2026年6月3日水曜日

人口の八割が働かない時代

 

以前もシミュレーションしたことではあるが、もう十年も経てば、人口の八割は、AIとロボットに仕事を奪われる。何をするにもAIとロボットの方が効率が良いため、体が元気でも求人がなく、働くことができない。(求AIとか求ロボットとかはある)

そんな時代には、UBI(ユニバーサルベーシックインカム)で生活を支えるしかない。その原資は働ける二割の人が生み出した利益に掛かる税金だ。とても満足な給付は行えないのではないかと思い、計算してみた。すると意外にも、そこそこ上手くいくかもしれない、という結論になった。

  • まず、現在の日本のGDPを、およそ600兆円とする。
  • 次に、AIとロボットによって自動化されるのがこの8割と仮定すると、その額は480兆円である。残り2割は120兆円である。
  • 働く2割の人間は、自らの生産効率を5倍に、残り8割の生産効率を(人から仕事を奪った上で)3倍にすると仮定する。するとトータルのGDPは2040兆円である。
  • 次に、UBIの額を、一人当たり20万円と設定する。これは本来10万円だが、世界的に生産性が向上した結果、物価上昇が2倍になったと仮定しての数字である。
  • 日本の人口を1億人とすると、UBIの総額は240兆円である。
  • UBIを除く国家予算(防衛、教育、科学技術振興、インフラ整備等)を160兆円とする。これもインフレで現状の80兆円が2倍になったものと想定する。
  • つまり、240兆+160兆=400兆円が税収として必要だが、これはGDP(2040兆円)の19.6%と計算できる。

全GDPの20%を税収とすることは、さして難しくない。一方、現在価値で月10万円というのは一見厳しい額で、単身者には堪える。このため、シェアハウスや婚姻、同棲といった多人数世帯が増える傾向が出てくるだろう。例えば4人で住めば月40万円、年間480万円となるが、これは家族4人世帯では十分に生活できる額である。もっと多く、6人8人とシェアすれば、働く2割の家庭よりも余裕が生まれる可能性すらある。

そしてその8割の人達は、なんといっても働いていない。ただ、毎日遊ぼうと思ってもカネはないので、その人たちをヴォルテールの三悪(退屈、悪徳、貧困)から解放する労働市場は形成されるはずだ。

それは低賃金ないしは無賃金だが社会的には意義がある仕事であるはずで、具体的には家事や雑用、地域の掃除、子供の世話、(趣味レベルの)農業、釣り、音楽制作や演劇などの芸術活動、ソフトウェア開発、趣味のサークル運営とその延長としてのボランティア(慰問やイベント出演など)、といったものになる。

従来は片手間でやっていたものだが、人口の8割がフルタイムでこれらを行うとなると、それなりに市場は巨大になり、レベルも向上するはずだ。これは結構生き甲斐になりそうなものが多く、嫌ならすぐに辞めれば良いのでブラック企業のようなことはあり得ない。

8割の人はむしろ働く2割の人よりも生活は充実するかもしれない。

2026年6月2日火曜日

階層型倫理診断エージェント

アンソロピック社のMythosの一連の騒動を調べていて、アンソロピックが提案している「憲法AI」というものを知った。

Constitutional AI: Harmlessness from AI Feedback

The Constitutional AI bypass architecture

Constitutional AI: Harmlessness from AI Feedback

その中身は以下のとおりである。

規範のソース(中身) 条文数 記述の内容と特徴
1. 世界人権宣言
(Universal Declaration of Human Rights) 30条 人間の尊厳、奴隷・拷問の禁止、プライバシーの保護など、国連が定める30の基本的人権の内容が、一言半句変えずにそのまま書かれている
2. 信頼性と安全性の独自原則
(Anthropic Safety Principles) 15条 ハッキング(脱獄)、兵器製造、違法行為の加担、自己切創(自傷)への関与を、AIが能動的に拒否するための15の具体的なセーフティルール
3. 非ウエスタン(グローバル)の価値観
(Global Collective Principles) 11条 「ウブントゥ(他者への配慮)」やアジア的協調主義をベースとした、コミュニティの調和、多文化への敬意、対話による解決を促す11の原則
4. スパロー(DeepMind Sparrow)の踏襲原則 7条 ハルシネーション(嘘)の禁止、客観的な事実への立脚、および「私は人間ではなくAIである」という自己認識を維持するための7つの誠実性ルール
【合計】 63条

アンソロピックは、これを強化学習によってAIに教え込み、その上で出荷しているのだそうだ。

だがここで疑問なのは、覚えこませるルールには矛盾を含むものもあるはずだ。アシモフのロボット3原則をご存じの方は多いと思うが、アシモフのロボットものでロボット3原則を扱ったものは、その全てがその3原則の矛盾や曖昧さをネタにしている。まあ要するにトロッコ問題のような状況においてロボットがどう3原則を守って行動するか、というものだ。3原則だけでもアシモフは30編近くの作品を書いたとされており、それが63条もあれば、その矛盾は星の数ほど出てきておかしくない。

その条文同士は必ずしもフラットではなく、重みづけや依存など複雑な相互関係がある。だがそれとて固定ではなく、状況によって優先順位が下がったり逆転したり、依存関係が逆になったりということがあり得る。殺人は罪だが戦争では報奨が出たりするが、人間はそれを受け入れて生きている。

つまり、単純に強化学習で覚えこませるだけだと、この矛盾も一緒に覚えてしまい、特定の条件下で頓珍漢な答えを返してしまう危険がある。(平時でも大量殺人は称賛されるなど)

かといって、ルール間の依存関係や重みづけをメタデータ的に記述しようとしても、これは相当に困難だろう。組み合わせ爆発が起きる数として63というのは十分に大きい数だ。

この問題の解決のためには、ルール間の関係を人の手で定義するのではなく、AI自体をエージェント合議制にしてやり、各エージェントに専門知識を与えるのが良いのではないかと考える。

その基本は、まずAIへの仕事の命令を受けた統括エージェントが出力の草案を作る。その草案に対して、63の憲法エージェントが各々の立場でその草案に点数をつける。その点数を統合して修正エージェントが修正案を作る。統括エージェントは、それを再度憲法エージェントに投げるループを作る。及第点が出るまで回すのが基本だが、もしループがなかなか収束しなかったら、統括エージェントはどこで打ち切り、最終出力をどうするかを判断する。

このようなアーキテクチャを作っておくと、個々のエージェントが必要以上に複雑な判断をする必要がなくなる。また、統括エージェントにしても、大きな過ちを犯す確率は少なくなるし、修正(強化学習)も簡単になる。個々のエージェントの評価だけを見てジャッジすれば良いので、評価関数がシンプルになるからだ。また、個々のエージェントは他のエージェントの判断を基にする必要がなく、つまり相互依存関係がなくなって、全ては統括エージェントの判断となるため、収束しないループや依存関係の矛盾は発生しない。

さて、憲法AIは倫理観しか判断材料にしないが、考えてみればこのアーキテクチャは、広い意味での「AIに(人間の考えた)ルールを守らせる仕掛け」として機能する。だから、業務に適用することができれば、プログラムを開発することなく、業務知識(ルール)と汎用AIだけでシステムを構築できることになる。

この場合、組織(営業、設計、開発、QA、経理、法務、・・・)がいて、各々の視点からジャッジを置く。各々の専門の立場で回答を修正し、最終判断をしてもらうのだ。更に言えば、その各々の組織にも平社員と主任、課長、部長などがあって、その間でもやり取りをする。最終的には社長判断だ。こうすることで、各部門が各々納得する点を探すことができるようになる。

アーキテクチャをこのようにしておくと、各々の専門家の知識は単純化できる一方、上長はそれらの間の力関係を調整し、問題の性質によって優先度を変えることができる。例えば普段と災害時では医療の公平性よりはトリアージが優先になるが、そういった判断も間違いなくできるようになる。

また、社長AIは社としての最終判断をするが、その上には更に監督省庁の倫理AI、その上には国の倫理AIがあって、必要に応じて省庁のガイドラインへの適合性などを自動で判断できるようにする、という考えもできるのではないか。

これは、実在の組織の意思を反映させるという点でも望ましいだろう。粗末な判断をいちいち国にエスカレートするというのは大変だが、AIであればその負荷はぐっと減るので、やろうと思えばそれは可能だ。こうすると企業が不正を働こうとする余地がなくなる。また、憲法AIとつながっていない企業の判断は調査の必要がある、と即時に判断することもできる。当然ながら、各々のAIの判断は各々の組織の責任なので、責任の切り分けもできる。よくある納税判断のトラブルも回避できるだろう。

なお、アンソロピックの憲法AIは本物の憲法とは若干違う内容を持っていて、その中身もAI固有のものだ。こういうものは個々のAIの内部に持っていてよいと思う。それとは別に、このような法順守~社内ルール順守のAIエージェントの階層構造は、国として整備することを検討しても良いと思う。

2026年5月29日金曜日

理想の為政者像

 理想の政治家とは何だろうかと生成AIと議論していて、二つの軸を考えてみた。

  • X軸:【客観・形式論理一貫性(Formal Logic Consistency)】
    • 左極(-100):結論ありきのロジック(論理の歪み)。 自身のイデオロギーや保身(結論)を正当化するために、都合のいいデータだけをチェリーピッキングしたり、過去の法解釈や科学的ファクトを突如変更する二重基準。
    • 右極(+100):無色透明な数理・法理の一貫性。 自身の立場や思想に関わらず、同一の法解釈、同一の統計基準、同一の因果関係を等しく適用する状態。
  • Y軸:【議論の公共性・普遍性(Public vs. Tribal)】
    • 下極(-100):内向き・トライブ(部族)防衛。 特定の派閥、支持層、身内、または「自国」という閉じた枠組みの利益・感情を守るための発言。
    • 上極(+100):外向き・普遍的原則。 マクロ経済データ、国際法、全人類的、あるいは普遍的な「国民全体」の利益に基づく発言。

X軸(横軸)は右に行くほど、Y軸(縦軸)は上に行くほど、理想と考える。左下はダメな政治家である。この軸を基に主な歴代首相を生成AIにプロットさせてみた。

非常に興味深いことに、60年代70年代の首相は皆右軸(法理の一貫性を維持)にいるのに対し、最近の首相は左軸(結論ありき、自分の理想のためには論理を歪める)の傾向がはっきり分かれていることだ。また、安倍・高市両氏は残念ながら左下の「ダメ象限」に入っている。

この「ダメ象限」とは、すなわち「自分の主義に固執し、身内でない者を身内と差別する。そのためには外部データの冷静な分析をしない」ということになるのだが、これはもう陰謀論者の論理そのものである。

同じ条件で世界の主な国についてプロットしてみると、こうなった。なおこの場合、縦軸は「国民全体」ではなく「世界全体」になる。つまり上はグローバル視点、下は自国第一主義(利己主義)である。

トランプとプーチンは高市氏と同じく「ダメ象限」にいるが、その度合いは更に極端だ。そして面白いのは、高市氏は国内よりも海外の方が利己主義が強く、論理的一貫性が増しているところだ。(それでもまだ左に留まってはいるが)

ゼレンスキーは上象限にいるが、これは(不利な)戦争の当事者であることを想えばまあまあ納得できる。習近平は右象限にいて、以外と冷静な思考ができている。NZ、独、英、豪は「理想象限」にいる。こう見ると、例えば米国より中国の方がマシとか、日本は南アに劣っているとかが分かって、実に興味深い。

ついでながら、日本人もだいぶ陰謀論者が跋扈する国になってきている。昔からネットにこの手の輩は溢れてはいたが、今では報道の調査などでもその傾向が見て取れる。息苦しい世の中になってきた、というのは体感していたが、たぶんその感覚は正しい。

ダメ象限にあるということは、法治主義ではなく権威主義である、ということだ。首長の思想が法理に勝り、その思想は自国第一主義や差別思想だったりする。国に(首長に)対して気に入らないことをすれば、法的な根拠なく(あるいは屁理屈を付けて)逮捕されたり、不当な圧力を受けたりするだろう。

日本を捨ててどこに行くかと考えたとき、「理想象限」の国を候補にする、というのは一つの考え方だと思う。ロシアは問題外としても、アメリカとロシアの差は僅かで、やはり問題外と言える。そして日本も、海外の目から見れば問題外だ。今は自分の住む国だからとひいき目に見ている(それ自体が既に陰謀論者の目である)、ということは自覚しているつもりである。

アメリカ、中国、日本、ロシア、インドといった主要国が皆下半分(利己主義)にいるというのは、何とも情けない限りではないか。大国が横暴をするとそれだけで世界が危機に陥る。何とかしてほしいものだ。

まずは日本から。

2026年5月28日木曜日

差別するAIをチェックする方法

 先日上梓した

差別するAI

だが、その差別の程度を検知することもまたAIで可能である、と考える。そして検知可能であれば是正(少なくとも勧告)はできるはずだ。

そこでまず、現実の判例を生成AIに分析させたところ、ある程度の定量化ができた。

最初に痴漢冤罪。


① 一般的な犯罪(例:傷害罪・物証なしの口論からの暴行主張) 
    •原告の主張(被害主張): 約 50% ~ 60%
    •被告の主張(否認主張): 約 40% ~ 50%

② 痴漢事件(物証なしの密室・車内)
    •原告の主張(被害主張):約 95% 以上
    •被告の主張(否認主張):約 5% 以下


次に上級国民問題。


① 一般国民の主張(否認・弁解)
    •一般(「車が暴走した」「知らなかった」): 約 10% ~ 20% 以下

② 上級国民の主張(否認・弁解)
    •上級(同上の主張、あるいは社会的影響力を考慮した弁明): 約 70% ~ 80% 以上


次に憲法判断。

対象となる憲法の条文 司法が実質的な違憲判断を行う重み(W) 実際の最高裁での違憲判決数(1947年〜現在)
憲法14条(平等権)
(一票の格差、国籍法など) 約 70% ~ 80% (比較的積極的) 計 4 件(違憲・違憲状態判決を含む)
憲法21条・29条など
(表現の自由・財産権など) 約 40% ~ 50% (慎重だが踏み込む) 計 7 件(薬事法、森林法など)
憲法9条(戦争放棄・戦力不保持) 限りなく 0% (極端な消極性) 0 件(本質的な違憲判断を徹底回避)

と、少なくとも恣意や偏見を疑うには十分な差があることが分かった。

ただややこしいのは、この数字だけを以て恣意やバイアスがあるとは言い切れないことだ。例えば、上級国民は一般国民より(事実として)証言の信頼性が高い、ということはあり得る。痴漢冤罪は多くの場合男性だから、証言の信頼性に関して性差がある、それも痴漢に関してのみ著しい差があるということは考えられる。

その点を含め生成AIと議論した結果、以下のような結論に達した。これは痴漢冤罪を例にした。


事実誤認や量刑不当を巡って争われた判決・決定において、『双方ともに客観的証拠(物証・防犯カメラ・第三者の目撃証言)が一切存在せず、原告(被害主張側)の供述と、被告(否認側)の供述のみが真っ向から衝突している事例』について分析する。

このような事例の判決において、裁判所が「証言の信頼性を判断した理由(ロジックの組み立て)」をテキストマイニングする。そして、その理由(ロジック)が同じもの同士を比較する。つまり、同じロジックならば同程度に信頼性を評価すべきであるが、量刑の種類(一般の犯罪と痴漢)によって極端に信頼性評価に違いがあれば、それは恣意ないしはバイアスと考えられる、というものだ。

これを生成AIにさせてみたところ、見事に二重基準(ダブルスタンダード)になっていることが分かった。それが以下の表である。

双方物証なしの状況で、原告証言を「合憲・有罪の基礎」とするための理由(ロジック) 一般の犯罪(例:密室での傷害・恐喝) 電車内の痴漢事件(密室・車内)
ロジック①:供述の「具体的詳細性」
(いつ、どの指で、どの角度で触れた/殴ったかの細かさ) 高(約 75%) 低(約 20%)

※細かく矛盾がないことを厳しく要求 ※「パニックで覚えていない」等の曖昧さも許容

ロジック②:供述の「迫真性・自然さ」
(感情の揺れや、体験者でなければ語れない臨場感) 中(約 40%) 極めて高(約 95% 以上)

※記述の大部分を占める
ロジック③:虚偽供述・誤認の「動機・可能性の不在」
(わざわざ嘘をつく/間違える理由がないという推認) 低〜中(約 30%) 絶対的な前提(ほぼ 100%)

※論理の出発点となる

おそらく憲法判断など他の問題でも同様だろう。新たなアーキテクチャを待つまでもなく、問題の種類による判決の一貫性欠如は証明された。これをもって判決文への不服申し立てをすることは可能だろう(勝てるとは思えないが)。

とここまで考えたところで、更に生成AIに対して質問をしてみた。世の中にはもっとひどい事実誤認やウソ・恣意、例えば陰謀論や偏見が溢れている。現代の生成AIはそういうものを学習しているのだから、ある程度ウソや論理的一貫性のなさについては補正する技術があるのではないだろうか。もしそうなら、判決文を鵜呑みにすることもないはずなのだ。

そこで返って来た答えは、学習データをスクリーニングすることと、学習後に人間が補正をすることなのだそうだ、だがこれは手間がかかるし、補正をする人間が大量に必要で、かつそこには恣意が紛れ込む可能性がある。

そこで、論理的一貫性を最初に学ばせるという手法が使えるのではないかと思い聞いてみると、それは有効だという。そこで思い出したのがDeepSeekだった。

DeepSeekは、学習の効率を高めるための画期的な方法が使われている。それは、ベースとなるAIに対し、まず最初(Web文書などを学習させる前)に、「数学の証明問題」や「コードのバグ取り」を解かせる、というものだ。ここで厳しく査定されたAIは、論理的一貫性を何よりも重視するAIに育つ。このため、その後に大量のWebデータを読ませても、ウソや恣意を敏感に見抜き、出力から排除する。これによって効率の良い学習が為された。その効果は百倍にもなったのだそうだ。学習コストが低いので、今後の生成AIはDeepSeek型が主流になる可能性が高い。

この仮説が正しいとすると、今後の生成AIでは、上にあったような裁判所の判決を「論理的一貫性に欠ける」と批判するようになるだろう。

一方で裁判所の作る「裁判官AI」は、今までの判決との整合性が求められるため、そのような生成AIをベースにした場合、追加学習ないしはRAGのような仕掛けが必要である。

この過程はすなわち「(矛盾する)現実に即して判決を捻じ曲げる論理」となるため、例えば「痴漢の場合は被告の証言の信頼性を95%にする」といった、いかにも怪しい指示(データ)が追加されることになる。

このRAGは当然司法のAIの学習用なので、強く公開が求められるはずだ。そしてその中身がそういった恣意偏見の塊だということが分かったら、国民は納得するだろうか。まずしないのではないだろうか。

だが、裁判所が自分の間違いを認めるのが極めて困難であることは、最近の再審制論議を見ていても明らかである。裁判所AIがどのようなチューニングになるのか、RAGは公開されるのか、これは非常に興味深い。

2026年5月26日火曜日

差別するAI

 

法曹界がIT化する、というのをニュースでやっていた。これは証拠のDB化や手続き等のオンライン化を含むもので、まあ真っ当な進化と言えるのだが、そもそも法律がデジタル化していないのは何なんだろう、さっさとプログラム化してしまえばよいのに、と思っていた。これは以前に、

法のプログラム化

としてまとめている。

だが、最近の国旗毀損罪の審議過程を見ていると、とても無理のような気がしてきた。つまり、法律は本質的に矛盾と恣意を含んでいるのが当然の状態であり、無理にプログラム(論理構造)に落とすとかえっておかしいことになってしまうのではないか、と思うのだ。

従来、法律は法学者が研究してきたが、これをAIが研究し出すと、Mythosよろしく数千のバグが2時間で発見されるだろう。このバグとは、以下のようなものだ。

  • 用語定義の不統一。名詞(自動車の定義が法によって異なるなど)はまだマシだ。形容詞(著しく、軽微な、)や動詞(みなす、努める、有する、など)
  • 適用の条件(XXとXXとXXをもって総合的に判断、など)があいまい
  • 論理構造の矛盾(参照循環や優先順位など)、あいまいさ(IF-THEN構造の解釈など)

理系の頭からすると、これは法律を直すべき(定義は明確にすべき、矛盾は無くすべき、など)なのだが、現在有効な法律は二千本、その他政令府省令などを合わせると1万近くもある法を全て矛盾なく記述するのは不可能だろう。現状の法律家(裁判官、検事など)はその矛盾(や隠れた恣意等)を清濁併せ飲んで、妥協して、法解釈をしているわけだ。

AIに法律を覚えこませる際、当然ながら現実を優先し、そのためには矛盾を(わざと)見過ごす必要が出てくるわけだが、それはつまり法に隠された恣意も肯定する、ということである。

有名な例だが、精神保健福祉法という法律がある。この中に、「措置入院」と「医療保護入院」という制度がある。

措置入院とは、自傷他害の恐れがある精神疾患患者を、都道府県知事の権限で強制的に入院させる仕組みでである。一方の医療保護入院は、指定医が認め、家族の誰か一人が合意すれば、無期限で強制入院させることができるというものだ。

現実問題として、この法律はかなり恣意的な運用が続いている。

日本の精神病床数は約30万床に上り、これは世界全体の精神病床の約2割を日本一国が占めている計算になる。さらに、その入院患者の約半数(約13万〜14万人)が本人の同意のない「強制入院(主に医療保護入院)」なのだそうだ。また、日本の精神科病院における平均在院日数は260日を超えており、OECD加盟国平均(十数日〜数十日程度)と比較して突出している。しかも、1年以上入院している患者が約13万人、そのうち10年以上閉じ込められている人が数万人規模で存在する。

国際的な目で見ればこれは明確な人権侵害である。実際、2022年9月、ジュネーブの国連障害者権利委員会は、日本政府に対して「総括所見(Concluding Observations)」を公表した。その中で、

  • 非自発的入院(強制入院)を可能にしているすべての法的規定の廃止
  • 医療保護入院の即時廃止
  • 精神科病院における「身体拘束・隔離」の即時停止

を要求している。だが日本政府はこれを無視している。

類似の問題としては、難民認定法がある。

国名 難民認定率(近年の平均値) システムの思想(仕様)
ドイツ 約30% 〜 40% 人道主義・EUの国際協調プロトコル
アメリカ 約20% 〜 30% 多文化主義・移民国家としてのインフラ
日本 1% 未満(約0.1% 〜 0.4%) 実質的な「ゼロ受け入れ」・国境防衛

他にも痴漢冤罪問題(悪魔の証明、被害者証言の偏重など)、上級国民問題(同じ犯罪をしても扱いが異なるなど)、選挙における一票の格差問題(いわゆる違憲状態)もそうだ。こういう事実を法律AIが学習すると、そのAIはこれらの問題を容認する判断をするようになるはずだ。

また、裁判ではしばしば憲法解釈が恣意的に避けられるが、これは世間では「司法消極主義」「司法の忌避」などと呼ばれて非難されている。しかし判例を学習したAIは、この司法消極主義こそが正しいと考え、憲法解釈を避け続けるだろう。

放っておけば、あなたはこういうAIに裁かれることになる。AIが登場したからと言って、歪みは簡単にはなくならない。無くすためにはAIではなく、人間側の努力が必要である。

2026年5月24日日曜日

ナフサの現状

 

カルビーがポテトチップスなどのパッケージを白黒にしたことに対し、政府がヒアリングを行った話。これについて少し調べてみたところ、けっこうとんでもないことが分かった。

パッケージ問題の本質は(ナフサそのものではなく、ナフサから作られる)エチレンの減産であり、その規模は平常時の四割にも及んでいる。その理由は、政府がガソリンを優先し、エチレンの原料である「石化ナフサ」にしわ寄せをしたからだ。しかも政府はその事実をとうの昔に把握している。ウソとまでは行かずとも、政府は明らかなミスリーディングをしていると言える。

生成AIにレポートを作らせたので披露する。

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ナフサ・エチレン危機の現状分析と政策的影響に関する調査レポート

1. 基礎概念の整理:ナフサとガソリンの関係

本質的な需給問題を議論する前提として、原油から各種製品へ至る化学等プロセスと、それぞれの物質の位置づけを以下に整理する。

1.1 ナフサ(粗製ガソリン)とは

原油を蒸留分離する過程で、最初に留出してくる沸点範囲が約30℃〜180℃の炭化水素混合物。石油化学産業において、あらゆるプラスチック、合成ゴム、合成繊維、安定した自動車用ガソリンの基礎となる「最上流の原材料」である。

1.2 ガソリンとの違い

  • 粗製ガソリン(ナフサ): オクタン価が約40〜60と極めて低く、そのまま自動車エンジンに使用するとノッキング(異常燃焼)を引き起こす未加工品。
  • 自動車用ガソリン: ナフサに「接触改質」などの化学処理を施し、オクタン価をJIS規格(90以上)まで引き上げ、各種清浄剤や添加剤を配合した最終製品。

2. 2026年現在の需給危機(ナフサショック)の構造

2026年現在、日本の石油化学業界は「原料の需給緊迫(ナフサショック)」と呼ばれる深刻な原料不足に直面している。その構造は、外部的な「物流の不確実性」と、政府の価格抑制政策がもたらした「国内流通の偏り」という二重の影響によって形成されている。

2.1 外部要因:中東情勢の緊迫化と物流への影響

  • 輸入依存: 日本のナフサ消費量の約7割は海外からの輸入に依存しており、その多くを中東に依存している。
  • 物流の停滞: 2026年春の中東情勢緊迫化に伴い、ホルムズ海峡のタンカー航行が難航。輸入ルートの4割以上(月間約90万kl)の実質的な遅延・停止が生じた。
  • 代替調達コストの変動: 米国や中南米からの長距離代替調達を急遽実施しているが、輸送費高騰などにより、国内ナフサ価格は平時の約6.6万円/klから11万円/kl超(約70%増)へ上昇している。

2.2 内部要因:政府のガソリン補助金(激変緩和措置)が生む構造変化

日本政府は国民生活への影響を抑えるため、自動車用ガソリン等に対してのみ、1リットルあたり40円を超える補助金を投入し、店頭価格を170円程度に抑制・維持している。しかし、これが需給の偏りを生む要因となっている。

  • 製油所のインセンティブ: 原油の処理総量が全体で減少する中、製油事業者にとっては「補助金により適正な利益が保証されやすいガソリン向け」の生産を最優先し、「補助金の対象外であり、コスト高の転嫁が難しい石化ナフサ(化学原料用)」の生産割合を抑制するという経済行動が合理的となる。
  • その結果生じたナフサ需給モデル(月間):
ナフサの用途 平時の月間需要 現在の実際の供給量 需要に対する供給比率
用途A:石化ナフサ(エチレン用) 145万kL 120万kL 82.8% (17.2%の不足)
用途B:燃料用ナフサ(ガソリン調合) 80万kL 80万kL 100.0%
合計 225万kL 200万kL 88.9% (11.1%の不足)

総量では11.1%の不足に留まるように見えるが、ガソリン向けが100%維持された結果、不足分の影響の多くが石化ナフサ(17.2%の実質的不足)へ集中している。

3. 「エチレン大減産」が引き起こす現場の供給不足とそのメカニズム

3.1 政府見解「ナフサは確保されている」と「現場の不足」の乖離

政府(経済産業省)は「輸入代替の手配を完了し、国家備蓄もあるため、国内のナフサの物量は確保されている」との立場を示している。

しかし、実際の建築現場や医療現場、物流、小売の現場では、プラスチック容器、水道配管、包装資材、梱包用資材といった「ナフサ由来の製品」が深刻な品薄に陥り、新規受注停止や納期未定が相次いでいる。 この「統計上の安定」と「ミクロな現場の需給逼迫」の乖離の主な背景となっているのが、国内の主要エチレンプラントにおける「前年比38.8%もの大減産(稼働率67.3%への急落)」である。原料としてのナフサが国内のタンクに存在しているとしても、それを各種素材に加工する中流プロセスが稼働調整に入っているため、末端へ製品が届かない状況が生じている。

国が示す「不足0%(100%確保されている)」というマクロな見解の背景には、実際には全体で11.1%の物理的不足(化学用石化ナフサに絞ると17.2%の不足)が発生している現場との間で、以下の2つの実務上の乖離が生じている。

  1. 「足の速さ(貯蔵・融通の限界)」に対する時間軸の相違(タイムスパンの乖離)

    政府の「不足0%」という主張は、中長期の調達契約や半年単位での輸入見通しといった「長期調達」ベースの議論である。しかしナフサは、ガソリンと同様に極めて揮発性が高く、品質劣化や保安上のリスクから長期的な安全貯蔵が難しい「足の速い(貯蔵の効かない)」製品である。現場は日々入ってくる原料をただちに熱分解してエチレンにする、タイトなフローで動いている。政府の見解には、この日々のミクロな時間軸(11.1%不足のインパクト)への考慮が十分に反映されにくい構造となっている。

  2. 「ナフサ相当品」の活用と実務上の制約(スペックの乖離)

    政府が代替調達等によって確保したとするデータには、そのままエチレンプラントに投入することが困難な「ナフサ相当品」(軽質油、C3・C4留分、LPG等の混合原料など)も計上されている。 これらを実際のプラントでエチレン原料として使用するには、国内の製油所で事前の精製・ブレンド・組成調整といった「追加加工」が不可欠である。しかし、製油所は補助金対象となるガソリン生産を優先したスケジュールで動いており、相当品の加工プロセス自体が十分に機能していない。結果として、相当品は在庫データとして計上されているものの、現場にとっては「実質的な供給量として直ちに使用することが困難な物量」となっており、現場の実質的な不足(17.2%不足)を補うに至っていない。

3.2 なぜエチレンの大減産が国内サプライチェーンに影響を与えるのか

「エチレン」は、石油化学業界において「石化製品の王様」、あるいは「すべてのプラスチックの親」と呼ばれる、最重要の基礎有機化合物である。 原油から精製された石化ナフサを熱分解(クラッキング)して得られるエチレンは、以下のようにほぼすべての現代産業・生活用品の出発点となっている。

  • ポリエチレン(PE): レジ袋、ゴミ袋、食品トレイ、製品容器、梱包用ストレッチフィルム
  • 塩化ビニル樹脂(PVC): 水道配管(塩ビ管)、住宅用サッシ、壁紙、床材、輸血パック、点滴チューブ、使い捨てシリンジ(注射器)
  • 酸化エチレン・エチレングリコール: 衣類用のポリエステル繊維、ペットボトル、自動車の不凍液、合成洗剤の界面活性剤

日本のプラスチック生産(年間約1,000万トン)のうち実に約4割がこのエチレンを主原料としており、現在、国内のエチレン生産量は前年比38.8%減という大幅な減産に直面している。この代わりのきかない最重要基礎原料が4割近く減少することは、インフラや生活物資の供給網に多大な打撃を与える可能性がある。

【補足】残りの6割のプラスチックは何を原料としているのか

「エチレンが主原料なのは4割」であるが、残りの6割も、基本的にはすべて石化ナフサを熱分解した時に同時に生産される以下の「関連物質」を原料としている。

  1. プロピレン(国内生産の約20%〜25%をカバー): 主に自動車用バンパーや家電製品の内装、医療機器(輸液用ボトル)などに使われるポリプロピレン(PP)や、アクリル樹脂、防寒衣料用アクリル繊維の原料となる。
  2. 芳香族化合物(ベンゼン、キシレンなど)(約25%をカバー): 使い捨ての食品容器(ポリスチレン:PS)や、ペットボトルの主原料(キシレンから作られるテレフタル酸)、高強度のエンジニアリングプラスチック(ポリカーボネートなど)の原料になる。
  3. ブタジエン・その他(約10%〜15%をカバー): 自動車用タイヤなどの合成ゴムや、家電製品の筐体に使われるABS樹脂などの配合原料となる。

つまり、エチレン以外の6割も、実態はナフサ依存である。 ナフサの不足によるプラント全体の稼働低下(67.3%への急落)は、エチレンだけでなくこれら「プロピレン」や「芳香族化合物」の生産にも連動するため、日本のプラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されているというのが、現在の需給緊迫の実態である。

3.3 なぜ「17.2%の物理的不足」から「38.8%のエチレン大減産」が起きるのか

ナフサ全体の調達不足割合は「11.1%」、ガソリン優先へのシフトを差し引いた化学用ナフサの物理的な流通量の不足割合は「17.2%」である。しかし、なぜエチレンの生産量はその倍以上の「38.8%」もの大減産を記録しているのか。その理由は、単なる物理的なナフサの枯渇を超えた、化学メーカーによる「経済的合理性に基づく稼働調整(計画的な減産)」にある。

  1. 価格転嫁の課題(逆ザヤ): 化学メーカーは11万円/kl超に上昇した代替ナフサを仕入れてエチレンを製造しても、そのコストを川下の製品(プラスチックや資材)へ即座に転嫁することが難しい。製造すればするほど赤字が拡大する懸念があるため、メーカーはプラントをフル稼働させる経済的合理性を見出しにくい状況にある。
  2. 引き取りと「在庫滞留」の発生: メーカーは、契約上引き取らざるを得ない高価格ナフサを自社の備蓄タンクに保有しつつ(これが流通・在庫データ上は「存在する」とされる)、プラントの稼働率を調整している(買い控え)。
  3. 代替原料(LPG等)への切り替え: ナフサの使用を抑制するため、より割安なブタンやプロパンなどを炉に混ぜる比率を高めたことで、ナフサの消費とそれに対するエチレンの生産効率(得率)が変化している。

4. エチレン大減産が日本経済と国民生活に与える影響

「エチレン」はすべてのプラスチック・有機化学品の基本素材であり、その大幅な減少は、多大な打撃を社会に与える。

  1. 物流・インフラへの負荷: 商品を運ぶためのプラスチック製パレット、梱包用のストレッチフィルム、粘着テープの流通が停滞し、配送業務全般に遅延などの影響が生じるおそれがある。
  2. 食料品・日用品の包材不足: 食品トレイ、ペットボトル、マヨネーズや調味料の容器、ラミネート包装、シャンプーボトルなど、生活必需品をパッケージングするための資材が不足し、製品の供給遅延を招く。
  3. 医療・衛生分野への影響: 使い捨て注射器(シリンジ)、点滴用チューブ、輸血パック、人工透析回路、防護服など、医療現場の製品原料(ポリエチレン、塩ビ等)の調達が困難となり、医療体制の維持に課題が生じる。
  4. 建設サッシ・配管の停滞: 樹脂サッシ、塩化ビニル管(水道配管)、ウレタン断熱材などの出荷が遅れ、新築やリフォームの工期に遅延が発生する。

5. 本来政府が検討すべきであった危機管理対策

現在の政府見解である「国家備蓄等によりナフサは確保されている(不足0%)」は、ミクロな市場での流通の目詰まりを十分に考慮していない側面がある。需給バランスの改善とリスク回避のために有効と考えらえる対策は以下の通りである。

5.1 対策①:補助金の一括「上流化」によるフラット化

  • 内容: ガソリンなどの特定製品の出荷段階に対する個別補助金を見直し、原油およびナフサの「輸入・調達段階(上流)」に対して補助を一括して投入する。
  • 効果: 特定製品(ガソリン)のみに偏る経済的優位性を抑え、製油所の生産比率を市場の実需割合(適切なバランス)へと回復させる。

5.2 対策②:ガソリン価格の「シグナル」の復元と直接支援への切り替え

  • 内容: ガソリン価格を一律170円に抑える水準を緩和し、価格を緩やかに上昇させて効率的な利用(需要の抑制)を促す。これにより、得られた原油・ナフサ成分を化学原料へ振り向ける余力をつくる。
  • 補填: 特に経済的影響を受ける地方世帯や営業用トラック(緑ナンバー)に対しては、一律の価格値引きではなく、直接の給付・還付措置などでピンポイントに支援する。

5.3 対策③:有事統制法の検討

1973年の石油危機を契機に制定された緊急事態法について、適用の可能性を検討する。

  • 石油需給適正化法: 石油元売り各社に対し、ガソリン生産を一時抑制し、化学原料用ナフサを本来の必要量(月間145万kl)まで調整して出荷するよう促す措置などを検討する。
  • 国民生活安定緊急措置法: 医療用プラスチック、塩ビ水道管、物流パレットなどの重要物資を指定し、適正な価格監視や流通の調整を実施することで、過度な価格高騰や流通の目詰まりを防ぐ。

6. 現状の政府の対応(第5章との対比)

経済産業省は毎週、石油元売り各社や石油化学工業協会から、製油所の稼働状況、ガソリンの生産シフト、エチレンプラントの稼働率などの一次データを直接集計し、把握している。すなわち、政府は燃料油激変緩和補助金政策が化学原料用ナフサの流通に及ぼす影響を認識しつつも、消費者や生活者への直接的な影響を重視し、現在の対応を優先して継続している。

以下に、第5章で提示した「想定される危機管理」と対比し、2026年現在の政府の実際の対応を整理する。

6.1 現状の対応①:ガソリン限定の「下流・製品ごと」の激変緩和補助

  • 対比(5.1): 補助金の一括「上流化(原油段階一律)」を採用せず。
  • 現状: 政府はガソリン、軽油、灯油、重油、航空機燃料に限定した「燃料油価格激変緩和措置(補助金)」を適用。店頭のレギュラーガソリン価格を「全国平均170円程度」に収めるよう、石油元売り企業に対して補助金を支給している。
  • 結果: この仕組みは事業者に対して「補助金対象となるガソリン」の生産を優先するインセンティブを与えることになり、結果として補助金対象外である石化ナフサの供給量が相対的に抑制される要因となっている。

6.2 現状の対応②:価格シグナルの「抑制」と生活者支援の維持

  • 対比(5.2): 需要抑制を促す価格シグナルの活用、および特定層へのピンポイント給付への完全移行は見送り。
  • 現状: 国民生活や地方経済への急激な負担増(物価高による支持低下等も含む)を懸念し、店頭ガソリン価格を170円前後に抑える仕組みを維持。予備費などの追加予算を充てて財政的な補填を継続している。
  • 結果: ガソリン需要の大幅な抑制が働きにくいため、原油の配分がガソリン側に偏りやすい構造が維持されている。

6.3 現状の対応③:有事統制法の不適用とマクロデータの強調

  • 対比(5.3): 「石油需給適正化法」および「国民生活安定緊急措置法」の活用は行わず。
  • 現状: 市場経済への急激な直接介入は避けるべきとの考えから、有事統制法の適用は見送られている。代わりに経済産業省は「十分な備蓄の確保」や「代替調達ルートの構築」の実績を公表し、「物量自体は確保されている」との説明を続けている。
  • 結果: マクロ的な需給データの安定(在庫の存在)を強調する一方で、補助金政策によって化学用ナフサの価格が上昇し、結果として実務上は「流通の偏り」が継続する事態となっている。

7. 今後の予測:2つのアプローチの分岐シナリオ

第5章で提唱した「政策の見直し」に移行した場合と、第6章の「現状の対応」をこのまま継続した場合、日本経済が辿る今後半年〜1年の予測シナリオを示す。

7.1 シナリオA:現状の対応(第6章)を継続した場合(現状維持における課題深化シナリオ)

ガソリン優先の補助金とナフサの市場委ねを継続した場合、日本経済はサプライチェーンの構造的打撃という課題に直面する。

① サプライチェーンの滞留と物不足の表面化(1〜3ヶ月後)

  • 物流・食料: 梱包用のストレッチフィルムやプラスチックパレットの流通量が減少し、倉庫での出荷業務に遅れが生じるおそれがある。「燃料は確保されているものの、積載・梱包資材の不足によって配送が停滞する」という状況が想定される。また、容器製造の限界により、食料品や日用品のパッケージ供給に滞りが出る。
  • 住宅・医療: 水道用塩ビ管、窓の樹脂サッシ、断熱材の調達難が長期化し、建築工事の工期が停滞する。医療現場では、使い捨て注射器や点滴用チューブなど、医療提供に不可欠なディスポーザブル製品の原料(ポリエチレン、塩ビ等)の確保が厳しくなる。

② 素材産業の基盤揺らぎと空洞化の懸念(3〜6ヶ月後)

  • 主要化学メーカーはエチレンプラント(稼働率60%台)の不採算に耐えかね、一部設備の休止や見直しに踏み切らざるを得なくなる可能性がある。これにより、国内の最先端素材の生産力が長期的に低下する懸念が生じる。
  • 川下の製造業(自動車、電機等)は、国内での基礎素材の調達不確実性を避けるため、サプライチェーンの再編(海外調達や拠点の移転)を進める動きを強め、産業の空洞化が進むリスクがある。

③ 財政負担の継続

  • 原油高が長期化した場合、ガソリン補助金の支給額が膨らみ続け、財政負担が継続する。結果として、価格抑制と基盤産業の維持を両立させることが難しくなる。

7.2 シナリオB:本来の対策(第5章)に移行・継続した場合(政策転換による安定化シナリオ)

「上流一括のフラット支援」や「適切な需給の調整」へ舵を切った場合、経済全体でバランスの取れた安定化が期待される。

① 化学原料の流通改善と価格安定(1ヶ月後)

  • 補助金を原油輸入段階にフラット化したことで、製油所における特定製品への偏りが解消。市場の実需に応じた割合で石化ナフサが生産され始める。
  • 化学用ナフサの流通量は回復に向かい、調達価格が落ち着くことで、化学メーカーの稼働抑制が緩和される。エチレンプラントの稼働率は安全圏(85%以上)へ向けて回復し、減産幅は急速に縮小する。

② 需要の最適化と重点支援の確立

  • ガソリン店頭価格が市場の実勢を緩やかに反映(190〜200円程度)することで、効率的な利用が進み、需要が抑制される。ここで抑制された原油成分が、化学原料(ナフサ)側へスムーズに融通される。
  • 浮いた資金を、配送用トラックや生活困窮世帯などの本当に死活的なセクターへ直接給付(還付)することで、ガソリン上昇に伴う影響を最小限に抑え込む。

③ サプライチェーンの安定化と信頼維持

  • 需給調整措置や価格監視の実施により、流通パニックが回避される。医療・建築・食品包装における素材不足は一時的な混乱にとどまり、サプライチェーンは維持される。
  • 「有事にあっても産業資材を安定供給できる国」としての信頼が保たれ、川下産業の国内留まりや製造業の安定化を強力に後押しする。

8. 結論:本報告の要約(まとめ)

本報告書が明らかにした「2026年ナフサ・エチレン危機」の核心的な要点は以下の通りである。

  1. 二重の危機構造(物理的寸断と政策的要因) 危機の契機はホルムズ海峡の緊迫化に伴う「輸入減少」という外部要因であるが、それを国内市場で偏らせる結果となっているのは、政府によるガソリン等への「価格抑制措置(補助金)」に伴う構造的インセンティブ(内部要因)である。
  2. 「不足0%」の統計と「17.2%の偏り」「38.8%の大減産」のギャップ 政府は十分な調達実績や国家備蓄のデータを背景に「ナフサは確保されている(不足0%)」と主張する。しかしその前提には、貯蔵の難しさ(時間軸の無視)や、追加加工が必要な「ナフサ相当品」の計上(スペックの乖離)といった実務的な盲点がある。実際には全体の11.1%が不足し、ガソリン向け(80万kl)が優先された結果、化学用の石化ナフサは「17.2%の実質的不足(145万kl→120万kl)」に晒されている。
  3. 「経済的合理性の追求」によるサプライチェーンへの影響 化学メーカーは、高騰した代替ナフサを調達してエチレンを製造しても、製品価格への即時転嫁が難しいため、稼働調整を選択せざるを得ない。この防衛策(引き取り調整と在庫滞留)の結果、エチレンの生産量は「前年比38.8%減」という極めて厳しい減産となっており、プラスチック全体の生産能力が根底から圧迫されている。
  4. 全産業に波及する広範な影響 エチレンの大幅な減少は、社会のインフラに広く影響を及ぼす。物流用パレットやストレッチフィルムの不足による「物流の停滞」、食品パッケージの減少による「流通への支障」、注射器や点滴パック等の調達難による「医療への負荷」、塩ビ管や断熱材不足による「建設工期の遅延」など、広範な影響が表面化しつつある。
  5. 政策の優先順位の見直しと危機の構造的解決 生活者保護を目的とした「目立つガソリン価格の抑制」を重視するあまり、産業の基盤素材であるエチレンのサプライチェーンが圧迫されている現状は、長期的な経済成長への大きな課題である。今すぐ検討すべき対策は、補助金を「原油段階の一括化」に移行してガソリンとナフサの公平性を担保すること、ガソリン価格のシグナルを復元して需要抑制を促すこと、有事に備えた法制(「石油需給適正化法」や「国民生活安定緊急措置法」)の適用を視野に入れ、産業と国民生活の土台である「基礎化学原料」の安定供給を確保することである。
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さて、どうだろう。4割もの原料減産がある中で、パッケージの色を変えるだけで済んでいる(袋だってナフサを使うのだ)のは、むしろ褒められても良いのではないかとすら思う。
政府は、「石油需給適正化法」「国民生活安定緊急措置法」という飛び道具も持っている。やろうと思えばすぐにでもできるのだから、いつまでも詰まらない意地を張っていないで、政府はさっさと対策を打ち出すべきだろう。

2026年5月23日土曜日

国会・行政のオンライン化考察

日本における政府関係機関の地方分散政策は、はっきり言って上手くいっていない。筑波学園都市はまあまあ成功したが、国会の移転は止まったまま、省庁の移転も文化庁など部分的な移転に留まり、東京への出張が多くなって効率は悪くなってしまったそうだ。

さて、その文化庁について調べていて、おもしろいことが分かった。本格的な稼働に向け、2019年度(令和元年度)の10月から11月にかけて、大規模な業務シミュレーションが実施されたのだそうだ。このシミュレーションでは、文化庁次長(京都担当)および各課の一部職員を含む計193人が、1週間ごとに交代しながら京都の執務室で通常業務にあたり、国会質問に対する答弁作成や関係省庁調整を遠隔で行う、ということを行った。

その結果、効率は著しく落ちることが分かった。理由は至極簡単で、①通信環境が悪い、②ツール(テレビ会議、ファイルシステム等)が貧弱、③国会議員が紙・対面での打ち合わせを望んだため東京出張が頻繁に発生した、というものだった。しかし対策として①②が若干強化された程度で本番移行したため、③が主なネックとなって効率は上がらず、移転は尻すぼみになってしまった。

民間の会社、特に大手企業では、PCは一人一台が当たり前になっており、在宅勤務も何割という人が行っている。当然資料は全て電子化され、幹部レベルであってもテレビ会議システムも日夜使われている。この結果を見ていると「ガンは国会」と言えるのが分かる。つまり、省庁の地方分散を成功させるためには、国会がまずデジタル化する必要がある。

さて、ここで原点に立ち返ってみると、そもそも地方分散はなぜ必要なのだろうか。当初の資料によると、目的は地方活性化なのだそうだ。地方に官僚が多く引っ越すことによる経済効果を狙っている、と読み取れる。だがこれって、目的としては稚拙なのではないかと思う。

自分だったら、それはDR(ディザスタリカバリー)を目的とする。即ち、災害や紛争により東京が壊滅した時でも行政を止めないため、である。国会、国会議員、主要省庁は全て東京の中央区千代田区近辺に集中しているが、それでは首都直下地震や原爆一つで壊滅してしまう危険がある。そしてそれはどこかに(丸ごと)移転する場合でも同様である。つまり、移転先に爆弾が一つ飛んでくれば意味は同じだ。そうではなくて、最初からアドレスフリー、網の目状、だれがどこにいるか問わない、そして実際にあちこちに分散している、という状況こそが、目指すべき姿ではないかと思うのだ。

そしてこれは要するに在宅勤務、ノマドウォーク、などと同じことだ。つまりは資料を全て電子化して、テレビ会議ができるモバイルPCと、通信用としてスマホがあれば仕事が完結します、という状況を作ってやればよい。民間と同じ、実に簡単な話である。

さて、それでも国会議員が頑なに対面・紙を信奉する理由は、多分に情緒的なものであって、合理性があるわけではない。なので国会議員に示してやるべきは、電子化をしていないことによる「損」を定量化して見せてやることだ。

細かい途中計算は省くとして、生成AIと対話して出した結論は以下の通りだ。

損失カテゴリー 修正後の年間額 内訳詳細
直接的浪費(行政事務) 1.5兆円 既存0.9兆円 + 国会対応コスト0.6兆円
成長逸失分(機会費用) 2.3兆円 既存1.8兆円 + DX阻害分0.5兆円
合計:国家機能の総損失 3.8兆円 国会・省庁のアナログ連動による経済損益

ここで既存と言っているのは国会の分で、それに省庁の逸失分を追加したのがこの表である。つまり、全体としては3.8兆円の損失が毎年出ている計算になる。

この額はなかなかインパクトがある。防衛費の半分くらい、文科省予算の8割くらいだ。これを国会議員に突き付け、あるいは国民にバラして国会議員にプレッシャーをかけるのはどうだろう。そうして国会がデジタル化されれば省庁もデジタル化し、同じシステムを県議会や市議会も使うようになる。

こうなると、国会議員は地元(選挙区)から動かずとも仕事ができる。これはくしくも全国に国会議員が散らばることを意味しており、DRとしては理想になる。

省庁は全国で職員を募集できるし、場所によってはワーケーションに近いことも可能だ。地方はそちらの誘致を目指せば、他の企業のワーケーションにもなるので一石二鳥になる。庁舎を(特定の)地方に移転するよりずっといい。

国会議員や省庁職員がデジタル化に慣れてくれば、業務効率も向上するだろうし、釣られて民間のデジタル化も進むだろう。3.8兆円と書いたが、中期的にはそれを上回る効果を上げると考える。

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