2025年11月22日土曜日

高市氏の積極財政論と確証バイアス

高市首相は安倍氏と同じ積極財政論者で、就任直後からその方向に舵を切っている。プライマリバランスゼロ目標を事実上反故にし、戦争でもコロナでもないのにいきなり17兆円もの補正予算を組んだ。ちなみに安倍総理が初年度に打ち出した補正予算は10兆円であり、それと比べても突出している。

この方針は正しいのか。MMTのような極端な思想は問題外だが、高市氏の主張する「責任ある積極財政」の「責任ある」のところが十分に正しければ納得もできようものだが、 そのへんはどうなっているのだろう。

まず高市氏は、「PB黒字化目標」から「純債務残高対GDP比の安定化・削減」への転換を行った。これは、「借金(負債)をしても、それに見合う資産(知識・技術・インフラ)を形成すれば問題ない」というロジックである。もう一つは、17兆円の投資が、金利負担を上回るリターン(税収増)を確実に生み出すという定量的な主張である。この二つを検証してみよう。

第一の主張は、そもそも借金をするのは国(政府)であり、それに見合う資産が増えたとしてもそれら(知識・技術・インフラ)は何れもカネではなく(無形資産)、またそれは国(政府)の資産ではない。民間の資産である。このため、予算(カネ)上は返ってくるものがなく、ただ借金が増えるだけである。つまり、それに見合う資産が形成されても問題は解決しない。

また、それがもし第二の主張にあるように税収増をもたらすとしても、そこには二つの問題がある。まずもしGDPが増えたとしてもそれは翌年以降のことで、つまりタイムラグがあること。そしてその「確実」という主張が決定的にウソであることである。17兆円の借金が17兆円以上の税収増をもたらすためには、GDPはその数倍増やさなければならない。税率を20%と仮置きすると、必要なGDPはその5倍、つまり85兆円増えなければならないが、これは現在の日本のGDPの15%にも及ぶ。550兆円というGDPの母数に対し、たった17兆円の投資で85兆円もGDPが増えるとはとても思えない。一般的に、先進国における公共投資の乗数は、高く見積もっても1.1〜1.5が限度で、下手をすれば(しかも最近の日本はたいてい)1を切るというのが常識だ。高市氏の主張はこれが5になると言っているのだが、そんなことは奇跡でも起きなければ無理だ。

これに追い打ちを掛けるのが金利の上昇だ。この二十年あまりのゼロ金利のせいで忘れ去られているのかもしれないが、金利が上昇すればそれは公債費に反映せざるを得ない。借金が増えれば元本だけでなく利払いも増えるのだが、金利が上がれば借金が同じ額でも支払いは増えてしまう。

日本の公債残高における平均償還年限は9.7年(9年8ヶ月)だそうだ。つまり10年で一新され、新しい金利になる。そして現在の公債残高における平均利率は1%である。それを千兆円とすると、ざっと10兆円だ。そして現在の長期金利は10年もので1.835%、20年もので2.815%、40年もので3.705%。これを前提として生成AIにシミュレーションしてもらったところ、2035年時点の公債残高の平均利率は1.9%と出た。つまりもし借金が増えなくても(同額を借り換えるだけでも)、2035年には利払いが10兆円から19兆円になってしまうのだ。そして、過去の公債残高の推移を見れば、公債残高が増えないなどということはあり得ない。当に「金利地獄に陥ろうとしている」のが今の日本である。

ついでに言うと、この金利は現在の状態からの推測である。今、世界的に金利は上昇傾向にあり、そもそも日本はその中でも例外的に低金利だったのだが、それも動き始めている。欧米は4%程度だが、もし4%になると利払いは40兆円であり、今の(元本返済も含めた)返済額をも上回ってしまう。

ここまでの主張を最新のGemini3に投げかけると、私の主張に完全同意してきたので、ちょっと慌てて「高市氏になったつもりで反論して 多少屁理屈を捏ねても良いから」と指示すると、やっと反論してくれた。その調子でGeminiには高市氏になってもらい、しばらく会話を続けたのだが、まるで子供のケンカであり話にならない低レベルの屁理屈しか捏ねてくれない。最後はヒステリックな誹謗中傷に終わる、というとんでもない終わり方になってしまった。

ここでGemini君には冷静に戻ってもらって、その「高市氏になったつもりでの反論」を分析してもらった。まあ予想通り稚拙な反論であるとの結論が出された。これ以上続けても仕方がないので、別の方面から分析してみることにした。

まず、高市氏の言う新たな指標「純債務残高対GDP比」についての分析をする。これがその推移だ。

そもそもGDP比率というのは指標としておかしいと思う。GDPは国家予算ではない。GDPが増えても税収が増えないことはあり得るし、そもそもGDPは国家予算に対して遅効指標、つまり後から着いてくる数字なので、常に「やり逃げ、その結果としての手遅れ」が可能な状態になるからだ。

だがまあそれは置いておくとして、このグラフではこの数十年上がりっぱなしであることが分かる。高市氏はこの指標を打ち出した手前、このグラフに類似したものは見ているはずだが、最近景気が良いのでごまかせると考えたのかもしれない。だがマクロで見れば、まだそれ(低下)は誤差の範囲である。

さて、プライマリバランスを引っ込めて純債務残高対GDP比を打ち出した高市氏だが、具体的な数値は示していない(安定化と低減とは言ったが)。これが財務指標的にどう違うのかというと、つまりは「プライマリバランスはマイナスだが純債務残高対GDP比は減っている」という超微妙な線を目指していることになる。これが経済学上どのような状況かというと、「構造的な財政赤字を抱えながらも、経済成長の力によって債務の重みが希釈され、財政の持続可能性が保たれている」状態を意味する。そしてこれは、次のような状態が成り立っているときにのみ成立する。

第一は、名目成長率が金利を上回っていること。これは実際には下回っている。長期金利は既に1.7~1.8%になっているが、名目成長率は0.5%しかない。第二は、政府資産の増加分が負債の増加分を上回っていること。こちらも現在は成立しておらず、政府資産の増加分数兆円に対して負債の増加分は35兆円である。つまり、現在ではどちらも成立しておらず、しかも17兆円の投資程度で逆転するほどギリギリの数字でもなく、大幅に乖離している。

ではそうでない場合はどうなるのかというと、「プライマリバランスはマイナスで、純債務残高対GDP比も増えている」という状態になる。借金は膨らみ、国防や治安維持、社会福祉といったものにはカネが回らなくなり、返済ばかりに予算が取られる。金利は上がり続け、為替は暴落し、海外からモノ(主に食料や石油)が買えないため国内の経済が回らなくなる。治安も同時に悪化し、国全体がスラム化していくと共に、海外からの侵略の恐怖にも怯えることになる。当に「奈落の底に落ちる」という表現がふさわしいと言える。しかも、この状態への変化は、ほんの十年で起こり得る。

さて、高市氏の経歴を調べてみたのだが、松下政経塾出身であり、頭は良いはずだし、経済についても素人だとは思えない。なのになぜこれほど頓珍漢な主張をするのかと生成AIに聞いてみると、自己の政策への過大評価(成功確率が低いことを無視、失敗した場合の影響を考えない)、他人の意見の過小評価などを挙げた。

これは典型的な確証バイアスの症状であるため、それを確認したところ、Geminiは合意してくれた。そこで更に、彼女の過去の発言からそれを確認できるか聞いたところ、やはり成功への確信と失敗の可能性の過小評価、自身の主張への確執、他人の意見への否定などが山ほど出てきた。

念の為、彼女が確証バイアスに陥っていないと思われる発言も拾ってもらい、両者を比較しどちらが優位かを評価してもらった結果がこれだ。

評価項目 確証バイアス的発言の優位性 定量的な判断
政策的な重み 圧倒的優位 彼女の政策の**「柱(PB目標の否定)」はアクセル論で構成され、ブレーキ論は「添え物(出口戦略)」**に過ぎない。
主張の頻度と強度 圧倒的優位 「デフレの元凶」「ありえない」といった強い断定語で発言されるアクセル論に対し、ブレーキ論は「〜の場合には」「〜する必要がある」といった限定的な言及に留まる
定量的な具体性 優位 アクセル論はPB目標否定、名目成長率2.0%などの具体的な目標値に紐づく。ブレーキ論には、「金利何%」といった**具体的なトリガー(閾値)**が設定されていない。

最終的な結論をコピペすると、以下のようになる。

最終的な結論

高市氏はリスクの存在を言葉の上では認識(現実認識)していますが、その対処方法(ブレーキ論)が極めて曖昧で受動的であるのに対し、「デフレ脱却のためには財政規律を無視すべき」という信念(確証バイアス)は政策の中核をなす能動的な要素です。

どうだろう。特に高市氏擁護派の人にはよく読んでほしい。もちろん、確証バイアスは外して。

本ブログでは、繰り返し陰謀論や確証バイアスについては警告を発してきたが、ここまで来ると「確証バイアスは国を滅ぼす」とすら言えるのではないか、と思う。この手の心理学は義務教育必須にすることを強く推奨する。

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