2019年5月17日金曜日
オープンイノベーション政策
日本におけるオープンイノベーション、端的に言うなら産学連携は、世界的に見ても大きく遅れをとっているそうだ。そしてそれを促す施策が、国から出されている。だがその多くがどうも大学に一方的に厳しく、効果も薄いように感じられてならない。
よく言われているのが、大学への予算配分の「適正化」、つまり評価して偏らせる(良い教育をしていると認定されるところには多く、そうでないところには減らす施策)だ。そのこと自体は定性的に見れば一見正しいのだが、全体的な予算は減らされているので、嬉しいところは少なく、格差を生み、苦しくなるところが大部分になる。
また、いわゆる教育の無償化だが、高等教育については低所得者のみ、また成果が途中で評価され打ち切られることもある。そんな不安定な制度に応募しようとする者が多く出るとは思えない。打ち切られた人が就職しようとすれば、その事実が悪評価に繋がってしまい、かえって不利になるからだ。教育に恐怖を持ち込んでどうするのだろう。
また、企業からは、大学の基礎研究の弱体化を指摘されているが、これも当然だ。オープンイノベーションは基礎研究より応用研究の方が多いし、短期で成果を出しやすいから、そうなるのが自然だ。だから基礎研究にはそれなりの保護をすべきなのだが、その方針は何も打ち出されていない。
大学がベンチャー企業を立ち上げられる制度は既にできているが、その条件は厳しく、企業がオープンイノベーションをしたくなるような仕掛けは、あまり成されていると思えない。出会いの場たるJOIC、クロスアポイントメント制度、何れも上手くいっているように見えないし、そもそもカネを掛けていない。
また、そもそもオープンイノベーションをしたいと思うのは新事業のはずだが、ベンチャーの支援施策が何も見当たらない。
大きな方向性が「オープンイノベーションを推進すること」だとして、それが「優秀な事例の創出」のみにあるのであれば、この政策は正しい。しかしこれは研究の裾野を狭めることにもなっているので、長期的には間違っている。前者は短期的、後期は長期的な視点であり、これからすると政府の施策は短期に偏っている。
政府はあくまで①カネを出すか②法律や規則を作るか③啓発活動をするか、の何れかしかせず、自らは動かない。その前提で、どこにどんな「ツッコミ」を入れればオープンイノベーションが活性化するのかを考えてみれば、おのずと答えは出てくるはずだ。
これは非常に簡単な話で、そうしようとするところを優遇することである。単純には金銭面での優遇、即ち税優遇、補助金などと、制度上の優遇、つまり手続きの簡素化や法特区への誘導である。それも長期的な視点に沿っての優遇である。なお、この手続きの簡素化とは、制度自体への申請や成果報告も含む。即ち「カネは出すが口も出す」ではダメだ。
そしてもう一つ、裾野を広げることだ。この裾野とは即ち、大学への優遇である。授業料免除というよりは研究費の増額、基礎研究への適切な配分、成果の適切な評価だ。
前も書いた気がするが、ここに配分する予算が少な過ぎる。今の数倍という規模で投資すれば、必ず成果は出ると思うのだが。
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