今の法律では、税率は一定の計算式で表されるが、そのパラメータは固定である。需要と供給のバランスによって商品の価格を変えるダイナミックプライシングというのがあるが、あれを租税にも適用してはどうかと考えてみた。
納税者の声をベースにして様々な租税や補助金を自動調節して、どこか一箇所に大きな不満が溜まらないようにする。税収が足りなくなれば、それを補填するべく税率が上がる。これがその基本である。問題になりそうなのは、システム的な実現性はもちろんだが、そのパラメータを何処に置くか、そしてどうやって周知するか、だろう。
まず周知方法だが、これは定期的に官報に掲載すると共に、関連システムへパラメータをプッシュするということになるのだろう。ここでプッシュにトラブルがあると大問題なので、かなり前には通知し、当日までに確実に確定する必要があると考えられる。その前提として、関連する全対象が電子化及びオンライン化していることが求められるため、ハードルはかなり高いだろう。トラブルも頻発する。定期的にとはいっても毎日更新などは無理だろう。
問題はパラメータだ。例えば不景気の時に税収を確保しようとすれば税率は上がるが、これは企業や個人にとっては苦しい話なので、不景気を誘発する恐れがある。また、税は多岐に渡っているので、調整税率に対して不満を覚える個人法人は多く出るだろう。どの業界は優遇されているとか苦しい人が救済されていないなどだ。これは本来の目的の逆であり、本末転倒になり得る。
つまり、税を徴収するあらゆる個人法人の税に対する感情をうまく正しく拾い上げないと、この仕組みはかえって混乱と不満を誘発するだけになるのだ。逆に言えば、そこがこのシステム成功の鍵を握っている。
これはアンケートやSNS投稿の感情分析などでは追いつかない。もしそうしてしまうと、声が大きいものが勝つ文化になってしまう。世の中はアピール合戦で更に混乱してしまうだろう。そうではなく、もっと冷静な指標が必要である。
既に存在する経済指標を使うというのは一つの案であるが、そうなるとマクロには見れてもきめ細かい操作は出来ないだろう。また指標の更新頻度は低いので、せっかくのダイナミックさが失われがちだ。
これらから考えられるのは、①個人や法人による操作が不可能であること、②頻繁な更新頻度、③地域毎や業界毎、年齢性別毎などで細かく見ることができる、の視点で経済指標を探し、無ければ新たに作ることだ。
候補としてはGDP、消費者物価指数、貿易収支、失業率、有効求人倍率、歳出のうち義務的経費、国債残高、出生率、婚姻率、年齢人口比率、年金繰り延べ率、等が考えられる。だが、そういう発想を全部取っ払って、ある一つの指標に注目してはどうかと考えている。
それは、個々人の収入(所得ではない)に対する税負担の比率である。つまり、それが何の収入かは関係なく、収入の少ない人の税負担比率は少なく、収入が多い人の税負担は多くあるべきである、という思想の下、税を調節するというものだ。これを噛み砕くと、
- 平均的な収入レベル別税負担率を算出する。
- ここからはみ出ている人が多い領域を抽出する。
- 収入が少なく税負担が多いグループに固有に掛かっている税を減税し、収入が多く税負担が少ないグループに固有に掛かっている税を増税する。
というものになる。
シミュレーションしてみないとわからないが、そういうことがある程度上手くできるのなら、(月イチ更新が無理としても)税率調整の基本的方針として直ぐにでも使える考え方である。
但しこのためには、個人の収入と税負担をできるだけ正確に、また満遍なく大量に収集する必要がある。国民の合意が得られるかどうかは難しいだろう。