2024年10月1日火曜日

全てAIが対応します


星新一のショートショートで、今でも覚えているものがある。全ての人の肩には鳥が留まっていて、その人が本音を言うと、鳥が当たり障りのない言い方に変換して相手に伝えてくれる、というものだ。今、生成AIがメールの下書きをしてくれているのを見ると、正にこれだな、という感がある。

肩に鳥というのは寓話であるが、これがアバターならもはや完璧だ。人がメタバース上で交流するようになれば、この鳥は完全に隠れた存在となり、もはや相手には鳥がいることが分からない。言葉もそうだが、態度も表情も全て、AIが一枚噛んだ状態で接するしかないことになる。

メタバース上のコミュニケーションでは、この問題が付いて回る。相手が実はAIだった、というものも含めて、相手の本当の人格が分からず、自分の人格も他人には分からない。メタバース上で友人になったり恋人になったりしても、それが本当の相手とは限らないわけだ。

今の時代、メタバース上でカップルになった人はそこそこいるらしいが、それは容姿のみしか隠していない。将来上記のようなAIが実用化した時、言葉も態度も全て隠した状態で相手を好きになったとしても、それは本当のことなのかどうか。これは社会問題になるだろう。

その先には、「生身の人間が一人づつ殺されてAI人格に置き換わっていく」といったSFも書けるだろうし、「生身の人間との相対は全てAI人格になり、人格を磨かずとも人は幸せになれる」という籠の鳥状態の人間が多く出てくることも予想される。そういう世界では人同士が生身で会う機会が極端に減り、これは人口減に直結するが、社会はAI人格で回るのでそれが問題にならない。そして本物の人口はどんどん減っていき、人類は穏やかなる滅亡を迎える、というシナリオを書くことも可能だ。

上のシナリオで、人類が穏やかに滅亡するとしても、その個人個人は全く不幸ではない。むしろ世界の誰でも理想的な生き方、死に方ができて、幸せこの上ないはずだ。戦争も起きないし、動物の絶滅もないし、地球環境は維持できる。人類以外にとっても、それは理想ではないだろうか。

それは人類にとって、マクロで見ると防ぐべきなのかもしれないが、ミクロで見ればその幸せを取り上げることになる。大衆は賛成してくれるだろうか。滅亡を他人事として自分が幸せなら良い、という人が大部分ではないだろうか。事実をAIに隠されることも含め、これらは真面目に考えるべき問題である。

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