2019年3月25日月曜日

働かなくてよい時代は来るか


ロボット労働のパラドックス」の続き。世界中の誰もが働かなくてよい時代、というのはあり得るのか。ホリエモンなどは来ると言っているようだが、自分の結論としては「50年単位で無理」だ。以下、説明する。

過程をすっ飛ばして最終的な形態を考えると、それは映画「ウォーリー」の巨大宇宙船アクシオムのような状況である。ロボットが準備してくれるので、人のすることの全ては娯楽と食べることのみで、ぶくぶくに太ってしまう(それでも良い)というようなものだ。

もし、アクシオムのような世界が実現するとしたら、その技術的なスペックはどのようになるのだろうかと考えてみれば、自ずと答えは出てくる。単純には、エネルギーと資源で厳しい制約を受け、その経済圏の中に入れる人間は限られる。

今から30年くらいで、地球人口は百億人くらいになる。これを前提に、この百億人が何もせず暮らせるために必要な食料、エネルギー、衣料、住居の量を考えてみると、今の世界中で作られている量の何倍が必要になるだろうか。

この百億人の大部分は新興国・発展途上国の人だし、先進国にも経済格差がある。働かなくても良いレベル=満足な量の食料、衣料、住居、医療、教育などだろうが、これが足りているのは先進国の、しかも一部だけだ。それもAIとロボットで満足しなければならないとなれば、必要なエネルギーと資源材料の量は、十倍から数十倍であると想像できる。

このうち、再生可能なものはわずかだ。自然エネルギー発電と金属、木材・植物性材料がそれに当たるが、金属は完全ではないし、それ以外の、例えばプラスチックや希少材料、石油天然ガス等は消費する一方である。ロボットにより採掘がいくら効率化しても、そもそもないものを掘り出すわけにはいかない。これを問題①として定義する。

問題②は、貨幣価値経済である。今の世の中にも、働かなくても生きていけている人は大勢いる。しかしその人たちは貨幣価値経済における勝者に過ぎず、これすなわちその一人につき膨大な数の敗者が必要なことを意味している。この敗者は逆に、働いても働いても貧しく、飢え、苦しんでいる人だ。

そして、単にAIとロボットがいたとしても、その図式は変わらない。新三種の神器やコンピュータの出現と同じく、「新しい便利な道具」が出現した、というだけの話だ。働かなくても済む人が若干増えたとしても、全員ではないし、殆どでもない。最貧困者の底上げはあり得るけれども、相対的貧困はなくならないし、依然として大部分は敗者である。

食糧生産のコストが下がったとしても、ゼロにはならない。ロボットを買い、動かし、保守し、材料を買ってくるのだから、出来上がったものは売らなければならない。オーナーが誰かは関係ない。もし生産物をタダで配ろうと思うのなら、原材料採掘からエネルギーからロボット製造保守から製造から全てを全部所有し、自己完結している必要がある。それも全部ロボットのみでできなければならない。そんな工場がこの世に一つでもあるだろうか。

問題③は、税金である。上のコストにはまだ税金が考慮されていない。例えばロボットで自分が食べるだけの食料を作り出している家庭には税金は掛からないか。今、ロボットが幾らいても税金は掛からないが、ビル・ゲイツ氏がロボット税を提唱しているような事態が起きないとは限らない。なぜなら、ロボットを導入できない貧乏な世帯への補助には税金が投入されるからだ。その原資として必要とあらば、どんな税が投入されないとも限らない。また、当然固定資産税は掛かるし、借家ならそのコストが掛かるが、それにも税金が含まれている。

税金支払い分を稼ぐためにロボットを働かせるとなると、当然この効率は注目される。外(国、自治体)による目で、その労働価値は値付けされてしまうわけだ。自分の自由にできない支出が出てくれば、それに合わせて働くしかなくなる。

問題②③は本質的なものではないので、時が経てば解決する可能性はある。しかし問題①は相当に厄介だ。石油は、植物由来プラスチックや、電気で置き換えることは可能だろう、エネルギーは、太陽電池を使う。食料は植物工場とフェイクミートを使う。定性的にはそのような道はあるのだが、問題は量なのだ。

問題は、主に石油代替である。例えばエネルギーであれば、発電を全て再生可能エネルギーにする必要があるが、そのためにはまず太陽電池を今の50倍~100倍という規模で建設しなければならない。また、全ての航空機と自動車を電動にしなければならない。

原料(プラスチック)の代替には、植物由来プラスチックを使うことになるが、そのためには大量の植物(例えばとうもろこし)が必要になる。今の世界市場における植物由来プラスチックの比率は1%未満であり、3桁の伸びが必要となることになる。これは、対応するとうもろこしの作付け面積が同程度伸びる、ということだ。

既に栽培適地はあらかた生産されているし、そうでないところに植物工場を作って高コストで作るにしても、生産量を百倍上げるのはきわめて困難だろう。

また、作付面積の大部分を占める小麦ととうもろこしは、食料としても生産性を10倍程度に上げなければならない。こう考えれば、とても無理だ、ということは一目瞭然である。

極端な話、スペースコロニーでも作ってそこでとうもろこし生産をするとしても、やはりとても間に合わない。月に入植するのも無理。結局、世界人口が大幅に減らない限り、この理想社会は訪れないのだ。

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