2016年12月4日日曜日

法のプログラム化


例えば、有名な「日本国憲法の改正手続に関する法律」の殆どは、一般の選挙や最高裁判所裁判官国民審査におけるそれと同じである。しかしそれらへのリンクや読み替えで文書を短くしようとする努力の跡は見られず、むしろ「コピペ」で対応しているように見える。これは、同じ罪状、例えば投票干渉罪が、憲法改正手続法と公職選挙法の両方に現れる、といった形で表現される。

他にも、法の中に別の参照すべき法が記述されていたり、仔細が別になっていたりするが、その都度あちこちから法を引っ張り出して参照しなければならない。しかも、どちらを優先すべきかを迷うような記述もあって煩わしい。細かい法律が山のようにでき、誰も理解不能になっているようでは、守らせる方も守る方も不幸だ。

技術屋からすれば、例えば「一般投票法」を一つ作り、国民審査法、衆議院議員選挙、参議院議員選挙、…における個別情報のみを差分で作ってほしい。罰則もそうだ。更には、個々の法律の中で金額や年齢などが絶対値で書かれているものも、変数化してほしい。

例を上げると、参議院議員の被選挙権は25歳からだが、これは絶対値なのか相対値なのか。もし「成人+5年」がその真意ならそう書くべきだ。またその「成人」の定義は、全法律で統一して欲しい。成人と一言で書いてしまうから、選挙権と婚姻と飲酒喫煙が別々の法に書いてあって混乱するのだ。恐らく選挙権は社会的に決まるが、飲酒喫煙は生物学的成長に基づくはずだから、本来は違っていて良い。婚姻はその中間なので、本質的には三つとも違っていて可のはずだ。

これは罰金にも当てはまる。例えば、税滞納の追徴利率など、金利1%以下の時代に16%などというのはどう考えてもおかしいだろう。金利の変動によってこちらも変動すべきだ。また、時代と共に物価は変動するし、当人の富裕度によって罰金に対する感覚は違うから、絶対額で表記するのもどうかと思う。例えば「日常生活に支障のないレベル」「年に2、3回払うと生活が困窮するレベル」「資産を大きく減らすレベル」のようなものがあって良いように思う。本人の資産額に応じた計算式で示すようなことがあって然るべきだ。

また、そもそも日本語で書いてあることがおかしい、というと言い過ぎか。日本語は主語が曖昧な言語なので、放っておくと厳密さに欠けるものができてしまう。プログラムで書けば、パラメータを与えれば必ず同じ答が出てくるが、法律とは本来そういうものだろう。

国や自治体が個人や会社から税を取るときのパラメータは、法人か個人か、収入と必要経費は、支出内に控除すべき種類のものがあるか、などであるが、確定申告の書類に数字を入れればちゃんと計算してくれる。やればできるのだ。他の法律でも同じようにすべきだ。

これを要約すると、「法のサブルーチン化」「法のパラメータ化」、合わせて「法のプログラム化」となる。もちろん人間には読めないようなルールであれば困るが、日本語の変数が通るPrologのようなものなら記述は可能ではないか。

もちろん全部書き換えるには相当な困難がある。例えば法の中には「XX年以内に見直すこと」とあっても実際にはそれが行われていない、というものが多数ある。また、いわゆる「努力義務」はこの手のロジックに載ってこない。こういう記述はそもそも法に含めるべきではないと思うが、実際にはそうなっている。

だから最初は、罰金と罰則をサブルーチン化するところから着手して欲しい。次は罰則に当たる条件のパラメータ化だ。そうして少しづつ各々の法律を整理していき、一つの大きなプログラムを作り上げる。こうすれば裁判では、パラメータの解釈だけに集中できる。

こういう考えをする人は少なくないようで、ネットで検索するとちらほら見掛ける。大学などで研究しているところもあるようだが、メジャーになる雰囲気が見えない。近年ではAIが弁護士の判断補助に使われるなど、少しづつコンピュータを活用するようになっているが、どうも今の法律は是としたまま使う前提のようだ。個人的にはあまり好ましくない方向性だと思う。
 
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