2017年3月29日水曜日

四角推磁気免震


免震技術の一つに、「エア免震」というものがある。地震が発生すると、ホバークラフトのように地面から浮き上がる、というものだ。
なかなかよいと思うが、普段は浮いていないわけだから、例えば故障していないかどうか確認するために年に1回点検で浮かせてみる、などは必要だろう。そして「浮く」という点に注目すると、地面から虫が入ってこない、地面の熱が伝わらない、というメリットがある訳だが、非常時しか浮かないからこのメリットは生かされない。では常時浮いていれば良いのかというと、空気を噴き出すのでうるさいだろうし、停電でドシンと落ちるのも困る。消費電力も大きいだろう。
では、と考えたのが磁気免震だ。これなら常時浮上しても騒音が発生しない。強い磁気の影響が気になるが、リニアモーターカーが大丈夫なのだから対策は可能なのだろう。リニアモーターカーと根本的に違うのは、動く必要がないから永久磁石でよい、ということだ。これなら電源も不要で故障の心配もない。
だが、ただ浮いているだけではダメで、揺れを吸収してもらわなくてはならない。このためには、磁石を単純に平面に並べて上に向けるのではダメだ。ではどうするか。
基礎を逆四角錐の形状に掘り込み、この壁面に磁石を埋める。一方、住宅の下部は同じような四角推(下向き)に作り、やはり磁石を埋め込む。この際、四角錐は一つだけでなくともよい。こうすると、まず地面が揺れたとき、家に近づいた方の基礎壁面より、家は斜め上方向の力を受ける。
しかし家には相当の質量があるから、慣性によってその動きは緩慢になる。その間に揺り戻しがくれば、家は反対方向からの斜め上の力を受ける。この力の合成により、家はほぼ真上に上がることになる。揺れの振幅・周波数が激しいほど家は高く上がる。この際、周波数が指定値を上回れば、どのような周波数であっても家は揺れが減衰する。この指定値は、家の重量、四角推の角度、磁石の強度から決まる、いわゆる共振周波数である。本震の周波数を想定し、これより充分に小さくなるように設計しておく。なお、長周期振動が気になるが、こちらは本震より極端に周期が長いため、設計値はこの間にしておく。高層ビルと違って限界まで触れると四角推が地面と当たるため、それ以上の幅で揺れることはない。
円錐ではなく四角推にしたのは、円錐だと回転してしまう恐れがあるためである。また、免震でよく問題になる風(台風)への対処もまた不要で、家は(若干斜め上になるがほぼ)上方向にしか揺れない。風の場合は揺り戻しがないが、四角推に当たることで家は垂直方向に動き、風が弱まると元に戻る。
尚、エア免震でもそうだが、水平を保つためには家の重量バランスに合わせて重りを配置する必要がある。建築途中でバランスが変わるので、これも適宜調整する。四角推の場合は、その窪みに水を溜めることで重量中心を地下に持ってこれるので、これができるならあまり必要ない。
問題になりそうなのは、恐らくネオジム磁石が使われるだろうがこれは錆びに弱いこと、床下に入り込む虫や砂埃に含まれる鉄などの対策、などだろう。また、少なくとも最初に建築する際は大変だろう。強力な磁石なので、近隣の鉄製品や砂鉄を見境なくくっつけてしまうだろうからだ。
最後に実現性を考えてみる。磁石で家を支えられるかどうかは、単位面積当たりの家の重量と、その面積を持つ磁石の反発力で決まる。同じか劣ればダメだし、数cmしか浮かないのであればやはりダメだ。最低でも15cmくらいは欲しい。
一般的に、木造住宅の重さは300kg/㎡と言われているそうだ。10mm角のネオジム磁石の吸着力が大体4kgf。また、反発力は吸着力の50~70%と言われている。ここから、
  • 重量300kg、底面積1㎡の物体を15cm浮上させるために、吸着力4kgf、10mm角(10x10x10mm)のネオジム磁石を、物体と床に対向して設置するとして、ネオジム磁石が何個必要か。またその磁石の総面積は物体側・床側共1㎡以内に収まるか(個数が分かれば×1cm2で計算できる)。但し反発力は吸着力の50%と仮定する。なお、傾き誤差などにより物体が滑って落ちてしまう可能性は考慮しなくてよい。
という問題を解けばよいことになる。大丈夫そうな気もするが、詳細な計算は専門家に譲ることとする。また、実際には揺れた際に磁石がずれるから、この何割り増しという数が必要だろう。
更には値段だ。10mm角のネオジム磁石の価格は概ね百円。1㎡に千個要るとして10万円。60平米なら600万円だ。これはちょっと厳しいかもしれない。
別のアイデアもある。磁石で浮かせるのではなく、粘性流体で満たして浮かせるものだ。水銀は極端だが、シリコンシーラントのような弾性樹脂がまず考えられる。また、共振周波数の異なる複数のばねで繋ぐ、永久磁石ではなく電磁石としておいて、地震を検知してスイッチを入れる、なども考えられる。これならかなり安くなるだろうし、磁力を自由に調節できるので細かい計算をしなくてよい。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿:

ダイナミック租税とその指標

今の法律では、税率は一定の計算式で表されるが、そのパラメータは固定である。需要と供給のバランスによって商品の価格を変えるダイナミックプライシングというのがあるが、あれを租税にも適用してはどうかと考えてみた。 納税者の声をベースにして様々な租税や補助金を自動調節して、どこか一箇所...

人気の投稿: