2020年12月14日月曜日

VRの普及で現実のモノの価値が落ちるかも知れない


Oculus Quest 2が登場したことで、VRには新しいステージが開けている。価格が画期的に安くなり、また単独で使えることで、ユーザ層がぐっと増えているため、今まではアーリーアダプタのおもちゃだったものが実用に向けて進みつつある。

例えば、VR会議は、それほど難しくなくなってきている。無料のVRルームソフトが幾つも出現しており、資料は従来のPowerPointやExcelを使えば良い。後はユーザ毎にVRゴーグルを配るだけだが、ここが簡単になってきたのだ。

電話会議やZoomがようやく普及してきたところだが、これがVR会議になれば、本人はアバターになるため、Zoomのように化粧や服を気にする必要はないし、他の参加者との物理的な距離感が復活するため、むしろやりやすくなる。

こんな感じでVRが普及していくと、むしろVRががデフォルトになり、現実世界での行動が廃れていくことになるのではないか。そしてそれに伴い、実物としての「モノ」の価値は減っていき、相対的に仮想世界でのモノに価値が出てくるのではないだろうか。

例えば、既にVRアプリストアには、仮想オフィスとか仮想デスクトップとかいうアプリケーションが存在している。これを使うと、デスクトップ画面が幾つも、また幾らでも大きく表示できる。そうなれば、高価な大画面ディスプレイを買わずとも、VRゴーグルを支給してしまえば良い、となってしまう。CADのような用途は言うに及ばず、Excelファイルを多数開く経理の業務などでも有用だ。

また、本を読みたいと思った時、Kindleより物理的な本が良い、と考える人は多い。あの小さな画面、遅い反応が気に入らない、大きな雑誌やグラビアがきれいに見えない、等、iPadでも不満になる場面は多い。しかしこれもVRなら、幾らでも見やすくできるし、反応速度もクラウドで改良すれば幾らでも良くなる。iPadを持ち続けるのは肩が凝るが、VRなら空中に浮かせておけば良い。更には、静かな海岸、雑踏のカフェ等、好きな場所で読むことができる。紙の本からKindleを経由せずに一気にVR本に移行する、という人も、一定数いるはずだ。

VR空間で生活する時間が長くなれば、外出の時間は相対的に減っていく。学校も仕事も買い物もレジャーもVRで済ませられるようになれば、服や靴、アクセサリ、髪型、化粧、等といったファッションは、相対的にカネを掛ける価値が減っていくだろう。代わりに、VRの中で着る服等のファッションに気を使うようになる。そこへの投資(支払い)も増えていくだろう。

また、観光というものの価値が根本的に考え直されることになるかもしれない。まずはVRで現実の観光スポットに行けるようになる。次に、現実を模した仮想環境への観光になる。そこでは現実には存在するトラブル、例えば天候不順で景色が見えないとか、手違いやダブルブッキングでホテルがとれていないとか、詐欺ボッタクリに遭うといったことがなくなる。更にその次は、現実には行けないところ、例えば宇宙旅行等が出てくる。そして最後には、現実には存在しない場所が観光スポットになる、という段取りだ。

現実には存在しない場所。それはクリエイターのイマジネーションの限りを尽くした特殊空間だ。現実の景色を遥かに超える体験ができることになる。その頃には、現実世界で観光なんてとんでもない、汚いし怖いしカネも時間も無駄に掛かる、という価値観になっているかもしれない。

いや、現実に存在する観光スポットの価値は変わらない、と考える人もいるだろうが、価値とは相対的なものだ。音楽を聞くのに楽器を演奏するしかなかった時代と、スマホで幾らでも無料で再生できる時代の違い、とでも言うべきものだ。生演奏には今でも一定の価値があるけれども、日常の大部分はスマホで聞いていて、人によっては生演奏は全く不要と考えている、というのが今の状態だ。現物と仮想化したモノの関係は、今後そうなっていく可能性を秘めている。それは景色も同じである。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿:

ダイナミック租税とその指標

今の法律では、税率は一定の計算式で表されるが、そのパラメータは固定である。需要と供給のバランスによって商品の価格を変えるダイナミックプライシングというのがあるが、あれを租税にも適用してはどうかと考えてみた。 納税者の声をベースにして様々な租税や補助金を自動調節して、どこか一箇所...

人気の投稿: