2019年9月16日月曜日
究極の災害用トイレ
災害に備えて準備するのは、水、食料という人が多いだろうが、トイレについてどれだけの人が準備しているだろうか。折り畳みのポータブルトイレや携帯トイレ、凝固剤などが売られているが、調べてみると結構大変だ。
その大変さとは、第一に費用だ。携帯トイレでは、1回の処理に100円から200円ほど掛かる。自宅に置いておく凝固剤とビニール袋の組み合わせでも、1回50円を下回るものは殆どない。備蓄の基準として、トイレは1人1日5回で計算される。大1回、小4回だ。1回100円であれば、1日500円掛かる。家族4人なら、2000円だ。これは結構な金額になる。トイレの復旧は、電気より遅い。大規模災害では数週間、数ヶ月と掛かることも珍しくない。たった2週間でも家族4人で3万円掛かる、と聞けば、結構抵抗感があるはずだ。
第二は、処理後の袋が膨大な量になることだ。基本的にこれらは溜め込むしかない。小は1回150〜250g、大が同量だと仮定すると、1人1日1kg。4人なら4kg。これが2週間続けば、50kgだ。臭いが完全に払拭できるとも思えないので、室内に積めば臭うだろうし、外に積めば近所に迷惑になる。吸水性ポリマーに頼る現在の方法では、このどちらも解決する見込みは少ない。
これに対して有望なのは、コンポストトイレだ。コンポストトイレは、おがくずに排便排尿してから撹拌し、場合によっては保温することで、糞尿を生物学的に分解するものだ。水分は分解の過程で蒸発するので大幅に減量され、有機物も分解されて臭わず無害なものに変わる。おがくずは何回も使え、最後には土のようになる。そうなったらおがくずを取り替える。交換は4ヶ月から半年程度のサイクルで行う。分解のための菌は、そこらへんにある自然のものがそのまま使われるため、必要ない。モノによっては菌を投入することで分解を促進するものもある。
これも一見理想に見えるのだが、細かく見てみるとまだ不満がある。必要なおがくずの量は、Wikipediaによると、1日あたり処理数✕0.01立方メートル(10L)だそうだ。これを上の回数に当てはめると、家族4人で20回だから、200Lとなる。これは風呂の大きさに匹敵する。そんなに大量のおがくずなど、用意できない。これに対して、実際に市販されている携帯用のコンポストトイレのオガクズの量は10L程度しかない。これは短期的にしか使わないことを想定している。週末利用や船上キャンピングカーでの利用などだ。一時的に容量オーバーしても、その後しばらく使わなければよいだろう、という発想だろう。
ここで考えるのは、非常時に役立つ理想のトイレだ。条件は、①賃貸でも使える、②ランニングコストが50円/回以下、③使用後袋が無制限に増えない、④電源不要、とする。
ここで、更にコンポストトイレの特徴について考えてみる。基本は微生物による分解なので、温度、酸素、水分が適切であれば早く分解する。ここで問題になるのは小の水分だそうで、小が入ると水分が多過ぎ、分解速度が落ちるのだそうだ。このため、海外では大小分離が一般的で、大はコンポスト処理にするが、小は別に溜めておいて、薄めて肥料にするのだそうだ。どうも、大だけであれば、10Lでも少人数なら大丈夫らしい。
賃貸やマンションではこの方法は使えない。小が流せるなら最初から苦労しない。下水道が破壊されている前提だから、大も小も(水も)流してはダメな状況での使用になるからだ。そこで、大に関してはこれで解決とし、小の処理を別に考えることにする。
市販のポータブルトイレの中には、水洗式且つ上下分離式のものが多い。便座の内部に水洗用の水を溜めておいて、ポンプで流して洗浄する。そして下部は汚水タンクになっていて、これだけを分離してトイレに持っていき、廃棄する(流す)わけだ。これを使う。
この下部のタンクに、浄水器を取り付けておく。一部は上部タンクの水洗水として戻し、残りは捨てる。この際、下水に流すのではなく、雨水の排水口に流す。もちろん心理的抵抗がなければ再利用しても構わない。飲用水、手洗い用、洗濯用などだ。
問題となるのは浄水器の性能だ。ここで使うのは、LifeSaverである。LifeSaverはイギリスのベンチャーが開発した浄水器で、従来の浄水器の性能を遥かに凌ぐ高性能なフィルターを持っている。泥水はおろか、し尿が混じった水さえ飲水にする、というデモンストレーションをしているので有名だ。これを使えば、外に排水して問題ないほどに浄水できるはずだ。ジェリー缶に移すのでも良いが、せっかく上下分離タンクがあるのだから、このタンクの下部を改造して取り付けるのが良いだろう。
また、大の方での工夫として、コンポストを生ゴミ処理機と兼用にする。世間では逆に、コンポストをトイレに改造したりしているが、発想は同等である。コンポストの蓋を、普段使う生ゴミ用と、非常時に使う大小分離便座に交換できるようにする。これなら普段は台所に置いておき、非常時にはトイレとして使えばよい。
生ごみ処理機兼用コンポストトイレと、浄水器付き分離タンクを付けたポータブルトイレの組み合わせ。初期費用はだいぶ掛かるが、これなら数ヶ月レベルで、家族4人のトイレ処理のランニングコストを、ゼロにすることができる。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
注目の投稿:
超音波モーターの原理によるVR用トレッドミル
VRにおけるリアリティ問題の一つに、その場で動くのではなく移動する場合、つまり歩いたり走ったりすることが挙げられる。実際にはその場にいるので、歩いたかのように足場を調節してやる必要がある。 これを実現する方法として、すり鉢状の滑りやすい足場を作っておく方法と、トレッドミルを使...
人気の投稿:
-
性善説と性悪説、どちらを取るかと言えば、やや性善説、だろうか。 子供の成長を見ていると分かるのだが、基本的に子供は善だ。だが、同時に自分勝手なところもある。人の持っているものを欲しがり、場合によっては喧嘩してでも奪おうとする。だがこれは「悪」と言えるほどのものではない。 ...
-
http://techon.nikkeibp.co.jp/real/project/025.html 水と混ぜるだけでできるセラミックスで、圧縮強度、曲げ強度、引っ張り強度、接着強度、耐食性、とあらゆる面で優れているのだそうだ。また、混ぜ物ができるので、その特性をさらに...
-
CAS冷凍 については何回か書いているのだが、いわゆる冷凍睡眠にこれを使えないだろうか、と考えた。 不治の病を未来の医療に託すとして冷凍睡眠(実際には死んでから凍っているのだが)している人は居るし、火星程度より遠くに行くとなると冷凍睡眠の実用化は必要になるだろう。「20...
-
骨梁とは、骨の内部に存在する網の目ないしはスポンジのような構造のことだ。この構造によって、骨は頑丈なのに軽量でいられる。類似の構造としてはアルミ発泡材があるが、あれはどちらかと言えば消音や軽量化が目的であり、骨のような(建築用語で言うところの)構造材としての用途とは少し違う...
-
ハクキンカイロの発熱原理を調べていて、これを防災用(キャンプ用でも良いのだが)の湯沸しに使えないかと考えた。 普通、キャンプではガスコンロを持っていく。だがあれは裸火を使うから、熱効率は悪い。これに対してハクキンカイロの仕掛けは、白金触媒を適切な場所に配することで、極...
-
フリーズドライには、戻したときに食材の食感が変わってしまう欠点があった。代表的には、豆腐が高野豆腐になってしまう。じゃがいもがスカスカになってしまう。葉物野菜はしなしなになってしまう。これらの欠点を、「 CAS冷凍 」によって補うことはできないか、と考えた。つまり、冷凍には...
-
http://www.reconstruction.go.jp/topics/m18/04/20180409160607.html 復興庁が出した、東日本大震災における復興支援の報告書だ。 ざっと読んだが、よくある役所の成果報告書という感じで、タイトルからして「事例...
-
http://japanese.engadget.com/2017/03/28/ai/ これは、上の記事への反論である。 記事の流れについては先のリンクを読んで頂ければと思うが、大きくはその結論として①AIには想像力がない(苦手)、②日本人には世界に稀に見る想像力...
-
ソフトによっては機能が多すぎて、メニューの中を探すだけで一苦労、ということが増えてきた。画像編集、CADなどは特にそうだが、ワープロ程度であっても既に充分に多い。一度も使ったことのない機能も多々ある。 ソフトによってはメニューがカスタマイズできるものもあるが、その範囲は...
-
電線の地中化が遅々として進まないそうだ。 電線を地中化できない最大の要因はコストだろう。よく「予算が無い」などと言われるが、その本質は「それだけの予算を掛ける価値が見出せない」ということだ。地中化の主目的は防災だが、普段のメリットがせいぜい景観くらいしかないことが、...
0 件のコメント:
コメントを投稿