2019年3月17日日曜日

ブロックチェーン遺書


遺書のデジタル化に関しては、意見は色々とあるものの、日本としてはまだ具体的な動きはない。遺書情報そのものに関しては動きがあるようだが、遺書そのものがデジタル化されるわけではない。

日本ほど遺書の運用が厳重でないところでは、この動きがあるようだ。遺書そのものというよりは、死をトリガーとしたスマートコントラクトで仮想通貨を送金する、といった応用が考えられているようだ。仕掛けとしては面白いが、法が絡んでいないために正式なものとは認めがたい。ここはやはり国が制定すべきであろう。

ブロックチェーンには欠点も色々あって、必ずしも未来の技術とは言い切れない。しかし、こと「遺書」に関しては適切だと考える。その理由は以下の通りだ。
  1. 遺書は、一生のうちそう何回も作り直すものではない。せいぜい数十回が上限であり、平均すれば数回というところだろう。分量だってせいぜい数枚から数十枚で納まる。また、人口も平均余命も大きくは変化しないから、データが増える速度は予測可能且つ大変動しない。ブロックチェーンの大きな欠点の一つである、「台帳の容量が永遠に増え続ける」「計算速度が遅い」といった問題は、問題にならない。
  2. 保管が重要であって、システムは大して複雑ではない。極端な話、PDFで保存すればよいだけだ。高度な計算を必要としない点は、ノードの単価に有利に働く。
  3. 改ざんの可能性は、ブロックチェーンへの参加者の信頼性で決定される。遺書であれば官庁自治体のチェーンにすべきだろうから、51%攻撃などということはあり得ない。
  4. 一方で通常のコンピュータシステムでは、クライアントサーバやバックアップ等、複雑なSIをしなければならない。同質のクライアントをインストールするだけでよいブロックチェーンは、システム構成上有利だ。特に自治体で構成すれば数千に分散するので、DR(ディジャスタリカバリ)は完璧だ。保守もほぼ必要ない。
ここで、遺書の性質を改めて考えてみる。病気が重くなって気が変わって云々、という時に、PCを立ち上げてパスワードを入れて、…といった操作を強要するような制度では人に優しくないと言える。紙に書いた自筆、署名入りの遺書が最後には有効である、という原則は外せないだろう。かといって、全部紙のままでスキャンするだけ、というのであれば、あましシステム化する意味が無い。

この折衷案として考えられるのは、次の通りだ。
  1. 紙による遺書とデジタル遺書の両方を認め、検認の手続きも行う前提とする。例えば、デジタル遺書と紙の遺書が両方発見されたとして、どちらが後に作られたものかをもって最終的に有効な遺書を決定する作業は残す。検認が完了した時点で、有効な遺書が決定するが、これが紙だった場合には、改めてその内容をスキャンし、デジタルで入力するものとする。
  2. デジタル遺書は、単純にマイナンバーポータルから入れば良いというものではなく、いわゆる遺言信託の一形態として設定する。
  3. デジタルにするからには、事前にその有効性は自動で確認しておきたい。抜け漏れ、無効になる、慰留が発生する全ての可能性は、作成時点で検証可能にする。もちろんそのための前提(相続人の特定や年齢、犯罪歴など)も入力が必要だ。
  4. 財産は、項目をいれておけばその時点での価値を自動計算できるようにしておく。例えば通帳の残高や土地の時価などだ。
  5. 死亡通知と共に、相続人への通知が行くように、全相続人のマイナンバーを設定しておく。このために、遺言信託の執行者にはマイナンバーへのアクセスを許可する。
  6. 次に、相続人全員の合意を得て、執行が一部修正される。最終結果がまたこのシステムに載るようにする。
  7. 執行の大部分がオンラインで行えるよう、デジタルになっているものはできるだけマイナンバーに繋げて執行する。
こんなところだろうか。こう書いてみると、まだまだアナログな部分は多く、人手も時間も掛かることが分かる。世の中はまだまだデジタル化の余地がある。

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