の続き。
リグニンは、180~220℃でゾル状になり、3Dプリンタから射出できるようになる。この状態はまだ熱可塑性の状態にあり、いったん冷えると固まるが、再度この温度になると軟化する。そして、200℃以上で数十分~2時間程度保持すると「架橋化」し、完全に硬化する。こうなるともう熱を加えても軟化しなくなる。
これに対し、日本の住宅の耐火性能試験では、5分後に576℃、30分で842℃、60分で945℃になる。なのでリグニンは架橋化が必須である。そうしないと熱で軟化し、家が崩れてしまう。
だが、3Dプリンター印刷という特性上、200℃で2時間加熱をするのは不可能なので、触媒を用いる。触媒は低温下でも架橋化を促進するが、前回も説明した通り、3Dプリントにおける層間結合を強化するためには邪魔である(硬化した後は結合できない)ため、工夫が必要である。
そこで、架橋促進剤を、新たな層をプリントする直前に噴霧し、プリント後直ちに「ヘラの先端で押す」という操作を行う。これによって層がV字型に変形し、未硬化のリグニンの上下の層が混ざると共に架橋促進剤も混ざるため、層間結合と硬化が同時に完成する。架橋促進剤はその後、その他のところでも徐々に浸透し、硬化が完成する。これにより、前回提案した超音波過熱針及び注入ロッドは廃止する。
次に耐火性だが、20~30mmのリグニン層は廃止し、2mmの高リグニン防湿層+サイディング用の桟を3Dプリンタで形成し、サイディングは市販のものを使用する。これにより建築確認における耐火性の評価を既存の市販品のそれで代用できると共に、価格を大幅に落とすことができる。(リグニン層は高い。)
内装も、10mmのリグニン層は廃止し、防湿用高リグニン層2mmと石膏ボード用の桟までは3Dプリンタで加工し、石膏ボードは人手で貼ることにした。これでも透湿フィルムを貼る必要がないので通常より手間は減らせる。なお、外と中の高リグニン防湿層も、ヘラの先端で押して層間結合強化をする点は同じである。
また、断熱材は発泡剤により膨張するので、壁材のような精密な形状制御が困難である。このため、断熱材ヘッドだけはセンサで吐出先の状況を把握し、吐出量を自動調整する機能を追加する。
断熱材もリグニンを含んでいるので、充填すると壁(ハニカム材)に密着する。このハニカム材は構造材、即ち家の重さを支える材料である。一般的なウレタン吹付けでは断熱材は壁に張り付いているだけだが、この場合は六角柱の中に充填される。このため、断熱材はこのハニカム材の構造材としての性能を強化する。圧力耐性はさほど変わらないが、曲げ耐性が強まる。これを計算に入れた上で、ハニカムの厚さを薄くして材料費を節約することは可能になるだろう。結果として、ハニカム層の壁の厚さは2mmにした。ハニカム層全体としての(壁の)厚さは100mmにした。なお、断熱材にはホウ酸を添加して火災に備えるものとする。断熱材はハニカム構造の中に閉じ込められるため空気が動かず、つまり対流が起こらない。またビスや柱などの熱橋が原理的に存在しないため、壁の厚さが薄くても断熱性能は高くなる。
次に、全体として、木粉は止め、古紙パルプを使用することにした。こちらは価格が大幅に安く、繊維も長いためである。また、パルプの入手先(製紙工場など)は大量のリグニンを産業廃棄物として排出するので、リグニンの入手先としても有用と考えた。他、インクを除去していない低品質のパルプを断熱材用に使用し、ハニカム材と防湿層用には高品質のインク除去パルプを使用する。リグニンとインクの食いつきが違うそうだ。
リグニン自体も、無精製の安価なものを断熱用に、精製した高品質なものを防湿層とハニカム材に使用する。パルプと同様、適材適所にすることで価格を低減した。
溶剤を使わないので、いわゆるシックハウス症候群とは無縁になる。壁紙も塗装も当然対応可能である。ただ壁紙の場合、表面を均す必要はあるかもしれない。2mmとはいえヘラで押すこともあり、1mm以下の凹凸は多少あると思われる。
次に、基礎周りのプリントについて考える。通常、基礎には締結用のボルトが飛び出しているが、現在提案しているライン状のプリンタヘッドではボルトを避けられない。そこで、まず基礎にはボルトを埋め込むのではなく、ボルトを埋め込むための穴(ネジ切り)を埋めておく。そしてプリンタは、そのボルト穴の周りを避けるようにプリントするのだが、この際、C字型にしてプリントする。壁の内側に開口部を向ける形となる。もちろんその穴には断熱材は充填しない。そしてプリントが進んで想定ボルト高さを十分に超えたら、横に空いた穴からボルトを入れ、その隙間に高リグニン材(ハニカム材と同じモノ)を注入する。これは手動でも良いだろう。この方法での締結は、木造のホールダウン金物による締結と比べ、引き抜き耐力で倍以上の強度を出せると計算できた。
屋根周りであるが、最上部の防水層を高リグニン、その上の屋根材固定の桟までを3Dプリントで作り、屋根材はガルバリウム鋼板とし、人手で貼るものとする。防水層の下は当然ハニカム断熱層であり、ガルバリウム屋根固有の雨音を減衰することができる。屋根周りの強度設計も自在であり、必要なら太陽光発電パネルや太陽光温水器の設置も可能であり、配線用の穴やくぼみも3Dプリントできる。雨樋や排水路なども同様、一体成型可能だ。
これら変更を加えた後で、再度性能と坪単価を計算した結果が以下だ。
まず断熱性は、一条工務店の0.25W/(m2K)に対し0.20W/(m2K)と一条工務店超えを達成した。これは小さなエアコン1個で家中の冷暖房が可能なレベルである。またリグニンは保温性が高いので、深夜電力でそのエアコンを動かし、昼間は停止させる、といった使い方が可能である。
耐震性も鉄筋コンクリート(RC造)を上回り、耐震等級3を余裕でクリアする。RCは重量があるのでその分更にこちらが有利という結果が出た。これより、制震装置などは必要ない。むしろ家が丈夫すぎて地震のエネルギーを全て受け止め、家は壊れないが家具が飛ぶ可能性が高くなる。必要に応じ免震装置はつけるべきかもしれない。だとすると、免震装置の上に家をプリントすれば良いので、ここで建築を標準化できるかもしれない。耐風性もRC構造並みの剛性を持ち、気密維持も最高、飛来物耐性も高いことが確認できた。
防音性も完璧だ。壁も床もハニカム+断熱材で埋まっており、更に厚みも十分、隙間もないので、音が漏れない。計算によると、通常の木造の家がD-25~D-30、市販の防音室(ヤマハのアビテックスなど)がD-35~D-45なのに対し、D-45~D-55になるとの試算を得た。つまり家中が防音室と同じということだ。深夜に大音量で映画を見ていても、隣家には全く影響ない。(但し窓からは漏れるので要注意)
最後に経年劣化だが、これも木造や鉄筋コンクリート造を上回る性能が出るとの予想が出た。元々木材が持つ糖分・デンプン類が、3Dプリンタからの射出時の高熱で変性しているため、シロアリの好む餌ではなくなっていることに加え、防蟻材を「練り込む」ことが可能である。また、リグニンは架橋化するともうそれ以上劣化しない。木の化石を想像してもらうと良いのだそうだ。むしろ時間と共に未架橋の部分が徐々に架橋化し、強度は増すのだそうだ。
そして坪単価は、なんと25~35万円である。一般的な木造軸組み構造が60~80万円、一条工務店が80~100万円、RCが100~150万円、安さが売りのコンクリート3Dプリンタ住宅でも60~90万円とのことなので、あらゆる建築方式の中で最も安いという凄い結果が出た。
これは価格を追求した結果なのだが、当初の構想通り内壁層と外壁層をリグニンで作ることも可能だ。価格はRC並み(120万)になるが、圧倒的な速さで建築できる。養生と内装外装が大幅に減るためである。坪単価と自分の求める住宅性能を、それこそ指先一つで自在にコントロールできるのが、3Dプリンタ住宅の特徴とも言える。
何回も言っている気がするが、建築会社にこの案を拾ってもらい、具体的検証してほしいものだ。



