2025年11月22日土曜日

高市氏の積極財政論と確証バイアス

高市首相は安倍氏と同じ積極財政論者で、就任直後からその方向に舵を切っている。プライマリバランスゼロ目標を事実上反故にし、戦争でもコロナでもないのにいきなり17兆円もの補正予算を組んだ。ちなみに安倍総理が初年度に打ち出した補正予算は10兆円であり、それと比べても突出している。

この方針は正しいのか。MMTのような極端な思想は問題外だが、高市氏の主張する「責任ある積極財政」の「責任ある」のところが十分に正しければ納得もできようものだが、 そのへんはどうなっているのだろう。

まず高市氏は、「PB黒字化目標」から「純債務残高対GDP比の安定化・削減」への転換を行った。これは、「借金(負債)をしても、それに見合う資産(知識・技術・インフラ)を形成すれば問題ない」というロジックである。もう一つは、17兆円の投資が、金利負担を上回るリターン(税収増)を確実に生み出すという定量的な主張である。この二つを検証してみよう。

第一の主張は、そもそも借金をするのは国(政府)であり、それに見合う資産が増えたとしてもそれら(知識・技術・インフラ)は何れもカネではなく(無形資産)、またそれは国(政府)の資産ではない。民間の資産である。このため、予算(カネ)上は返ってくるものがなく、ただ借金が増えるだけである。つまり、それに見合う資産が形成されても問題は解決しない。

また、それがもし第二の主張にあるように税収増をもたらすとしても、そこには二つの問題がある。まずもしGDPが増えたとしてもそれは翌年以降のことで、つまりタイムラグがあること。そしてその「確実」という主張が決定的にウソであることである。17兆円の借金が17兆円以上の税収増をもたらすためには、GDPはその数倍増やさなければならない。税率を20%と仮置きすると、必要なGDPはその5倍、つまり85兆円増えなければならないが、これは現在の日本のGDPの15%にも及ぶ。550兆円というGDPの母数に対し、たった17兆円の投資で85兆円もGDPが増えるとはとても思えない。一般的に、先進国における公共投資の乗数は、高く見積もっても1.1〜1.5が限度で、下手をすれば(しかも最近の日本はたいてい)1を切るというのが常識だ。高市氏の主張はこれが5になると言っているのだが、そんなことは奇跡でも起きなければ無理だ。

これに追い打ちを掛けるのが金利の上昇だ。この二十年あまりのゼロ金利のせいで忘れ去られているのかもしれないが、金利が上昇すればそれは公債費に反映せざるを得ない。借金が増えれば元本だけでなく利払いも増えるのだが、金利が上がれば借金が同じ額でも支払いは増えてしまう。

日本の公債残高における平均償還年限は9.7年(9年8ヶ月)だそうだ。つまり10年で一新され、新しい金利になる。そして現在の公債残高における平均利率は1%である。それを千兆円とすると、ざっと10兆円だ。そして現在の長期金利は10年もので1.835%、20年もので2.815%、40年もので3.705%。これを前提として生成AIにシミュレーションしてもらったところ、2035年時点の公債残高の平均利率は1.9%と出た。つまりもし借金が増えなくても(同額を借り換えるだけでも)、2035年には利払いが10兆円から19兆円になってしまうのだ。そして、過去の公債残高の推移を見れば、公債残高が増えないなどということはあり得ない。当に「金利地獄に陥ろうとしている」のが今の日本である。

ついでに言うと、この金利は現在の状態からの推測である。今、世界的に金利は上昇傾向にあり、そもそも日本はその中でも例外的に低金利だったのだが、それも動き始めている。欧米は4%程度だが、もし4%になると利払いは40兆円であり、今の(元本返済も含めた)返済額をも上回ってしまう。

ここまでの主張を最新のGemini3に投げかけると、私の主張に完全同意してきたので、ちょっと慌てて「高市氏になったつもりで反論して 多少屁理屈を捏ねても良いから」と指示すると、やっと反論してくれた。その調子でGeminiには高市氏になってもらい、しばらく会話を続けたのだが、まるで子供のケンカであり話にならない低レベルの屁理屈しか捏ねてくれない。最後はヒステリックな誹謗中傷に終わる、というとんでもない終わり方になってしまった。

ここでGemini君には冷静に戻ってもらって、その「高市氏になったつもりでの反論」を分析してもらった。まあ予想通り稚拙な反論であるとの結論が出された。これ以上続けても仕方がないので、別の方面から分析してみることにした。

まず、高市氏の言う新たな指標「純債務残高対GDP比」についての分析をする。これがその推移だ。

そもそもGDP比率というのは指標としておかしいと思う。GDPは国家予算ではない。GDPが増えても税収が増えないことはあり得るし、そもそもGDPは国家予算に対して遅効指標、つまり後から着いてくる数字なので、常に「やり逃げ、その結果としての手遅れ」が可能な状態になるからだ。

だがまあそれは置いておくとして、このグラフではこの数十年上がりっぱなしであることが分かる。高市氏はこの指標を打ち出した手前、このグラフに類似したものは見ているはずだが、最近景気が良いのでごまかせると考えたのかもしれない。だがマクロで見れば、まだそれ(低下)は誤差の範囲である。

さて、プライマリバランスを引っ込めて純債務残高対GDP比を打ち出した高市氏だが、具体的な数値は示していない(安定化と低減とは言ったが)。これが財務指標的にどう違うのかというと、つまりは「プライマリバランスはマイナスだが純債務残高対GDP比は減っている」という超微妙な線を目指していることになる。これが経済学上どのような状況かというと、「構造的な財政赤字を抱えながらも、経済成長の力によって債務の重みが希釈され、財政の持続可能性が保たれている」状態を意味する。そしてこれは、次のような状態が成り立っているときにのみ成立する。

第一は、名目成長率が金利を上回っていること。これは実際には下回っている。長期金利は既に1.7~1.8%になっているが、名目成長率は0.5%しかない。第二は、政府資産の増加分が負債の増加分を上回っていること。こちらも現在は成立しておらず、政府資産の増加分数兆円に対して負債の増加分は35兆円である。つまり、現在ではどちらも成立しておらず、しかも17兆円の投資程度で逆転するほどギリギリの数字でもなく、大幅に乖離している。

ではそうでない場合はどうなるのかというと、「プライマリバランスはマイナスで、純債務残高対GDP比も増えている」という状態になる。借金は膨らみ、国防や治安維持、社会福祉といったものにはカネが回らなくなり、返済ばかりに予算が取られる。金利は上がり続け、為替は暴落し、海外からモノ(主に食料や石油)が買えないため国内の経済が回らなくなる。治安も同時に悪化し、国全体がスラム化していくと共に、海外からの侵略の恐怖にも怯えることになる。当に「奈落の底に落ちる」という表現がふさわしいと言える。しかも、この状態への変化は、ほんの十年で起こり得る。

さて、高市氏の経歴を調べてみたのだが、松下政経塾出身であり、頭は良いはずだし、経済についても素人だとは思えない。なのになぜこれほど頓珍漢な主張をするのかと生成AIに聞いてみると、自己の政策への過大評価(成功確率が低いことを無視、失敗した場合の影響を考えない)、他人の意見の過小評価などを挙げた。

これは典型的な確証バイアスの症状であるため、それを確認したところ、Geminiは合意してくれた。そこで更に、彼女の過去の発言からそれを確認できるか聞いたところ、やはり成功への確信と失敗の可能性の過小評価、自身の主張への確執、他人の意見への否定などが山ほど出てきた。

念の為、彼女が確証バイアスに陥っていないと思われる発言も拾ってもらい、両者を比較しどちらが優位かを評価してもらった結果がこれだ。

評価項目 確証バイアス的発言の優位性 定量的な判断
政策的な重み 圧倒的優位 彼女の政策の**「柱(PB目標の否定)」はアクセル論で構成され、ブレーキ論は「添え物(出口戦略)」**に過ぎない。
主張の頻度と強度 圧倒的優位 「デフレの元凶」「ありえない」といった強い断定語で発言されるアクセル論に対し、ブレーキ論は「〜の場合には」「〜する必要がある」といった限定的な言及に留まる
定量的な具体性 優位 アクセル論はPB目標否定、名目成長率2.0%などの具体的な目標値に紐づく。ブレーキ論には、「金利何%」といった**具体的なトリガー(閾値)**が設定されていない。

最終的な結論をコピペすると、以下のようになる。

最終的な結論

高市氏はリスクの存在を言葉の上では認識(現実認識)していますが、その対処方法(ブレーキ論)が極めて曖昧で受動的であるのに対し、「デフレ脱却のためには財政規律を無視すべき」という信念(確証バイアス)は政策の中核をなす能動的な要素です。

どうだろう。特に高市氏擁護派の人にはよく読んでほしい。もちろん、確証バイアスは外して。

本ブログでは、繰り返し陰謀論や確証バイアスについては警告を発してきたが、ここまで来ると「確証バイアスは国を滅ぼす」とすら言えるのではないか、と思う。この手の心理学は義務教育必須にすることを強く推奨する。

2025年11月17日月曜日

総合医の復活


 そんなの前からいるよ、と言われればその通りなのだが、わざわさこう言うには意味がある。しばらく我慢してお聞き頂きたい。

総合医というのは、その名の通り総合的な診療を行う医者のことだ。端的に言えばかかりつけ医、主治医、のようなものなのだが、医療は時代とともに高度化しており、現代においてそれは、どちらかといえば「仕訳医」としての側面が強い。つまりある程度目利きをしたら各々は専門医に任せる。以後は主治医は個別の病気には関わらない。だから患者は複数の病院を渡り歩き、あるいは総合病院の複数の診察科を駆け回ることになる。

だが、その主治医が全ての専門科に精通していて、全てをワンストップで診てくれれば、患者としてもそれに越したことはないわけだ。そしてかつてはそうだった。ほとんどは町医者が診てくれて、手術などどうしても困難なものは大病院に紹介されたのだが、その閾値がどんどん低くなっている。今やさほど大きな街でなくとも総合病院はあって、町医者の守備範囲は狭くなっている。

これを打開する可能性があるのが、近年のテクノロジーの発達である。すなわち通信技術、高解像度映像伝送技術、そしてAI、ロボット、である。

つまり、これらIT機器で武装することによって、町医者で閉じる守備範囲を再び広げようというのが主旨である。

総合医の強みは、複数の病気を抱える患者で発揮される。薬の重複や副作用と症状の識別は代表的だが、精神的ケアや家族の意思の確認などにおいてもそれは有用で、更には入院や手術を近隣で行えることは大きなアドバンテージだ。

ただ、個々の病気の専門性が分からないと、これらの識別は困難だ。重複しているからと単純に薬を減らしてしまうのが正しいとは限らない。また、薬の作用を相殺するような組み合わせを発見したり、発見したときにどう対処するかの知見は、個々の専門医でも分かるとは限らず、総合医としての知見もまた求められる。そういった知見をカバーするのがAIである。

また、手術を遠隔で可能にする手術ロボットや、手術以外の処置も、AIやロボット、その他測定機器の高度化やカルテ連動などの技術を駆使して、町医者でできることを増やしてやる。多数の人間の専門家ではなく高度なAIがそれに置き換わり、町医者は最終判断をするだけで済むとなると、むしろ医療品質の安定化、更には高度化すら期待できる。

さて当然ながら、このスキームを確立するための鍵となるのは、診断用機器、手術・処置ロボット、そしてAIだ。以前も

https://spockshightech.blogspot.com/2017/02/blog-post_20.html

のような提案をしたことがあるが、これは診断用機器だ。他に手術・処置ロボット、AIが必要だが、手術・処置ロボットは汎用である必要があり、これはアンドロイドすなわち人間のような形状(手が二本、脚が二本、頭が一つ、身長170cm前後、バッテリ駆動)で、人間と同じ器具(メス、鉗子など)を持てるロボットが望ましいと思う。そしてソフトウェアでどんどん機能を追加していくのだ。

AIの方はアイデアが漠としており申し訳ないのだが、多数の専門家AI(各々の病気のエキスパート)と総合診断AIからなるマルチエージェント型が基本になるのだろうと思う。それと人間のAIが自然言語で会話しながら進めていく、というようなイメージになる。

もちろん、このための投資はこのスキームにおける大きな弱点になる。数千万円単位の投資になると思われ、大型医療機器の導入と同じような出費になる。したがってこれの導入には医者により判断が分かれるだろうし、国の補助と言っても桁が大きいので一律にするのは困難だ。

だがこれは、離島など医療過疎地域へのモデルケースとなるため、スキーム自体の確立には国や自治体としても意義があり、その意味でも国の補助は重要である。まずはそういうところから始め、コストダウンを目指しながら町医者に広げていく、そんな構想をもって開発しても良いのではないかと思う。

2025年11月10日月曜日

こんなキュレーションメディアがほしい

 
SmartNewsやGunosyなど、いくつかのキュレーションメディアをインストールして使ってみて、やっぱりダメだと削除する、ということを、数カ月毎にやっている。なぜ数ヶ月毎にやっているかというと、進歩しているかもしれない、使えるようになっているかもしれない、と淡い期待を寄せているからだが、そのたびに裏切られている。何がダメなのかというと、新聞の代替として、まだまだお粗末だからである。ではどんな方向に進化してほしいのか。

まずそもそも、新聞はニュースメディア(だけ)ではない。新聞にはニュース以外にも、解説記事、社説、読者投稿、新聞小説、クイズ、四コマ漫画、川柳など、さまざまなコンテンツが掲載されている。新聞広告や折込チラシまで含めて総合的に、「その時代の情報を提供してくれている」のだ。

キュレーションメディアにも読み物記事は掲載されるが、新聞のそれとは異なり、Web記事のつまみ食いになってしまっている。浅い雑学にはなるが、新聞のような筋は通っていない。

次に困るのはフラットな構造だ。タブ毎にジャンルが分かれているが、このタブの重み付けが皆同じなので、政治・経済と芸能ニュースが同列の重み付けになってしまう。もちろんカスタマイズはあって良いのだけれど、新聞たるもの、基本はそこなのだから、重み付けはしっかりしてほしいのだ。

またこの重み付けは、ジャンル内の各記事の問題でもある。新聞記事の一面は重要ニュースであり、分量も充実している。軽い記事は扱いも軽い。キュレーションメディアでは皆フラットで、これができていない。

個々の記事を読むのにも、新聞ではできる「ページめくり」ができない。記事を選んで読んで、戻って、また記事を選んで読んで、今度はタブを切り替えてまた記事を選んで読んで、を繰り返す必要がある。ページめくりができるのはFlipboardくらいだが、1ページ1記事ベースなのでやはり重み付けが分かり辛いし、足りない記事はやはり足りない。

似たようなことだが、キュレーションメディアはカスタマイズが出来すぎてしまうので、社会人として最低限必要な知識すら読まずに済むことができてしまう。これがよく言われるフィルターバブルを生む。せめて見出しくらいは飛ばさず必ず目に入るような構造にすべきである。

つまり、以上のようなことを解消してくれるキュレーションメディアがあれば、新聞を止められる。それはこんなものになるのだろう。

  1. 基本的なUIはFlipboardに似ている。つまり、縦フリップによるページめくりが基本だ。
  2. 但し、トップニュース2枚、政治2枚、経済2枚、スポーツ1枚、芸能1枚、地域1枚といったようにページ数は決まっていて、各々の枚数内には重要度の強弱により記事の大きさが異なるレイアウトがされている。また、ページ位置(何ページ中何ページ目)がわかるように常に表記されている。当然、ページ数はカスタマイズされていてよいが、最低限のページ数は決まっている。逆に言うとタブはなく、前から順番に読んでいく必要がある。
  3. 気になる記事は詳細をタッチすると更なる解説が入っている。戻る時は左スワイプする。
  4. ニュース以外のコンテンツ(上記)も充実している。
  5. 特に、地域のチラシが含まれていて、そのチラシもスマホ画面サイズに最適化されている。
  6. 曜日により特別ページが増える。週末の特集記事など。

技術的に難しいところは何も無いと思う。ただ、チラシについてはShufoo!のような前例はあるものの、新聞に挟まっているもの全てが掲載されているわけではなく、まだ網羅性が圧倒的に足りていない。これはチラシがローカルで募集されているからでもあるので、チラシの集め方に更なる工夫は必要である。

2025年11月6日木曜日

外国人共生DX

 
クルド人と地元の人たちとのトラブルに見られるように、日本で外国人排斥運動が起きている。

世の中は近年、融和より対立を好んでいるように見える。その代表は右翼対左翼で、トランプや安倍のような対立を煽る風潮の流れを汲んでいる。生活保護者への批判、女性女系天皇、憲法改正などでも同様の構図が見られる。話し合いではなく拒絶と罵り合いで対応する、という方向だ。陰謀論の台頭さえ、この延長と感じる。外国人排斥もこの一つなのだろうが、これらが望ましくないことは言うまでもない。

もちろん、相手方(この場合はクルド人)に全く問題がないわけではないので、双方が双方を理解する努力は必要である。そしてそれにはコストが掛かるので、それをICTの力で省力化してやろう、というものが、タイトルの「外国人共生DX」である。

字面だけ見てイメージできることは、大きくは二つだろう。第一は、翻訳や解説などによって、日本における行動や手続きを「補助」するシステムだ。翻訳はすぐわかるだろうが、例えば、外国人が土葬をしようと手続きを調べても、そもそも日本の自治体には土葬をすることが頭にないため、「手続きが存在しないことが明示されていない」。ただ「手続きがない」と言うだけではなく、文化的背景の違いを補完して説明してやらないと、それが分からないし、更に「ではどうすればよいか」も補佐してやる必要がある。そういった、既存のシステムに対する「前段」を用意するものだ。

第二は、「異文化理解システム」である。これは広い意味でのEMS(Education Management System)であって、教育コンテンツが異文化理解やコミュニケーション、問題解決能力、調整力、日本語教育、等であるものだ。座学が大部分だろうが、VRやシミュレーションなども取り入れられるだろう。

第一は直ぐにでも着手できる。ここには生成AIが大いに活躍するだろう。つまり、きっちりした説明体系を作るよりは、生成AIに臨機応変に説明させる方が早いと思われる。

問題は第二の方で、単に教育コンテンツを揃えれば良いだろうというものでもない。そもそも何を教えるのか、その到達度や評価をどうするか、また宗教や思想信条の衝突に対してどう考えるか、など、難しい問題が山積している。

例えば、ゴミ出しルールを教えたとしても、それをどの程度律儀に守るべきかについての思想が違っていたら、あまり効果はないかもしれない。また、日本人の方が学ぶべきこともある。「ここは日本だから何から何まで日本のルールに従え」と言うのも違うと思うからだ。特に宗教観の違いは強烈であり、日本人の目から見ていくら非合理的であっても尊重すべきものはある。場合によっては国際問題に発展する危険すらあるものだ。

コンテンツの多くは、マナーや不文律、暗黙の了解といったものを明文化するものになるはずだ。だがこれは、日本人にとっても異論が続出する可能性がある。マナー警察のようなXX警察も、その逆もいるはずであり、バランスを取るのは難しい。それそのもの(過剰な指摘とその反発)も日本の文化であるかもしれない。

外国人共生のために日本人も学べ、と言われると、反発する人も多いだろう。それを説得し教育させるのも、このEMSの役割である。そのためにはもっと広く、国や人種を問わない「基礎的な人間力」という入り口を作った方が良いかもしれない。さらに言えば、これは義務教育とシームレスに連携したり(たとえば道徳教育の一部として取り入れるなど)、あるいは生涯教育として国が主導したりする方向性も考えられるのではないか。だがそうするとまた一部の左翼が「洗脳だ」「思想を強制するな」などと騒ぎ立てるかもしれない。というわけで、色々と難しいのだ。

そういった「中身」についての議論は百出だろうが、ICTを活用したシステムとして必要なものが何かは、これとは別に考えることができる。

  1. 単一の点数ではなく、複数の視点を持つ総合的なスコアを出すシステムであること
  2. 思想信条の違いや正解のない問題に対応したシステムであること
    1. 個々の問題に正解を出すのではなく、話し合いや協調、問題解決に向けた姿勢を問うものとすること
  3. 個々人の思想信条を類推できないようプライバシーに配慮したものであること
  4. ある程度公的なバックグラウンドを持つものであること
    1. 世界的にもそれなりに認められるものであること
    2. 公務員採用試験の条件やスコア加算に(将来的に)採用され得るものであること
    3. マイマンバーによるオンライン資格確認システムに(将来的に)対応すること
  5. 座学だけでなく、VRシミュレーションやロールプレイなど、ある程度総合的な視点を持ったコンテンツであること
  6. 外国人だけでなく、日本人も対象とすること
  7. 無料ないしは極めて安価に学習できること
  8. VC(Verifiable Credentials)、DIW(Digital Identify Wallet)への対応
  9. 日本人によるフィードバックと定期的な改正・改定、そのための大原則、更にはそれらの適正性を恣意的でなく監視するシステム
    1. 異論があるものについて、書くこと自体をタブーとするのではなく、個々のコンテンツへの合意度まで含めて明文化する
    2. 両論併記はもちろんだが、その温度差についても記述する

コンテンツ自体の評価を恣意なく行うために、世論を生成AIで評価して付け加えるというのは面白い試みだと思う。これも複数の指標をスコアにしてレーダーチャートを作り、総合スコアを出す、というものになる。指標の候補としては「制度的裏付け(法律など)」「社会的普及度(実際にどの程度守られているか)」「専門家の見解」「世論調査の結果」「地域格差」などが考えられる。特定のコンテンツ(道路へのポイ捨て)に対してこのスコアがこの程度、というものが広範囲に列挙されていたら、外国人の理解も進むだろう。そしてその外国についても同じ評価があれば、両国の違いが浮き彫りになるはずだ。そしてこれらは生成AIで簡単に作ることができる。

日本語は、翻訳アプリが発達しているため、実はあまり重要ではない。ICTで補完できるものは除き、本質的にコンテンツとして教えるべきものに厳選して、基礎・応用・高度(異論のあるもの、より良いマナーなど)とレベル分けして、スコアを出すようなアプリがあれば、外国人受け入れのハードルは大きく下げられるのではないかと思う。

2025年11月5日水曜日

スパイ防止法について

 
高市新総理がかつて主張していた「スパイ防止法」。巷でもスパイ防止法の制定を望む声は強いのだが、調べてみるとそんなに単純な話ではない。特に、世間のイメージと実態はかなり異なっていることが分かったので、ここでメモしておく。

まず、「スパイ防止法がないのは日本だけ」とよく言われているのは、ウソ(不正確)である。そもそも他国においても、「スパイ防止法」という名の法律を冠している国は少ない。

まずはアメリカの「Espionage Act」、「Economic Espionage Act」だが、各々諜報活動取締法、経済(産業)諜報活動取締法と訳せる。これはスパイ防止法と言って差し支えないだろう。中国の「中华人民共和国反间谍法」も反諜報と書いてあるのでスパイ防止法と言ってよい。

だがイギリスの「National Security Act」は国家安全保障法とでも訳すべきであろうし、ロシアの場合はロシア連邦刑法典(Уголовный кодекс Российской Федерации、略称: УК РФ)の国家反逆罪およびスパイ活動に関する条項を指し、つまりは刑法の一部である。他にも色々調べてみると、スパイに特化した法律を持っている国は少ない。調べた限りでは、アメリカと中国だけだった。他の国では、刑法の一部として規定していたり、機密保持法の中に書かれている。その文脈で言うなら、日本にも特定機密保護法や重要経済安保情報保護法、不正競争防止法、刑法などに条文はある。個々の項目の過不足に対する議論はすべきだろうが、実際のところ「スパイ防止法がない国は多数ある」し、ロシアやイギリスのように明示的なスパイ防止法がなくても実質他の法律でカバーしているというのなら、「日本にもスパイ防止法はある」と言えるのだ。

ではそのカバー範囲が日本は極端に狭いのかというと、そうとも言えない。スパイとは当然、秘密にしておきたいモノや情報を盗むことだが、これは単純に窃盗・情報窃盗であり、こんなものは当たり前に犯罪として規定されている。また、外国が関与する場合は更に罰則が厳しくなっている。

ただ、他国と比べた場合、準備罪・予備罪・未遂罪に対する規定が弱いようだ。「日本はスパイ天国だ」とよく言われるが、このことを根拠として言及されることが多い。だがこれも、実際に日本がスパイ行為が多いことを意味しているわけではない。やはり調べてみたのだが、スパイ行為の件数が他国に対して多いとか少ないとかいう統計はない。

また、仮に多いとして、それが法整備のせいだとも限らない。例えば、国民のセキュリティ意識の低さが原因ではないかとも考えられる。そちらについて調べてみたところ、確かに日本はセキュリティ意識が低いことが調査で明らかになっている。例えば組織としてのセキュリティ体制の整備が弱い、セキュリティ対策への投資額が少ない、ISMSなどの認証取得率が低い、といったことが分かっている。俗に日本のスパイ機関と言われている内閣調査室の権限の弱さ、予算の少なさでも、それを垣間見ることができる。つまり、法律が整備されていないことが問題なのではなく、国民の意識が低いことが問題なのかもしれないのだ。ここを履き違えて法律を整備しても、意味がない可能性がある。

更に、準備罪・予備罪・未遂罪は恣意的な運用に対する懸念がある。実際、アメリカ、ロシア、中国などでは、明らかに恣意的な運用であろうと見られるような事件が多発している。独裁国家だけでなく自由主義国家でも起きていることであるので、決して杞憂とは言えない。過去の高市氏の発言(NHKに対するものなど)を聞いていると、非現実的な話ではない。

ロシア中国はともかく、自由主義国家の未遂罪などには、恣意的な運用を防ぐための仕掛けが備わっている。が、巷ではそういう議論もないし、実際アメリカではそれは機能していない。安倍総理の強引な政治手法を見ていると、日本でもそれは可能だろうと思うし、ましてや安倍氏の後継者たる高市氏である。その懸念は十分にあると考えるのが妥当だ。どこで線引きをして、どんな安全装置をつけるのかは、しっかり議論すべきだ。ただ法律を作れば良いというような単純なものではない。

まあ、統括法として「スパイ防止法」なる法律を作ること自体には、今のところ特段賛成も反対もする気はない。法案が出た時点でその内容を読み、判断することになる。そこでのチェックポイントは上に書いた通り、準備罪・予備罪・未遂罪の適用範囲と、恣意的な運用を防ぐための仕掛けについて、どの程度しっかり考えられているか、である。

さて、ここまでの議論は、例によって生成AIとの議論によって得られたものを、旧来の検索によって確認した結果を整理したものだ。その生成AIだが、やはり最初には「スパイ防止法がないのは日本だけ」「日本はスパイ天国」というのを鵜呑みにした回答をしていた。「なぜそう言えるのか」「原典を出せ」「その根拠はおかしいのでは」「検索結果ではそうなっていない」などとツッコミを入れていくと、答えがどんどん変わっていくのが面白かった。複数の生成AIで回答の傾向が違うのも楽しめた。おもちゃとして遊ぶのは楽しいが、まだ仕事で使うには弱い。

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