2018年9月19日水曜日
怒りの融点
沸点ではなく融点である。今のブラック企業の蔓延の一因、忖度しすぎる官庁などの原因のひとつはここにあるのではないか、と思うのだ。
動くまで帰れないSE秘話なんてものを読んでいて思ったのは、実務者が正しく怒っていない、というところだ。随分前の記事だが、サーバ室に閉じ込められて、直るまで出るなと指示され、トイレにも行けず困ったという話があったのだが、こんなことに従う方がどうかしている。正しく怒り、この程度のことは自前で解決すべきだ、というのが正常な思考だろう。
別に正義の味方ではないのだから、どこまでも正義を貫く必要はない。しかしこの程度のことを我慢するのはおかしいし、指示する方も非常識だ。しかし実際にはそれが起こっている。
規則を守るのは日本人の美徳だが、理不尽な規則(上長の命令も含め)には正しい融点で怒らないといけない。ここで怒っておけば、それより上位の理不尽であっても、その「理不尽度」は一定に抑えられるはずだ。しかしここで我慢してしまうと、その上の理不尽度は更に増していく。
件の話では、結局、それで精神を病んだSEが出てくるような事態になってしまうわけだが、元々の「トイレに行くな」に対して「ふざけるな」と正しく反論できていれば、彼も病むことはなかっただろう。その方が結局、不具合も早く解決できたに違いない。
沸点ではなく融点だ、と書いたのはここだ。我慢の限界まで耐えるのではなく、適当なところで小さく怒っておけば、そもそも沸点にまでたどり着くことはないのだ。これは結局、コミュニケーションスキルの問題ではないのだろうか。
「いや、そうは言っても」というのはもちろんその通りだが、上の例では上長が顧客を気遣ってそんなバカな指令を出した。そもそもそこで顧客を必要以上に気遣うこと自体、同じ問題と言えないだろうか。顧客が「直るまで出るな」と言われても、「でも食事とトイレは必要です」と正しく反論すべきだったし、言われていなければそんな忖度はすべきではなかった。
こういう事態が起こるのは、融点たる怒りを上長が正しく受け止める器量の無さ故である。左遷する、虐げる、等という、いわば報復手段を上長は常に持っているが、その怒りが正しいものなのかわがままなのかを見極め、前者に対してはきちんと受け止める、という技量だ。
適切なレベルで適切に怒る、怒られたときに冷静に受け止めて反省し判断する、というのは、社会的に必要なスキルだ。日本全国でこれが起きているのなら、日本全国にこの技量が無くなってきているということになる。
世の中は、我慢して我慢して最後にぶち切れる勧善懲悪もののテレビとは違う。一かゼロかしか怒りのレベルがない、というのは、大人として大いに恥ずかしいことなのだが。いったいどこで歯車が狂ってしまったのだろうか。
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