このロボットは、家庭における雑用を補佐するロボットとして有望である。人から手渡しで荷物を受け取ったり、人の手で操作する掃除機が扱えたり、窓を拭けたりする。こういうロボットが一台いれば、人はかなり便利になる。
更に、これとVR・MRを組み合わせた世界では、画期的な体験ができるはずだ。以前から提案している車いすメタバースとの組み合わせで、どんなことが可能になるのかを考えてみる。
車いすメタバースの中では、人は電動車いすで移動する。移動先は全て車いす対応なので、例えば道幅は充分に広く、段差はなく、階段ではなくて専用エスカレーターやエレベーターが標準で装備されている。飛行機や車も車いす前提だ。もちろん店舗やレストランも車いす対応である。
ここではレストランでの体験を考えてみる。車いすレストランで席につくと、給仕が食事を運んでくれるわけであるが、現実世界ではこのNEO Gammaが実際に食事を運んできてくれるのだ。もちろん調理全般は難しいだろうから、ケータリングの受け取りないしは弁当の温めくらいに留まるだろうが、それでも人はVRから出ずとも食事の準備ができるわけだ。そしてテーブルの上だけがシースルーになって実際に食事を摂り、後片付けはやはりNEOにさせる。NEOは皿洗いはできないだろうが、食器洗浄機に皿を入れるくらいはできるだろう。
また、メタバース空間で買い物をすると、それは宅配になるわけだが、この宅配受け取りもNEOがしてくれる。荷物を棚に入れるくらいはすぐできるだろうし、開梱して仕分けしてものを仕舞うくらいまではもう10年以内くらいにはできるだろう。
トイレや風呂をメタバースで行うことは不可能だからこれは除外するとしても、食事ができるのは大きい。これなら休日に朝から繁華街に出かけて買い物をして映画を見て夕方に帰る、といったことがメタバース内で完結する。家族4人が同じメタバース空間で話をしながら歩き回るということも問題ないし、現実と違って迷子や誘拐の恐れもない。メタバースのデパートなり繁華街なりがそれなりに充実していれば、現実とさほど変わらない満足が得られるはずだ。
店側にも大きなメリットがある。まず市場は世界中になる。翻訳が噛ませられれるから外国人でも問題ない。但し当然送料は現実のものだ。として店舗の維持費は圧倒的に少ない。在庫を抱える必要もないし、場所代も掛からない。新製品でも直ぐに店頭に並べられる。従業員もAIエージェントが使えるだろう。そうなれば24時間営業も可能だ。イベントなども考えてから実行までの労力は現実店舗よりずっと少なくて済む。配送も実質は通販だから、指先一つないしは全自動で可能である。商品説明はメーカが作れば良いので、店は品揃えや見せ方、価格などを工夫するだけだ。
ユーザ体験を、全体を通じて考えてみると、こんな感じになる。
まず、数日前に昼食を決め、ケータリングないしは事前宅配の予約をしておく。いつもの近所のケータリングで良いならこれはしなくて良いが、せっかくの「外出」なのだから普段とは違うものが食べたいだろう。
当日は家族全員でテーブルに座り、VRゴーグルを被って「出発」する。いきなり現地に飛ぶのでも良いが、自宅前から仮想タクシーに乗り込んで雰囲気づくりをするのも良いだろう。
到着したらあれこれ見て回る。これは通常の観光やウインドウショッピングと同じだ。もちろん現地での体験や実際の買い物も可能だが、買い食いはできない。もししたいなら、先に調べておく必要がある。
昼食は、ケータリングをした店の仮想店舗に入る。時間に合わせてロボットが温めて配膳してくれる。もちろん待たずに入れるし、いくら長居をしても良い。偶然に居合わせる迷惑客もいない。
食事が終われば午後はまた別のところに行っても良いし、同じところで続きをしても良い。夕方に帰るも良し、夜もまたケータリングで食事をしても良い。もちろん片付けはロボットがしてくれる。後日、買ったものを受け取るのもロボットだ。
平日の仕事の間の食事でも、同じようなことは可能だ。この場合、会社の同僚と一緒に食べるということも多いだろうが、食べるもの自体は揃えられないだろう。それでもお喋りをしながら食事の時間を楽しむことはできる。
さて、今のメタバースの主流であるVRChatやHorizon Worldには、この体験に値する観光地やショッピングモール、レストランなどは、残念ながらゼロと言っても良いレベルである。どのワールドもコンテンツは少なく、造作物の解像度やリアリティは低い。はっきり言って、何時間も滞在できるほどの魅力はない。今の十倍百倍といったレベルでの作り込みは必要だし、それに伴ってVRゴーグルの性能ももっと上げなければならないだろう。