分証明書について「男性または女性という個人の変更不可能な生物学的分類」に基づくことを義務付ける、というものだ。今の多様性の風潮に真っ向から反対する施策である。

個人的にはこの風潮には反対である。本稿ではその理由を述べる。

まず、「男性または女性という個人の変更不可能な生物学的分類」であるが、多くの人が考えるLGBTQとは関係なく、男性でも女性でもない(男性でも女性でもある)という生物学的な分類は、現実問題として「存在する」というのが事実である。もちろん人間の場合である。

染色体におけるXXとXYという話はよく聞くが、これらに属さない染色体、例えばXXY、XO、XX/XYモザイクといった染色体を持つ人は実際に存在する。また性腺に関しても、精巣と卵巣の両方を持つ人、片方の性腺が未発達ないしは欠損しているという人、性ホルモンに関してもその程度が一般的な男性女性とは異なる特徴を有する、などもあるそうだ。また、そういう特徴が成長とともに変わることもある。またもちろん、性転換手術をすれば、それらも変わる。

だから、生物学的分類はそもそも男性と女性だけではないし、変更不可能でもないのだ。つまり、最初の定義の時点で既に自己矛盾している。生物学的分類に沿うことを定義とするならば、それは変更可能にすべきであり、またまた種類も最初から二つであってはならない。

次に、LGBTQの問題は、生物学的な性と性自認(自分が自分の性を何だと自認しているか)、性指向(恋愛や性愛の対象)と、主に三つの軸で論じるべきものである。しかも、性自認と性指向に関しては、二元論(男か女か)ではなく様々なグラデーションが存在している。例えば男40%女60%と認識している人、バイセクシャルでも嗜好に偏りがありその程度も様々、逆に性指向がほとんどない人、などである。そういう人を全部ひっくるめると、調査にもよるが全人口の8〜15%は性的マイノリティと推定されているそうだ。

一方、日本の障害者(精神障害者、身体障害者、知的障害者)の割合は、全人口の7.6%で、一千万人弱いると言われている。性的マイノリティより少ない数だ。その障害者に対して、全国的に点字ブロックや車椅子対応トイレを用意している一方で、性的マイノリティを無視するというのは公平性を欠く行為だ。それは、性的マイノリティに対する差別だと言われても仕方がない。障害者差別と同じく、それは為政者としてはあるまじき行為である。

障害と性自認は別だ? そりゃそうだ。だが、違うのは良いとして、それは無視するに値する違いなのだろうか。例えば、障害者のためのケアには、教育や社会インフラの整備、法律での対応などと、莫大なコストが掛かる。点字ブロック一つとっても、障害者雇用支援法にしても、あるいは支援学級にしても、その対応には兆円単位でのコストがかかっている。一方で性の多様性を認めることに、差してコストは掛からない。もちろんゼロではないしそれなりには掛かるが、障害者対応に比べれば微々たるものである。なぜコストの掛かることはできるのに、コストの少ない方を無視するのか。そこにはやはり差別しか理由が考えられない。

至極単純な話、人口の10%程度も特定の集団がいるのなら、その集団の存在を認めよ、差別するな、というだけのことなのだ。障害者だけでなく、15歳未満の子供も10%程度だし、ひとり親世帯も、貧困層も、75歳以上の高齢者も、10%前後の割合を占めており、それらは皆ケアされている。性的マイノリティだけが冷遇される理由は見つからない。

それは主にトイレと公衆浴場の問題、パスポートや住民票などにおける表記の問題、同性婚など婚姻と相続の問題、スポーツ大会などへの参加資格の問題などであると思われる。トイレに関しては多目的トイレがすでに普及してきているのでこれを更に発展させればよい。公衆浴場に関しては更衣室と浴場に個室を作ること、公的書類の表記や婚姻相続については法改正とシステム修正、となるだろう。

浴場だけが厄介だが、他はすぐにでも着手可能であり、それほど費用は掛からない。抵抗して屁理屈をこねている暇があったらさっさと進めてしまえばよいだけの話だと思うのだが。

注目の投稿:

差別するAI

  法曹界がIT化する、というのをニュースでやっていた。これは証拠のDB化や手続き等のオンライン化を含むもので、まあ真っ当な進化と言えるのだが、そもそも法律がデジタル化していないのは何なんだろう、さっさとプログラム化してしまえばよいのに、と思っていた。これは以前に、 法のプログ...

人気の投稿: