2017年12月22日金曜日
バグ取りAIミスマープル
システムが上手く動かない、だが原因が分からない。細分化しても切り分けられない。デバッガを掛けると正常に動くのに。エラーの意味が分からない。ログを見ても見当もつかない。こんなときにはベテランSEの登場だ。
長年大規模プログラムを開発してきたような開発会社には、神のようなPMやSEがいるものだ。たちまちとは言わずとも、若手には見当もつかないようなところを調べ、不可能に思えたバグ取りをやってのける。だがその本人とても、自分の知識・勘を明文化したり、弟子に教えたりすることはできない。自分でも体系だって説明できないからだ。
AIの本質は「暗黙知」である、というのが自説なのだが、システムのバグ取りにおける「勘」こそは正に暗黙知と言えるだろう。系統だって論理的に切り分けるような「形式知」とは違って説明不可能だが、結果的には迅速に答えにたどり着くような知恵があれば、それは立派な武器になる。問題はこの暗黙知が人に依存していることで、その人が退職してしまえば、あるいは休みのときには、対処できない。
今後、こういった「ベテランの暗黙知」はAIに溜めること、とする方針が出てくるかもしれない。ある程度経験を積めばそのベテランは不要になり、更に経験を積むことで会社の財産となる。そのAIだけが珍重され、人間は文字通りAIの手足としての価値しかなくなるわけだ。
だが、この知識をAIにどうやって覚えこませるかは難しい問題だ。ベテランがどこに注目するか、どのような操作をするかを把握するためには、四六時中ベテランにカメラを向けて動画を撮るしかないように思える。つまり、学習のタネはその動画になるわけだ。だが動画を直接深層学習機にブチ込めば終わり、というわけには当然いかない。何らかの前処理が必要だ。
バグ取りには、少なくともバグ発生状態のシステムの全状態(ソース、機器構成、時刻、データ等)、仕様書、バグの把握に関する全状態(報告書、画面、操作記録など)、そしてベテランがチェックしていった全情報(ログ、操作、修正・チェックのコード導入、機材接続など)、その結果(どの時点で分かったか、バグの原因は何か、直った結果)などが必要だが、どう処理したら良いものか検討もつかない。
ここで、ベテランSEに登場頂いた上で、どうすればAIにベテランの知恵を移植できるかを考えてみると、一つのアイデアを思いついた。それは、「ミス・マープル」になってもらうことだ。
本当はミスマープルはそれほどでもなかったようだが、要は「安楽椅子探偵」である。自らは動かず、全てを伝聞で訊き、また確認も全て自分でせずに部下に指示するのだ。実際にベテランにこれをしてもらうのはまどろっこしいとは思うが、ここは我慢してもらう。その報告と指示は全て音声を伴うことにしてもらう。こうすることで入出力がはっきりとデジタル化できる。
まあ、そこから先はやっぱり難しいのだけれども、意外と案ずるは何とかで、上手くいくかもしれない。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
注目の投稿:
ダイナミック租税とその指標
今の法律では、税率は一定の計算式で表されるが、そのパラメータは固定である。需要と供給のバランスによって商品の価格を変えるダイナミックプライシングというのがあるが、あれを租税にも適用してはどうかと考えてみた。 納税者の声をベースにして様々な租税や補助金を自動調節して、どこか一箇所...
人気の投稿:
-
ハクキンカイロの発熱原理を調べていて、これを防災用(キャンプ用でも良いのだが)の湯沸しに使えないかと考えた。 普通、キャンプではガスコンロを持っていく。だがあれは裸火を使うから、熱効率は悪い。これに対してハクキンカイロの仕掛けは、白金触媒を適切な場所に配することで、極...
-
科学者、医者等であっても発言が必ずしも科学的とは限らない。無自覚ならまだ可愛いが、むしろ素人を煙に巻く悪意すら感じることもある。 量的議論がそのひとつであることは言うまでもないが、もっと以前の問題として、論理が破綻していることの多さがある。 そのひとつとして、ス...
-
新型コロナウィルスへの対応で、医療機関の防護服やマスクが足りないことが話題だ。ゴーグルは違うが、その他は使い捨てであるところがネックになっている。作っても作っても、消費の方が激しい訳だ。しかし考えてみれば、そもそも何で使い捨てなんだろう。細菌兵器用の防護服は使い捨てではない...
-
ガートナーが出しているハイプサイクルによると、生成AIはまだ幻滅期の手前にいるらしい。つまり今後大きな幻滅を経て実用域に進んでいくことになる。その幻滅とは、人間なら当たり前にできることでまだ生成AIにできないことが多く分かってくることによる。そしてその幻滅期を乗り越えるのは、...
-
時代が進むことで、昔のSFが奇異に思えるようなことはよくある。抑揚のないコンピュータ音声や、わざとぎこちなく歩く人間型ロボットなどは、もはや過去の遺物である。スタートレックシリーズに出てくるトリコーダーもその一つだ。 トリコーダー本体、また医療用プローブを手に持って...
-
生成AIを使って作成されたイラストに対する極端な非難が相次いでいる。そのどれもが、ちょっと行き過ぎに思える。例えば、事前にAIであることを知らせているもの、絵を描いている本人が確認し承諾したものまでも非難されている。なぜこんなに過剰な反応をするのだろう。単にノイジーマイノリティの...
-
卓上カレンダーのようなものを机に置いておいて、必要に応じてテレビ電話やフォトフレーム、緊急通報など、家で必要とされる様々な機能を集約する機械を考えてみる。 これは、従来は電話やFAXのような位置づけだったものだ。これら以外にも一家に一台の情報機器は考えられるので、それを切り替え...
-
コロナ禍ではあまり本ブログを更新しなかったが、この間は陰謀論が跋扈した時期でもあった。コロナは存在しない、ワクチンは危険、アビガン買いだめ、マスクは意味がないなど、実に様々な陰謀論が飛び交った。 この手の人は今だに存在しており、体感としてはむしろ増えている。それも、身の危険を...
-
自分の知る限りでは、VRChatのワールドで青空文庫が読める図書館があったのと、N高の教室メタバースくらいしかマトモな例がないのが、メタバース内で本を読む方法だ。本や書類がメタバース内で苦も無く読めるようになれば、電子書籍も含めて全部メタバース内に落としてしまいたい、とすら思っ...
-
映画と言えば、今でも娯楽のジャンルの一つとして確立したものではあるが、近年では衰退の兆しがある。そのたびに3DやCGなどのテコ入れが入ってきたわけであるが、ここにきて更に新しい提案ができるようになった。それがタイトルにあるインタラクティブ性の導入である。 とは言っても、...
0 件のコメント:
コメントを投稿