2017年6月28日水曜日
他言語を学ばなくてもいい日は来るか
「「他言語を学ばなくてもいい日」は来ない。言語と機械翻訳を改めて考えてみる | 人間編」
「同|アルゴリズム偏」
機械翻訳ではなく人間による翻訳の話ではあるが、以前似たような意見を聞いたことがある。意見に至る個別の説明には概ね賛同するが、そのときも今回も、「それって程度問題では?」と思った。以前の「AI寿司職人は美味い寿司を握れるか」とはまた違った違和感だ。
その中身を読んでみると、結局は「お互いの文化を理解していないと完璧な翻訳はできない」ということになるのだけれど、それは「自国語においてさえも不可能」との記述がある。これでは「完璧ではない、だからダメ」つまり程度問題(量的議論)ができない状態になってしまっている。命題をそんな極端なところに定義しておいて「来ない」と言われても、そりゃあ当たり前でしょ、となる。
そもそも翻訳とは、相手の言語を知らないから必要になるものだが、(自分と)相手の文化だけは完璧に知っていて言語は知らない人、なんて人はいない。当然ながら文化も知らないだろう、という前提で、その文化の違いを翻訳に的確に反映することがどれだけできるか、が焦点になるべきだ。
文化の微妙な違いをシビアに伝える必要がある場面とは、恐らくは芸術や文学だろう。映画なども含まれるかもしれない。そこでダルい翻訳をされると、更にそれが重要な場面だったりすると、全体への印象も変わってしまう可能性がある。それは分かる。
だが、その場面は、全体の分量からすればごく僅かだ。そしてその違い自体も無限に存在するものではない。また、人間が学習することが可能なら、機械が学習できない理由はない。機械翻訳のレベルは上がっていき、不足する部分やその不足度合いは日々減っていく。それのレベル向上が止まる理由はない。
これにはもう一つの視点がある。お互いの言語(文化)を「学ぶ」とは言っても、その知識程度には当然段階も限度もある。機械が完璧ではないとは言っても、その人にとって自分より機械の方が知識程度が高ければ、そしてその人より機械の方が学習速度が速ければ、その人にとって「学ぶ」意味はないことになる。そして「その人」(多くは職業翻訳家だろうが)の大部分を機械が超えてしまえば、学ぶ必要のない人は殆ど全て、となることになる。
更に指摘しておきたいのは、一定以上の翻訳の質を越えることができれば、そういった微妙なニュアンスについて、人間同士が翻訳を通じて、あるいは人間とAIが、議論できるようになるだろう、ということだ。それは、翻訳者が外国の文化を理解する過程で経験することと同じことであって、筆者の指摘する(微妙な)「文化の違い」そのものである。そしてその議論をすること自体が機械学習を更に鍛え、結果に反映できることになる。
これは結局、「機械翻訳が人間の翻訳を超える日は来るか」という命題に置き換えられるべきものではないだろうか。こう考えれば、既に一部において機械翻訳は人間の翻訳を超えた。「量」「スピード」という観点で、だ。質についても上の通り、いつか越える日は来る、しかも人間の翻訳を遥かに超えることすらあり得る、と考える。
確かに、趣味でそうする人や言語学者の人数がゼロになる日が来るとは思わないが、大部分の人にとって必要ないならば、その日は「来る」と言っても差し支えないのでは、と思う。
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