日本の全企業数に占める中小企業の割合は99.7% であり、更に全労働者の約 70% が中小企業で働いている。にも関わらず、大企業と中小企業が生み出すGDPはほぼ同額である。なぜかというと、労働生産性が違うからである。
| 企業規模 | 労働生産性(年換算・1人あたり) | 指数(大企業 = 100) |
|---|---|---|
| 大企業 | 約 1,300万円 | 100 |
| 中堅企業 | 約 800万円 | 61 |
| 中小企業 | 約 550万円 | 42 |
| 小規模事業者 | 約 350万円 〜 400万円 | 27 〜 30 |
小規模ほど労働生産性が低い理由は、マスディスカウントのようなものもあるが、それよりも設備投資やバックヤードの非効率によるところが大きい。
まあ要するに、大企業では立派なIT部門や経理部門などが成立していてしっかり仕事ができるのに対し、中小では一人情シスや一人経理一人総務などのような状況が多く、多様な要求、有利になる工夫に十分対処しきれないのだ。設備投資にしても、一社で買うには高いとか遊び時間が多いとかが足かせとなって、なかなか思い切ったことができない。
だから、複数の中小企業が共同でこれらを運用すれば、ある程度の効率化は可能になる。だがそれを妨げているのが、それらのプロトコルが企業によって異なることだ。つまり、企業毎に独自の文化や不文律があって、各々の企業が寄り集まってそれらを統合しようとしても、それらをすり合わせるのが困難で、結局は物別れに終わってしまうのだ。
で、それらの微妙な仕様の違いは、各企業にとって本当に重要なのかというと、俯瞰的に見れば大したことではないことが多い。自治体などでもそうなのだが、効率が落ちるのを無視して「自治(独自仕様)」を主張したがるのが実態である。これは企業間取引にも悪影響を与えている。いわゆるコーペティション(協力すべきところは協力し、競争すべきところは競争する)の考え方ができていないのだ。
この中でも、IT化率が低いのは海外に対して大きなディスアドバンテージになっている。
| 企業規模 | 日本 (IT成熟度) | 米国 (IT成熟度) | 北欧/ドイツ (IT成熟度) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 大企業 | 85 | 95 | 90 | 日本も追いつきつつあるが、レガシーが足枷 |
| 中堅企業 | 50 | 80 | 85 | 海外はプラットフォーム化が先行 |
| 小規模企業 | 25 | 65 | 90 | 日本の最大のボトルネック |
これは企業のIT成熟度のリストであるが、中小のIT成熟度化が圧倒的に遅れているのが分かる。その理由として大きいのは、プロセスの標準化がなされていないことだと言われている。つまり、ソフトウェアを導入する際、ITベンダが提供する仕様に合わせるのではなく、自社の仕様に合わせてシステムをカスタマイズすることが普通になっているというところだ。だから、そのカスタマイズが高額で複雑になると分かると、IT化そのものを断念してしまう。自社のプロトコルをシステムに合わせるという発想をしないのが中小企業の特徴なのだ。
この発想を直させるには、ある程度強制するしかない。民間にそれはできないから、国が主導してそれをやらせることで、IT化が一気に進み、各企業の独自仕様も一掃できる。これが今回の提案である。
まあ強制とは言っても実際にはインセンティブだ。つまり減税や補助金で釣って、標準システムに誘導しようとするものになる。まずは経理や総務などをSaaS化して安価に提供すると共に、それを使う企業にはインセンティブを与え、使わない企業にはペナルティ(増税など)を与える。これで徐々に誘導していく。
そしてもう一つ、そのSaaSを使うことである程度自動的に、確定申告やIR資料が作成されるようにしてやる。こうすることで効率化が推進されるだけでなく、企業内の不正や粉飾を見抜きやすくなる。儲かっているかどうかはともかく、クリーンな会計をしていることが明らかなら融資も受けやすいし、事業承継も事業売却もやりやすいだろう。
減税や補助金などの特典も、このSaaS内で提供してやればよいので、事務コストの低減は国側にもある。更に、小規模と中小~大企業の取引も同じSaaSでやることで、取引の健全性チェックも大部分は自動化できる。これも企業間取引の健全性向上に貢献する。
現状でも、freeeや勘定奉行などのSaaSサービスはあるのだが、これら自体、既存の会計システムを無条件で肯定する「オプションだらけ」の仕様になっていて、横串を刺すのはかなり困難だ。そうではなく、個別企業の多少の有利不利には目を瞑り、シンプルな仕様にする。民間SaaSの差別化要素はまずここにあり、つまり国のSaaSは基本的な機能しかないが減税や自動書類作成などのインセンティブがあり、民間SaaSはインセンティブがない代わりに既存の細かい仕様の違いに対応できる、とする。一応民間が生き残る道を残しつつも、インセンティブが妥当な額であれば、徐々に国SaaSにまとまっていくだろう。
経理や総務だけでなく、業種固有の業務をSaaS化することも重要である。例えば介護や保育では記録の負荷が高いが、これを国SaaSで補助してやることで軽減できる。電子カルテや医療会計なども同様である。もちろん国SaaS間での情報連携はできるので、いちいちデータ転送をしたり一度印刷してスキャンするといった詰まらない事務作業は発生しない。
この国SaaSの普及によって、中小企業のIT化率が75%を超えると、日本のGDPは41兆円上がるという試算が出ている。これは日本のGDPの7%に相当する。ではそのための費用はいくらかというと、初期投資1.5兆円、年間運用費1兆円である。5年で200兆円のGDP増に対して費用は6.5兆円、これは近年稀に見るとんでもない高効率だ。
高市氏がやろうとしていうIT施策の額も兆円単位だが、その内訳を見ると半導体、インフラ、AI・データセンター、サイバーセキュリティと、何れも大企業に利する最先端のものばかりで、レッドオーシャンだ。しかもボトムアップのものが多く、アプリがない。個人的には次世代インフラと半導体を削ってこちらに投資したほうが遥かに筋が良いと思うのだが、どうだろう。

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