2017年3月20日月曜日

人間はシミュレーション社会で生きている


イーロン・マスク氏が代表的な信奉者のようで、SFでもたびたびそのモチーフが出てくる。マスク氏の場合は確率まで算出しているようだが、どうもその根拠は定かではない。
さて、自分はどうかというと、信じていない。だが信じるに足りない、という意味ではない。もしそうであったとしても、自分の生き方に変わりはないからだ。
この世界がシミュレーションかどうかが自分の生き方に関わる可能性としては、次のようなものがある。まず①そのことを(否定含め)証明しようとしたり、証拠を掴もうとする行為をする。②更には実社会(シミュレーションの外)に出ようと画策する。③もっと緩く、ただ考えるだけ(楽しんだり悲観したりするため)。
スタートレック・ネクストジェネレーション(TNG)のエピソードに、モリアーティ教授(シャーロック・ホームズのライバル)が登場するエピソードがある。彼はホログラムなのだが、その天才的な頭脳で、自分がホログラムであることを自覚し、外の世界を知り、何と親たるエンタープライズ号を乗っ取ってしまう。そしてホログラムから出て、実社会に飛び出すことを要求する。上の②に当たる行為だ。
このエピソードの結末は、教授はホログラムの外に出てシャトルを奪い、宇宙に飛び出す。だが実は艦長が騙してホログラムの中でそう思い込ませた、というものだった。結局は外に出ることはできなかったわけだが、この試みが成功する可能性はあった。例えばアンドロイドを用意して、その人工知能に記憶を移すようなことができれば、シミュレーション社会から飛び出して実世界で自由に動き回れたはずだ。
さて、モリアーティ教授は、どうして自分の世界がシミュレーションだと気付いたのだろう。それは、ホロデッキ内に現れる「アーチ」と呼ばれる機器の存在を知られたからだ。アーチは、ホロデッキ内で自由に出現させられ、外部との通信やホログラムの設定に用いられるものだ。だから本来、シミュレーションたるホログラムの人間は、アーチを認識できないようになっている。だが乗員がプログラム設定を変えたことにより、モリアーティ教授にその権限が与えられてしまった、という訳だ。
逆に言えば、シミュレーションをしている側(便宜上「神」と呼ばせて頂く)が何らかのミス(ないしは意図的な操作)をしなければ、シミュレーションされている側がそのことに気付いたり、その内容を操作したりすることはできない。もしそれが意図的なものでなけば「バグ」だろうが、そのバグを自ら探すことは困難至極だろう。
人類は何十億もいるわけだから、もしかしたらそこに気づいたり、特別な権限を与えられた者もいるかも知れない。しかし常識的に考えて、その確率は宝くじよりも遥かに低いはずだ。自ら探すにしても、何をすればよいのか分からない。物理の法則の矛盾を見つけるとか、UFOを調べるとか、そんなものだろう。日常にそのきっかけが溢れているとは思えない。少なくとも、今の人間が作り出した最高のプログラムのバグ出しを一人で行うよりは難しいこと請け合いである。
要は、ます②をやるためには①が必要であり、①は「神」に選ばれるか、「神」の作りたもうたシミュレーションのバグを探し出すしか方法はなく、その確率は天文学的に低い、ということだ。宝くじならまだ夢もあるが、もしこの結果を導き出せたとしても幸せになるかどうかは分からない。本物の自分が動物実験の猿よりも惨めな存在だとして、そこから出られたとしてもやはり周りは人間だけであり、猿が一人で何ができるというのか。
本当にこの世はシミュレーションなのかも知れない。だが、自分が幸せであるためには、③より先には進まないのが賢明と言える。

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