2024年10月4日金曜日

メタバース前提の社会はどう変わるか

 

メタバースが主流の社会では、外出の機会が極端に少なくなる。これによって、大きなダメージを受ける業界が出てくる。それは大雑把に観光業と交通・運輸業、飲食業である。観光にはゲームセンターや映画館、大型ショッピングモール、スポーツ関係なども含まれる。また、雨具の需要も減るだろう。こういう業種は、メタバース内での類似の仕事に業種転換することを強いられるだろう。例えばメタバース内に観光施設を作り、入場料を取るなどだ。

それでも外出が必要となる機会としては、①対面が必須の業務、②本物の運動、③医者に掛かること、④メタバースに飽きて本物に触れたくなる、くらいだろうか。

①としては、介護業務や医者・看護師、デリバリーや宅配業者などが考えられる。また②に対応するコーチや④に対応する観光業者なども考えられる。③については、殆ど家の中にいれば感染症に掛かる心配はない一方、運動不足、日照不足、食事の偏りは懸念される。医者に掛かる回数が増えるか減るかは微妙なところである。

一方で、宅配やデリバリーは今以上に発達する。これに対応すべく、宅配に適した構造は進化するだろう。それは端的には宅配ロッカーの進化だ。ロボットカーによる自動配送に対応した宅配ロッカー、冷蔵や冷凍に対応した宅配ロッカー、また階段を登れるロボットカーなどによって、ドアToドアでロボットで完結するデリバリーも出てくるかもしれない。

次に、メタバースの性質からくる細かい問題について議論する。

メタバース内ではアバターを使う。アバターの自由度は現実のファッションの比ではないため、街を歩くアバターの奇抜さには慣れが必要だろう。またビジネスコードも新たなものが必要になる。背広にネクタイ七三分けはもう古いが、獣人や無用にセクシーなアバターはやはりビジネスには相応しくない。どのへんがセーフ、どのへんがアウト、というのは徐々に合意を積み重ねていく必要があるだろう。

また、メタバース内ではワープ(ワールドへのジャンプ)が可能なため、場合によってはプライバシー侵害になったり驚かせてしまったりする懸念がある。ワープ/ジャンプのマナーについても議論がされることになるだろう。これはワールドに「入口」を作っておいて、そこにしかジャンプしないようにする、というのが落とし所になるだろう。また、誰でも入れるのではなく、ある程度の制限が類型化されると思われる。誰でもOK、連絡先に登録している人はOK、リクエスト可能にする、指定した人だけOK、チケットの発行、入館料を取る、家族だけOK、誰もNG、などだ。

メタバース内では、通勤や通学など、移動の時間は殆ど必要ない。このため、従来より自由時間は増える。それを全て労働や勉強に振ってしまうのは勿体ないし、健康にも悪い。このため、国レベルで時間の使い方には制限を掛けて欲しい。今の労働基準法のようなものを拡大して、労働メタバース(勉強メタバース)、睡眠、食事・トイレ等、自由時間の上限下限を制定し、自動で監視する。副業してもサービス残業をしても全てバレる。また勉強も、同じ勉強時間での比較をするようにすれば、受験地獄には陥らない。これもメタバースだからこそできることである。

次に、メタバースでの体験が現実の体験より優れているところについて考えてみる。

メタバース内での全ての人の行動は、メタバース空間提供業者が完璧に把握することができる。またその人のIDを厳密に管理することで、そのIDが誰かも即時に分かる。このことから容易に想像できることは、メタバース内での犯罪やイジメ、それに準ずるトラブルは、現実世界に比べて大いに減るだろうということだ。

例えば、現実の世界で旅行をすると、ホテルや飛行機の都合で日程が制限されたり、予約が一杯で希望するところに行けない、旅行会社がミスをして、あるいは雲隠れして旅行ができない、現地でスリや強盗に遭う、接客がなっていない、混雑していて満足に見れない、暑い寒いなど、様々なトラブルが待ち受けている。下手をすれば病気になったり怪我をしたり、命を落とす危険すらある。

これらの問題は全て、メタバースの世界では起こりにくいし、モノによっては起こり得ない。どんなに人気のスポットでも交通手段が予約でいっぱいになることはないし、病気や怪我をする心配もない。トラブルが起きれば直ちに相手を切って、次に進むことができる。

これは旅行に限らず普段の生活でも同様である。迷惑行為をするご近所さん、タバコのポイ捨て、学校でのイジメやネグレクト、そういったものはメタバースでは起こらない(ようにすることができる)。問題が起きれば証跡を辿れば直ちに分かるから、訴えれば即事実が確認され、対応できるからだ。100%バレる犯罪をする人などいないし、もしいても確実に修正される。その意味で、メタバースは現実世界より安全である。

また、メタバース上には資源問題も食糧問題もないため、メタバース上での戦争や国際紛争は起こりにくい。起きるとすれば宗教や思想信条の対立だが、メタバース上で武力行使をするのは基本的に不可能である。自分のワールドやアバターを他人が破壊することは、そもそも許されていないからだ。もしそれが起きるとすれば、現実の社会において国がメタバース業者に圧力を掛けることだろうが、これはもう現実社会の問題であって、メタバースはそのとばっちりを受けているに過ぎない。一方で言論は大いにやってもらって構わない。

メタバースでは、距離の概念が希薄になるだけでなく、言語も自動翻訳が掛けられるため、言語上の障壁も少なくなる。これによって国際交流は現実世界よりもずっと簡単になる。これは相互理解を深め、ひいては国際紛争を減らすことに繋がる。戦争の最も大きな動機は、お互いの無理解だからだ。

メタバースでは、学習効果が高くなる。紙の教科書に比べてタブレットによる電子教科書のほうが学習効率が高い、ということは既に証明されているが、これがメタバースになれば更に立体的な視覚効果が使えるので、学習効果が更に上がることは間違いないと考える。これは学校の勉強だけでなく、社会のあらゆる学習場面で効いてくる。このため社会の進歩の速度は一層進むと考えられる。

逆にメタバースのデメリットを考えてみると、匂いや味はほぼ伝わらない。観光旅行で現地の食事を食べることができないというのは、人によっては致命的だ。もちろん通販と組み合わせて疑似体験することはできるのだが、自分で調理や解凍などをする必要があるのは興ざめである。またメタバースは視覚を主に使っているため、盲の人には殆どメリットがないと思われる。

運動不足になりがちというのもデメリットだろう。例えば短距離走をメタバースで行うのは無理がある。砲丸投げやり投げ、テニス野球、鉄棒鞍馬吊り輪新体操など、メタバースでは困難な競技はごまんとある。

これらより、人がメタバースに留まる時間について、公共の視点から何らかの制限が掛かる可能性はあるだろう。例えば週休二日としてその二日は運動や外出を勧められる、等だ。

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