2025年7月15日火曜日

新社会民主主義構想


先日、舛添要一氏と佐藤優さんの対談を読んだのだが、なかなかに面白かった。それは現在の中国とロシアの街中の話なのだが、両国とも監視カメラが大量にある。さぞ窮屈だろうと思いきや、街は安全になり清潔になり、あるいは交通渋滞が解消されるなど、市民の生活はずいぶんと良くなっているのだそうだ。

つまり、監視カメラによって犯罪が起これば速やかに犯人が捕まるため、犯罪が起こしにくくなっているのだ。清潔になったのも同じで、ポイ捨て等もカメラで見られているからだ。そして交通渋滞が解消したのは、交通の状態をAI解析することで、いわゆる全体最適化がされたためだ。

もちろん思想監視のようなものはあるのでそこについては窮屈だが、大部分の市民は恩恵の方を多く感じ取っているのだそうだ。

一方で自由主義の国はどうかというと、監視カメラはあるにはあるが、欲しいところにあるとは限らないし、カメラの持ち主にいちいち交渉しなければならず、断られても文句が言えない。交通の状態は解析できても相互連携はできていない。経済成長率では中国に大きく劣り、貧富の差は開き、経済が低迷し、右傾化・国粋主義がはびこっている。移民を含め外国人排斥運動なども起きている。これはいったい何がいけないのだろう。

自由主義ではプライバシーも尊重するので、誰が何をしているかを当局は把握できない。これは、単純には犯罪を未然に防ぐことができないばかりか、犯罪が起こっても証拠を取れず捜査がやりにくい。また、経済においても、つまらないところで競争してしまい効率が落ちる、例えば情報流通の規格が百花繚乱になってしまう。また、その状態を把握しようにも、プライバシーやら企業秘密やらがネックとなって把握できない。把握できなければ分析もできず、改善もできない、というわけだ。このため、社会主義国では可能な全体最適化が、自由主義国ではできなくなってしまう。それが情報化社会、AI全盛の世の中において、顕著な差を生み出しつつあるのだと言える。

思想というのは何時の時代でも極端なものから揺り戻しが来るのが常であり、その意味でも、またこの社会主義国の躍進を見ても、新自由主義もそろそろ揺り戻しの時期が来ているのではないだろうか。

それはもちろん、プライバシーや自由主義を完全に断ち切るものではない。かつての社会民主主義の焼き直しともいえるが、どちらかというと思想や思想統制の話ではなく、物流や治安の全体最適化という視点のみで社会主義・全体主義を取り入れる、というものだ。

もちろん新事業などでは競争すべき時期もあるので、何でもかんでも全体最適化すれば良いというものではない。ある程度普及率が高いものに対してそれを利かせる一方、成長著しい領域ではむしろ統一させず競争に任せることが必要だ。そのバランスをのは難しいだろうが、AIのような技術を前提にしてそれを素早く(可能ならリアルタイムで)調整することは可能だろう。そういった技術との結合も、新しい社会民主主義では重要な特徴になる。

つまり、社会の効率に関する部分では過度な競争をせず、仕様はある程度統一しましょう、といった、テクニカルな部分に関しては社会主義を重視するが、それでもプライバシーは保護しましょう、といった、新しい社会民主主義の提案である。

この発想は、民間で流行っている「コーペティション」と基本的には同じものだ。これはcooperation(協調)とcompetition(競争)をつなげた用語で、何でも競争するのではなく、協調もすることで、全体として市場を拡大し利益を促進する考え方のことだ。

どういうものを協調領域にするかというと、たとえば交通系はいわゆるMaaSを行うことにある。このためには交通機関の位置情報、料金体系、支払い手段、渋滞情報、運行(事故等)情報、天気予報(注意報警報等含)、といった情報を統一的に扱わねばならず、また全体の指示には従わなければならない。例えば電車の遅延に合わせてバスタクシーの運用を修正する、等だ。物流も同様で、通函のサイズや規格の統一、パレットやカートのID規格統一など、MaaSのような全体最適化物流システムの構築の助けになる情報は共通化しなければならない。

防災に関していうと、監視カメラ映像の取得や解析に関する統一的なルールとプロトコルが必要だろう。使用の許可や申請の判断などを電子化して素早く進めるシステム、またプライバシーを考慮しつつも犯罪や事故事件の発生を自動検知するAIシステムなどが考えられる。

個人情報も同様で、マイナンバーに紐づけた個人のプロパティ(属性)情報を、必要に応じて瞬時にアクセスできるシステムとその権限管理システムが必要になる。端的な例では、今実証実験されている、マイナンバーと紐づけた医療記録の参照である。意識不明で搬送された患者の病歴や投薬歴を、マイナンバーと紐づけて迅速に提供できる。

これらに対する当然の懸念は、主に二つあるだろう。第一はもちろんプライバシーへの懸念であるが、これは相応する監視・権限管理の仕掛けが必要で、あとはその仕掛けがどれだけ正しく動くかに依存する。つまり例えば犯罪には使うが犯罪抑止には使えない、等といった線引きと、その線引きが正しくできていることの監査である。ここが信用できないと拒否すれば、その社会は社会主義国には永遠に追いつけないだろう。

第二は、どこからを協調領域にすべきかの判断である。今の自由主義社会が一方の極端にあり、社会主義国が他方の極端にあるのだろうというのは間違いないだろうが、その最適な位置はどう探れば良いのかということだ。上の例で言うと、発生した犯罪には適用できるとして、犯罪抑止が全面的にダメというのはどうなのだろう。例えば大規模テロを未然に防ぐためなら許されるのではないか。だが空振りもあるだろうし、その名目で不正をする輩も出てくるはずだ。また、あまり明示的でない線引きは、体制側に有利なようにじりじりと引っ張られるのが世の常である。

新社会民主主義構想では、これらの懸念に対する線引き自体を、AIのような技術に任せてしまおうと考えている。そしてその根拠は、大衆心理だ。つまり、明確なルールは設けない代わり、色々な事例に対して社会が肯定的な反応をするかどうかを基に、リアルタイムに仕切りを修正するのだ。

これなら常に社会が納得する線引きが得られるので、自由主義・民主主義を貫いていることの証左にもなるし、実際、大衆の多くは納得するだろう。

そしてこの仕掛けが導入されれば、いわゆる「技術的には可能だがXXがネックでダメ」の類のシステムが多く実現する。上の例も含めてあげるならば、以下のようなものが考えられる。

  1. 犯罪、事故事件、自然災害、火災などの自動検出と通報
  2. 犯罪以前の迷惑行為や事故事件自然災害火災などの予兆検出と通報
  3. 要注意人物のリアルタイム検出と自動追跡
  4. 犯罪予備行為の自動検出と通報(予備罪があるもの)
  5. 大規模災害時の避難誘導経路の最適化
  6. 物流・人流の最適化(平時)
  7. 非常時の物流・人流のう回路確保
  8. 規格の乱立の抑止による社会の効率化
  9. 電子商取引規格の統一、電子商取引の必須化
  10. 完全な電子政府の実現(紙書類の全廃)
  11. 自治体システムの統一
    1. 現在自治体が使っている情報システム(住民情報、納税、福祉など)は、ベンダが多数ありバラバラに開発されている
  12. 電子マネー・コード決済の規格の乱立の抑止、CBDCの強制
  13. マイナンバーに基づく個人匿名認証システム使用の強制
    1. あらゆるシステムへのログインにマイナンバー認証が使える、使わせる
  14. マイナンバーに基づくウォレットシステム使用の強制
    1. 会員カード、ポイントカードは全てマイナンバー認証に統一
    2. 電子チケットの類もマイナンバー認証に統一
  15. 電子契約の強制とマイナンバー認証の強制
  16. 公的書類はマイナンバー認証に紐づけて保管を強制させる
  17. スケジューラやカレンダーなど、主要なアプリケーションのAPIの統一
  18. テレビ会議システムやSNS、SMSなどのプロトコルの統一
  19. PCやスマホなどのローミング手段の統一

たとえば、電話とメールとテレビ会議システムを全て同じマイナンバーでログインして、アプリを気にせず相互に通話ができる。AndroidとiPhoneで同じアプリが使える。ヤマトと佐川で同じ伝票、同じ追跡システムが使える。コンビニでの支払手段がブランドによらず同じ。引っ越しても役所の手続き画面はほとんど違わない。コンサートのチケットも新幹線の乗車券も、同じスマホのウォレットで扱える。スマホを買い替えてもログインし直しだけで継続して使える。引っ越しワンストップで使える業者をいちいち調べる必要がない(全て使える)。ブランド毎に電子書籍管理アプリが違う必要がない。

これらが通ると、一つ一つでも十分に効率化ができるが、多数が相まって相乗効果を生み、数十倍数百倍といった恩恵が得られるだろう。

こういったものが今まで夢物語でしかなかった理由は、大本で考えてみれば新自由主義だったからである。競争領域と協調領域を分けることができる「新社会民主主義」なら、中国やロシアに十分対抗できるはずだ。

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