2019年11月1日金曜日
多対多のAI解析と量子コンピューター
がんゲノム情報管理センター という組織がある。がんゲノム医療、即ち本人の遺伝子を解析して、その情報を基にして治療法や薬を選択あるいは創薬することにより、効果的な効果を上げる、つまり個別化医療を行うものだ。
当然ながらそこには膨大なゲノム情報が蓄積されているのだが、全てのがん、全国民の全ゲノム情報が入っているわけではない。 ゲノム解析といってもレベルは様々で、単一遺伝子解析、マルチパネル解析、全エキソン解析、全ゲノム解析と進み、進むほどに難しく、データ量も多くなる。最終的には全国民・全ゲノム解析が望ましいわけだが、それには膨大な費用と長い時間、何よりも国民の同意が必要である。
将来的に「全国民全ゲノム解析完」をなし得たとしても、そこで終わりではなく、その先には「全国民がん(及びあらゆる遺伝病)予防」が待ち受けているわけだ。それがどれほど膨大な計算量になるのか、想像すらつかないが、もしそうなれば、偶然に掛かる風邪や怪我を除けば、遺伝的に発症しやすいあらゆる病気の駆逐も可能になるかもしれない。
まあ最初は全国民ではなく希望者になるのだろうが、そのたびに膨大な計算をすることになるのは避けたいと思うのは人情だろう。いくら技術的に可能だからといって、膨大なコストを掛ける、例えば人が稼ぐ生涯賃金を上回る計算機コストを掛けるというのは意味が薄いだろう。そこには当然、計算量を減らす工夫が必要になる。例えば初期コストで数百万円、最終的には数万円まで抑えたい。 そこには、個別に計算するのではなく、多くの人に関して一気に計算した方が安くなる、という仕掛けが働くのだろう。これがタイトルにも示した「多対多のAI解析」だ。
必ずしもAIが関わる必要はないのだが、逆に言えば精緻な計算も必要ない。完璧な計算ができなくても、例えば8割がOKになれば十分、という考え方だ。もちろん金持ちは別払いで精緻な結果を望むことはできる。 従来のAIは、入力は多数でも、出力が多数あるということは想定されていなかった。「これは何ですか」と聞かれて「犬の確率50%、猫20%、キツネ10%、。。。」などというのとは違う。全ゲノム情報をブチ込まれたAIに対し、同時に「AさんにはXX、Bさんには△△、。。。」という答えを期待するのが、この多対多のAI解析である。
多対多で解析をした場合、多対一で解析をするよりも効率が良いこと、例えば多対一と多対二で計算した場合、多対二の計算コストが多対一の計算コストの二倍未満になることが実現できれば良いわけだ。これを例えばニューラルネットワークで実現したとして、それができるかと言えば無理だろう。個々のノードは単一の外部事象にしか対応していないからだ。
しかし、もし、個々のノードが重畳に対応していたらどうだろう。これ即ち、量子ビットである。これこそが、計算量縮小のカギになるのではないだろうか。 もちろん、今のDNNを単純に量子ビットで置き換えるというような単純なモノにはならないなずだ。具体的なアーキテクチャも、にわかには思いつかない。量子ビット自体も開発途上である。このため実現は遠い将来となるだろう。しかしこの場合、例えば量子ビットの正確性はそれほど出なくて良い。本来の(正確性を要する)計算よりも、ずっと早い段階で実用可能になるかもしれない。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
注目の投稿:
ロボットシェアリング&困窮者向けジョブマッチングモデル
近い将来、AIやロボットが発達することで、労働者の仕事が奪われる事態が起きる。頭脳労働では一部業界に既に起きている(イラスト、音楽等)が、これが肉体労働にまで進んでいく。例えばレストランのフロアスタッフは既にタッチパネル注文や配膳ロボットにより侵食されており、他にも徐々に複雑な仕...
人気の投稿:
-
高市新総理がかつて主張していた「スパイ防止法」。巷でもスパイ防止法の制定を望む声は強いのだが、調べてみるとそんなに単純な話ではない。特に、世間のイメージと実態はかなり異なっていることが分かったので、ここでメモしておく。 まず、「スパイ防止法がないのは日本だけ」とよく言われて...
-
たつき諒氏の予言が話題になっているので、私も一つ予言をしてやろうかと思う。 2025年7月5日を中心とした前後1週間(計2週間+1日)の間に、日本の太平洋岸を震源とする、最大震度6強以上の地震は、起きない。 地震予知三原則である①地域の特定②時期の特定③強度の特定、何れも満...
-
古くは仮面ライダースナックやビックリマンチョコ、最近では万博パビリオンの時間指定チケットやマクドナルドのちいかわグッズなど、何かと話題になっている転売の是非について考察してみた。これももちろん生成AIを使って、なかなか面白い結論が出た。 最初は万博場ビリオンについて議論したのだ...
-
高市首相は安倍氏と同じ積極財政論者で、就任直後からその方向に舵を切っている。プライマリバランスゼロ目標を事実上反故にし、戦争でもコロナでもないのにいきなり17兆円もの補正予算を組んだ。ちなみに安倍総理が初年度に打ち出した補正予算は10兆円であり、それと比べても突出している。 こ...
-
「生成AIはミーハーである」の回でも少し触れたのだが、生成AIの回答は一次的には誤っていることが多い。それを指摘してAIが回答を修正していく様を見て楽しむ、というのが最近のマイブームだ。 どういう指摘をしているのか、と自己分析してみると、興味深いことに陰謀論者との議論とあま...
-
生成AIを使って作成されたイラストに対する極端な非難が相次いでいる。そのどれもが、ちょっと行き過ぎに思える。例えば、事前にAIであることを知らせているもの、絵を描いている本人が確認し承諾したものまでも非難されている。なぜこんなに過剰な反応をするのだろう。単にノイジーマイノリティの...
-
一時期流行したベーシックインカムもいったん廃れたが、完全に潰れた訳ではなく、一部の市民や政治家は諦めていない。また何度も復活するだろう。そしてまた萎むだろう。 世間がベーシックインカムに反対する理由は主に財源と配分であろう。MMT信者のおバカ提案は論外だが、そうではない真面目な提...
-
世の中の話題はAGIを通り過ぎてASIに進んでいる。AGIがGeneral IntelligenceならASIはSuper Intelligence、即ち人類を遥かに超えた知性ということらしい。 2045年にシンギュラリティが起きると予測したのは、人工知能研究の世界的権威であ...
-
クルド人と地元の人たちとのトラブルに見られるように、日本で外国人排斥運動が起きている。 世の中は近年、融和より対立を好んでいるように見える。その代表は右翼対左翼で、トランプや安倍のような対立を煽る風潮の流れを汲んでいる。生活保護者への批判、女性女系天皇、憲法改正などでも同様の...
-
聞くところによれば、実用的な量子コンピュータの登場は2030年代半ばから後半(2035年〜2040年頃)が有力な予測とされているのだそうだ。これは、数百万qbit規模の量子コンピュータが開発される時期、という意味だ。 一方、従来の公開鍵暗号(RSAや楕円曲線暗号など)は量子攻...

0 件のコメント:
コメントを投稿