Metaが発表したOrion。メガネタイプでありながら広視野角と無線接続を実現している点、非常に興味深い。当分製品化の予定はないそうだが、これがあったらMR・ARは飛躍的に使いやすくなる。正に「電脳メガネ」の世界の到来だ。
従来のVRゴーグルと違うのは、普段から掛けていて必要な時にすぐ使える点だろう。こうなるとそのニーズも変わってくる。そういうものを考えてみたい。
- 何といってもメッセージや電話・テレビ電話の概念が変わってくるはずだ。つまり、視界の正面で不透明になるテレビ電話は使い勝手が悪いので、視線左ないしは右に避け、また半透明で背景はデフォルトで消してしまうものになる。こちらの映像もカメラはないので全てアバター、つまり相手の映像も最初からアバターだ。つまりアバターがデフォルトになる。
- 多対多の会議では、既にMicrosoft Meshが実現しているような形態が進化するのだろう。VR世界にアバターが集まり仮想テーブルを囲むような形式だ。この場合でも完全なVRではなくMRになるので、現実のテーブルをある程度反映するようなものになるだろう。
- MRよりはARが主体になる。マンナビはその最たるもので、行き先を指定すると曲がり角で曲がる方向に矢印が出る。また知人と会ったらその情報を引き出し、顧客との相対では顧客感情を常にAIが検知し適切なアドバイスが出る。
- コントローラを握ることはあり得ないので、音声操作とジェスチャーが主体になる。Orionでは手首に筋電センサが付いていたが、これもデフォルトになるだろう。常に着けておいて、必要になったら使うのだ。視線追跡もデフォルトになるだろう。
- また、ジェスチャーはある程度標準化してもらわないと困る。今のところ汎用のOSと言えるものはMetaのHorizon OSしかないが、ここでの標準は皆準拠して欲しい。Appleのようなゴリ押しは止めて欲しい。
- 電脳メガネで出てくる情報は、スマホで言えばアプリよりは通知、ウィジェットに近いものである。ゲームは殆ど無いだろうし、アプリの機能もそれほど多くはないはずだ。
- また、天気予報、ニュース、スケジュール、店舗の割引クーポンやポイント、地図やマンナビ、電子書籍といったカテゴリ毎に、表記はある程度取りまとめる必要があると思われる。
- 歩いている時にキーボードを使うことはあり得ないが、座っていれば可能性はある。折りたたんでスマホ程度のサイズになるBluetoothキーボードは既に存在しているが、これが広く普及するだろう。またこの時には正面にスクリーンが出ることができる。会議も、座って行う場合には、従来のように正面に4分割画面が出て、というようなUIは可能と考える。
- 遠い将来ならともかく、例えばこれが5年後に製品化したとしたら、バッテリの保ちはせいぜい2時間だろう。屋外で長時間使う前提のため、無線給電も不可だ。ということは、バッテリ交換式ないしはポケットに入る急速充電器のようなものは必要だろう。
- 電脳メガネで出てくるような仮想ペットや、呼べば現れる仮想執事のようなメタファで、AIエージェントを呼び出すようになるだろう。
- 一部のVRアプリでは既に実現しているが、手元にステータスウィンドウとメニューを表すような仕掛けが定着するだろう。
- スマホやスマートウォッチを持ち歩く理由がほぼ無くなる。これらは衰退すると考えられる。
- 表示に通知が多すぎると鬱陶しいので、メタファによる通知は増えてくるはずだ。これは以前にもhttps://spockshightech.blogspot.com/2017/08/mr.htmlで紹介した。そこには広告もさりげなく入ってくるだろう
- 殆どの人が電脳メガネを掛けている時代には、逆に言えば看板や表札、交通標識のようなものは不要になる。全てをMR、ARで表示すれば良いからだ。これらは景観以外にも費用や耐震性の問題があるので、実物は無い方が良い。特に観光地では、余計な広告は排除して景色をじっくり楽しむのに適している。逆に必要なのはWiFiなどの通信機構だろう。
- もっと言えば、掛け時計やカレンダー、テレビといったものも不要になる。更には書籍の類も電子化してしまえば良いので不要。チケットのようなものも不要。リモコンの類も不要。ペンやホチキスなどの文具も多くは不要になる。世の中はかなりスッキリする。ただ、これはその周りの職業が無くなることも意味しており、手放しで喜べるものではない。
- 子供の装着がどれだけ可能かにも依るのだが、本が電子化されることで教科書・ノート・参考書などを持ち歩く必要が無くなり、タブレットもノートPCも不要になる。持ち歩くべきは雨具や運動着などだけになるため、学校の行き帰りはずいぶん楽になるだろう。ランドセルは衰退するかもしれない。
- MRによる教育コンテンツのリッチ化が期待できるため、学問全体で底上げが図れ、特に子供の知的レベルは大きく向上する。人類がより賢くなれる。
- メガネにどんな生体認証が付くのかだが、ツルに仕込む指紋認証、虹彩認証、網膜認証が考えられる。となると、メガネを掛けていれば本人認証はできるので、会員証や鍵が無くても自由に出入りできるドアができたり、支払いも契約もメガネで完結するようになるだろう。
- お互いがお互いを直ぐに知ることができるため、例えばクルマでスピード違反で捕まって、その場で免許証を見せろとか車検証を見せろとかを言われることは無くなる。もっと言えば捕まるとか止めるとかも不要だ。スピード違反を検知した時点で点数が引かれ、逃げ続ければ免停になり、更に放っておけばどんどん罪が重なっていく。初対面でも秒速で名刺を交わすことが可能だ。受付における用紙記入や会員証の提示なども必要ない。どんどん用件に入っていける。
- ウソがつけない点も重要だ。消防署の方から来ました、と言ってもすぐにバレるし、オレオレ詐欺も不可能。それでも犯罪は無くならないだろうが、難しくはなるだろう。
- VR前提の世界だと、部屋から一歩も出ずに世界旅行すらできるイメージだが、MR/ARの場合は現実世界が主で、仮想世界は従になる。今まで通り出歩いて、ウインドウショッピングをすることもできるはずだ。ただ、家に帰れば(今のものより更に優れた)VRゴーグルがあるとも考えられる。MR対VRは、どちらか一方が完全に勝つのではなく、使い分けるものになるはずだ。つまり普段は電脳メガネで、家や会社でしっかりやりたい時にはVRゴーグルを掛ける、といったものである。
- VRゴーグルと電脳メガネを両方、家族の人数分だけ揃えるのは大変なはずだ。値段にもよるが、多くの人は電脳メガネを優先するだろう。VRは金持ちの趣味、MRは実用、という棲み分けが起きるかもしれない。
- 電脳メガネが普及している時代、(視力補正のための)メガネは使い勝手が悪い。必然的にコンタクトレンズの普及度合いが増えると考えられる。眼内レンズも安くなるのではないか。
- スマホと比べると電脳メガネはUIとして優れている。電子機器の普及度としては、スマホ超えが期待できるように思う。これは障害者や高齢者の普及度が上がることを意味しており、国民総電子化を目指すことができる。
- Orionのフレームには、大量の電子機器が埋め込まれている。Orionはウエリントン型だが、今後もフレームレスタイプは原理的にもあり得ないし、(視力補正のための)メガネのような形のバリエーションはハナから期待できない。これはファッション重視の人には耐え難いはずだ。とすると、誰もが電脳メガネを常に掛けているという世界ではなく、人によって掛け外しをする世界になっていると想像する。となると、気軽に掛け外しができるような機構、例えばメガネチェーンとかウェストバッグのようなものが普及するかもしれない。
さあ、10年後にどれだけ当たっているだろうか。結果が楽しみである。
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