欠点、と言いたかったのだが、あえて弱点と言わせてもらおう。
Apple Vision Proが出た時、Metaシンパは二番煎じだと笑い、Appleマニアは相変わらず無批判で褒め称えた。そして案の定、売れていない。
まあそうだろう。品質はいいらしいが、とても値段相応とは思わないし、値段の絶対値としても高すぎる。これは大方の評価だろう。
Apple Vision Proの角解像度は34PPDと推測されている。Meta Quest3は25PPDで、確かに解像度は良い。しかし視力1.0の角解像度は60PPDだそうだから、Appleでも全然足りていない。また視野角はApple Vision Proで90°、Meta Quest3で110°なので、こちらでは負けている。視野角を狭めれば角解像度は上げられるから、これは選択の問題であり、先の優位性も霞んでしまう。
だが、Apple Vision Proの最大の弱点は、そのコンセプトである「空間コンピューティング」である。これを掲げてしまったばっかりに、AppleはVRを捨てたと言っても過言ではなくなっている。
Meta Quest3で空間コンピューティングができないわけではない。Appleに比べて重視していないとは言えるが、それもApple Vision Proの登場で強化されつつあり、その差はほとんどない。一方でApple Vision Proはメタバースに入れない。入らないのではなく、入れない。
いいや、入れる、といいたいApple信者もいるだろうが、少し考えてほしいことがある。Apple Vision Proはそのコンセプトに基づき、コントローラを採用しなかった。これがメタバースには致命的なのだ。
Meta Questでは、メタバース内の移動にジョイスティックを使う。左が移動、右が向きを変えるのがデフォルトだ。これで空間内を自由に歩き回ることができる。一方Apple Vision Proはどうだろう。コントローラがないということはジョイスティックもないということだ。だから空間を動き回るのにジェスチャーで対応しなければならない。まあ不可能ではないが、きわめて使い勝手は悪く、ゲームなども含め使い物にはならないだろう。そして現に、Apple Vision Proのアプリには、その手の(メタバース内を縦横無尽に動き回る)アプリは全く見当たらない。業を煮やしたサードパーティがコントローラーを出したが、純正は未だに動きがない。
この手の動作が必要なのはアドベンチャーゲームだけだろう、と高をくくっていると足元をすくわれる。今後、メタバース内に街ができて、そこを歩き回って楽しんだり用事を進めたりする、つまり日常で実用でメタバースを使う時代は遠からず来る。今のネットスーパーのUIは醜悪だが、メタバース内の仮想スーパーで売り場を歩き回り、買い物カートを押しながら買っていくという形のほうが分かりやすいし、役所の何とか課のURLを探すよりは、受付に尋ねて、右手奥に見える③番窓口だ、と言ってもらうほうが自然だろう。こうなると、「歩く」という行為ができないのは極めて不利だ。
いやジャンプだジェスチャーだといくら言ったところで、使い勝手で圧倒的に劣るのでは意味がない。Apple Vision Proは、ゴーグル型デバイスの魅力の半分を捨てたとも言っても過言ではない。
遠い将来の理想を掲げるのも良いが、今の時点でコントローラを捨てる決断は早過ぎたのではないか。
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