まず、密閉容器を多数用意する。イメージとしては、ドラム缶よりは小さいがペール缶よりは大きいものだ。ドラム缶は200L、ペール缶は20Lだが、50L〜100L程度が良いのではないかと思う。一般的な段ボールが50L、ミルク缶が100Lくらいなので、この程度のサイズ感だ。例えば、JEJアステージ NCボックス #45 (幅38×奥行54.5×高さ32cm) は66Lである。これを幅120、奥行45、高さ180cmのスチール棚に載せると、最上段1段を制御装置やリザーブタンクに充てる前提で、4段8箱を設置できる。
この容器の一つ一つについて、断熱し、環境制御装置を付けて、中の環境を制御する。具体的には、照明用LED、紫外線ランプ(殺菌)、温度センサ、ヒーター、換気ファン、ポンプとリザーブタンクと水位計(水と肥料水)、カメラ、ECセンサ(肥料濃度)、無線LAN、及びこれらを制御するワンボードコンピュータで構成する。また、全体を監視するサーバと繋がり、異常通知や収穫時期の通知を行う。
電源や水、液肥等の密閉容器への供給については、棚側に配管し、接続できるようにする。また、排水は行わず、給水のみで制御する。これによって、容器下部は穴あけ加工せずに済むので、水漏れの心配がなくなる。
人手の作業は、最初に土と種(苗)をセットしたら棚に載せるだけだ。後は育成が完了するまで放置する。収穫時には容器から通知が来るので、棚から下ろして収穫する。
棚は単一の規格、密閉容器も単一の規格で作り、環境だけプログラムを変えてやれば、幾らでも種類を増やすことができる。
小さい容器を多数使うことで、例えば葉物と根菜と芋を同時に育成したり、育成に長く掛かる作物でも時期をずらして作成することで通年栽培できるなど、メリットは色々と考えられる。
一方、このプランの弱点は無論コストである。密閉容器一つ一つはいわば小さな植物工場であり、単価は数万円といった程度だろう。これで寿命が10年だとしても、機械だけで消耗費が年間数千円になる。野菜を年に数サイクル作ったところで回収できるものではない。
なので、これが活躍できるところは、島嶼部や陸の孤島のような僻地、長期航行する大型船、宇宙船や宇宙ステーション、核シェルターなどの隔離される空間である。マーケットは大きくはない。
これが単価数千円にまで落ちれば、爆発的な需要が生じる可能性はあるだろう。このためには機構部分の集積化が必要である。つまりカメラ、センサ、CPU、照明部分がワンチップないしはせめてワンボードになることだが、可能性はないわけではない。今でもラズパイやM5のようなワンボードコンピュータはあり、数千円のものもある。そこに命を懸ける価値はあるだろう。