2019年3月28日木曜日

木質トラスハウスを3Dプリンタで作る


コンクリート住宅を3Dプリンタで作る、という試みは、世界中で行われている。しかし日本では、鉄筋なしのコンクリートだけの住宅は認可されない。地震が多い日本では、揺れで簡単に壊れてしまうからだ。コンクリートは圧縮に強いが引っ張りに弱い。鉄筋はその逆だ。鉄筋コンクリートが使われるのはこのためである。

鉄筋コンクリートを一体成型しようとすれば、鉄筋とコンクリートを同時に吐出する必要がある。3Dプリンタでも、金属を成型できるものは存在するが、引っ張り強度を出すためには、作成後に焼成するか、最初から(高温の)液体で吐出する必要がある。どちらも、一体成形は不可能だ。

では木材はどうかと考えてみれば、やはり不可能である。木材を吐出する3Dプリンタなど存在しない。しかし、エンジニアリングウッドならどうだろう。合成樹脂と木粉を混ぜたものを吐出することは可能なはずだ。

但し、エンジニアリングウッドは構造材として認められていない。実は、従来のエンジニアリングウッドの多くは中空で作られていて、同じ太さでも本物の木材よりずっと弱いのだ。中までみっちり詰めたエンジニアリングウッドもあるにはあるが、本物と同じ太さにするのは困難であり、且つ高価だ。ツーバイフォーにも構造材としての柱が必要な点は同じであるため、作ることができない。

そこで考えるのが、エンジニアリングウッドによるトラス構造を構造体とする案である。これには様々な利点がある。
  1. 軽く作れる。
  2. 家の形状の自由度が高い。
  3. 他の素材との一体成形ができる。代表的には断熱材、壁材だ。
  4. 断熱材の隙間を、ほぼゼロにすることができる。断熱材以外の家の隙間も同様に、ほぼゼロにできる。
  5. 色も一緒に塗れる。
  6. 最初から、(空調・上下水道・配電などの)配管が可能である。
  7. 設計した通りに仕上がる。業者の流儀や連絡不足などによる現場での施工ミスや勘違いは、ほぼ起こらない。
  8. 構造体たる家以外にも、フローリング、キッチン、風呂場など、個々のパーツの多くが一体成形できる。当然、価格低減やトラブル防止に貢献する。
  9. ノコギリや釘などの危険な工具が殆ど必要ない。重量物を運ぶ必要も殆どない。
  10. 基礎、3Dプリンタ据付と撤収では多少人が必要だが、平時は3Dプリンタへの材料の補充、進捗管理とトラブル対応のみ。後は内装工事までほぼ一人でよい。
逆に欠点として考えられるのが、
  1. 最初の設計の難易度が膨大になる。
  2. 最初に大規模な3Dプリンタ用の足場が必要。敷地ギリギリに建てる場合は困難。
  3. 大量の「足場材」(何も無い空間を埋めるための物質で、完成後に取り除く)が必要。これは工夫により減らせるが、設計施工の難易度は更に上がる。
  4. 印刷の進捗に合わせて大量の材料を投入してやる必要があるが、これもタイミングがあって、あまり融通は効かない。
  5. 屋根の防水だけはそのままでは不安あり。
  6. 壁の必要精度に応じ、印刷には膨大な時間が必要になる。例えば1層が1mmだとすれば、1階分3mとして3000層、2階なら6000層必要になるが、1層10分として60000分=1000時間=42日必要。0.1mmなら420日。
  7. 解体時には、全てが複合材料となってしまうので、リサイクルは困難だ。燃やすしかない。
  8. 一体成形のため、破損など不具合の際の補修には、従来と別の技術が必要である。
等だ。これらは技術が進むにつれ工夫できるようになるだろう。例えば、全部3Dプリンタで作るのが良いのかどうかは議論があるはずだ。躯体だけこれで作って後は従来通り、とする方が早いかもしれないし、安く上がるかもしれない。

こうやってできた家が従来の家に比べて安くなるのかどうかはまだ分からない。材料費は一見下がりそうだが、従来と同じ材料になるかどうか分からないし、人件費は減るにしてもその質は異なる。ただ、上に挙げた多くの優位点に魅力を感じる人が多ければ、多少高くても受け入れてくれるだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿:

超音波モーターの原理によるVR用トレッドミル

  VRにおけるリアリティ問題の一つに、その場で動くのではなく移動する場合、つまり歩いたり走ったりすることが挙げられる。実際にはその場にいるので、歩いたかのように足場を調節してやる必要がある。 これを実現する方法として、すり鉢状の滑りやすい足場を作っておく方法と、トレッドミルを使...

人気の投稿: