2017年10月2日月曜日

富士山噴火への備え


3.11で原発の危険を甘く見ていたように、次は噴火を甘く見ていたと後悔するかもしれない。今の知識を振り返ってみる。

過去の富士山噴火の規模を見ると、溶岩や噴石などの被害はもちろん近隣で発生するとして、広範囲に火山灰が積もる。予測によれば、関東でも数cmは積もる。この量では電車、車、飛行機は全て動かない。

火山灰は直径0.1μm程度のガラス質の欠片であり、鋭い形状をしている。このため、多くのPM2.5対応マスクでは対応できない(2.5とは2.5μmのことだ)。このため、まず発電所では灰がエアフィルタを通り抜けて中で燃焼してガラスになり、焼きついてしまうため動かせない。また、人間がするマスクも、N95クラスではまだ不足で、N100クラスで何とか、というレベルになる。吸い込むと肺胞に刺さり、病気にかかりやすくなるとされている。火山灰は二週間降り続き、また数ヶ月空中を漂うそうだ。

また、濡れた火山灰は電気を通す。乾いた火山灰は鋭く、被覆を傷つける。送電線に濡れたまま積もると重量で負荷が掛かる。このため、電線がダメージを受け、回復にも長い時間が掛かる可能性がある。またこれに伴い、通信、ガス、放送、上下水も止まる。自家発電が可能な施設であっても、空中に漂う火山灰を吸い込んで焼きついてしまうため、動かせない。ヘタに動かせば火災の危険すらある。バッテリは唯一可能な電源だが、通信設備が動かないからスマホは使えない。照明がせいぜいだ。

つまり、全てのインフラは最低2週間から数ヶ月は回復不能である。支援物資もこない。ここから考えられる基本戦略は二つしかない。第一は初動で逃げ切ること。この「初動」とは、噴火から降灰までの短い時間を意味する。第二は備蓄のみで自宅待機後、やはり脱出することだ。

第一の戦略はスピードが鍵となる。噴火から東京に降灰するまでの時間は、2時間程度と言われている。降り始めから交通手段が動かなくなるまで更に1時間を見込んで3時間、この時間で降灰が1cm以下の地域まで避難する。東京の場合は北東方向、例えば宇都宮や水戸などが候補として考えられる。距離的な視点からすると、100km。

3時間で100kmとなると、徒歩では無理だ。自動車、電車、バイクが候補となる。このうち電車は安全確認ないしは停電で止まる可能性が高く、自動車は渋滞になるとかえって状況が悪化する。従ってバイク一択となる。そうなると、一人か二人ならよいが、家族連れではこの選択肢はない。

残るは持久戦だ。だがここにはもう一つの懸念がある。知っての通り、原発は緊急停止してもその後冷却をし続ける必要がある。これには電力が必要だ。電力会社が電気を止めたら自家発電となるが、これはエンジン発電であり、降灰時には使えない。するとメルトダウンの危険が出てくるのだ。これに要するのはせいぜい2日が限度で、もしそうなれば持久戦などやっていられない。

一番近い浜岡原発は富士山の南西にあり、風向きからしてここへの影響は少ないと思われる。地震が伴う場合もあるだろうが、緊急停止しても、浜岡以西より電力供給を受け続けられれば、火山灰が降っても冷温停止できるだろう。風が流れる北東にある一番近いものは茨城県東海村だが、ここまで来れば降灰は1cm以下と推測され、また更に北東から電力供給を受けることは可能だと思われる。

以上により、もしこれらの原発に火山灰が届き、尚且つ電力供給が遠所より受けられない場合にのみメルトダウンの危険が出る、と考えられる。だがその情報は入ってこない。もしメルトダウンしても遠いために爆発音などは聞こえないだろう。

このため、原発の無事を信じて(祈って?)篭城するか、吸灰の危険を承知の上で徒歩や自転車等で逃げるか、という選択を迫られることになる。

徒歩や自転車で脱出する場合、数cmの火山灰がどれだけ健康被害を生じるかを見積もる必要がある。2cmで健康な人でも被害が出る、1cmだと気管が弱い人に被害がある、という記述があったので、初動では市販の紙マスクでも役に立ちそうだ。ただ3時間程度でN95以上にすることが望ましい。また、半日に1回は交換する必要があるし、寝ているときも着用が必要だ。

また、ゴーグルが必要になる。これは水泳用のもので間に合うが、視界が悪くなるので専用のものがあるとよい。粉塵作業用の密閉ゴーグルは市販されており、千円も出せばAmazonでも買える。ただ子供のものはないので、水泳用のものを流用するしかない。

子供連れなら平均時速4kmなどは無理だから、3kmで計算するとして、100kmの移動には30時間掛かる計算だ。幾ら初動が早くても、灰をしっかり被ることになる。マスク、ゴーグルの他にも、ポンチョは必需品と見てよいだろう。また、100kmまで行かずとも、50km程度でタクシーに乗れるかもしれない。これには15時間掛かる。歩き詰めで、とは行かないから、2、3日の行程となる。

一方の持久戦について考えてみる。通常、人々が備蓄している水の量は、せいぜい二週間だろう。数か月分の水を備蓄している人等はごく少数のはずだ。このタイムスケールで事態が収束する可能性はほぼゼロだ。だから、備蓄が切れたら直ちに行動(脱出)を試みなければ、皆死んでしまう。その時点での脱出方法は、依然として徒歩だ。

ただ、こちらの方は一つだけ望みがある。東京都の年間降水日数は111日だそうだ。これを365.25で割ると、約30%となる。二週間あれば雨が複数回降り、地面や空中の火山灰は大きく減ると予想される。従って、備蓄を二週間として、これが切れた時点で徒歩で脱出することは、初動で徒歩で脱出するより吸灰が少なくて済む可能性がある。

ここで視点の抜けを一つ披露しておくと、噴火時点で職場や外にいた場合だ。会社の備蓄を2週間分も取っているところは皆無だろう。せいぜい1日~3日だ。それ以上会社にいても意味がないが、その時点ではたっぷり灰が積もっているという事態になる。

つまり、ゴーグルやN95マスク、できればポンチョも通勤鞄に入れておかないといけないし、篭城は無意味なので初動で自宅を目指さなければならない、ということだ。初動の方が灰が少ないはずだからだ。ポンチョがなければ傘が有効かもしれない。

なお、降灰に負けない情報機器が一つだけあって、それは衛星電話だ。このためだけに持ち歩くのもどうかと思うが、自治体や国の機関は当然、購入を検討すべきだろう。

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