2017年3月21日火曜日

超小型核爆発炉


原発の問題の多くは、放射性廃棄物と制御(暴走の抑止)の問題に帰結する。一方で原子爆弾の問題は前者だけだ。ここで「極小規模の核爆発を連続して行うことができれば制御の問題はないのでは?」と考えるのは自然なことだ。
ここで技術的な解説をする。まず、放射性崩壊と核分裂の違いに理解が必要だ。放射性崩壊は多くの場合原子番号が殆ど変わらないが、核分裂では大胆に(例えば半分に)変わる。滲み出るのが前者、パカッと割れるのが後者だ。放射性崩壊は自然に発生するが、核分裂の場合は(多くの場合)中性子を当ててやらないと起こらない。中には自発的に核分裂をする物質も存在するが、核燃料においては極微量しか含まれない。
次は臨界だ。原発でも核爆弾でも「臨界」を発生させる必要があるが、臨界には二種類ある。遅発性臨界と即発性臨界だ。遅発臨界とは、臨界を維持するために放射性崩壊による中性子が必要な状態を意味している。一方で即発性臨界は、核分裂に伴う中性子のみで臨界を維持できる状態を意味する。ここで、放射性崩壊による中性子(遅発中性子)の量は、人間の感知できる時間(数分~数時間)で増えるので、制御可能である。一方で即発性臨界はピコ秒オーダーで鼠算的に進むので制御できない。
つまり、原発は遅発臨界を使っており、原爆は即発臨界を使っているわけだ。原発の燃料は、後者は起きないように設計されているが、熱暴走が長時間続いた場合はそれも確実とは言えない。自発的核分裂をするプルトニウム240が内部で生成されてしまうからだ。
次に、「核爆発」についても正確な理解が必要である。遅発臨界は爆発ではないし、即発臨界と核爆発も厳密には異なる。核爆発は即発臨界に伴う爆発現象だが、この爆発とは単純に言えば気体の膨張である。周りの空気や水、また核物質自体が自身の高熱によって溶けて蒸発して気体になり、更に臨界の熱で気体の温度が急激に上がり、急激に体積が増す。これが爆発だ。だから、もし充分に速く、十分に大量に、即発臨界の熱を吸収できれば、あるいは臨界が充分に小規模ならば、爆発は起きない。
核爆弾が爆発した後は大量の放射性物質がばら撒かれるが、これは「爆発」によって未反応の核物質が飛散することが原因である。飛散することで充分な熱や中性子を得ることができず、核分裂の機会を失ってしまうのだ。もし放射性物質が飛散しなければ、熱と圧力と中性子は無駄なく放射性物質に降り注ぎ、効率よく核分裂を起こすことができる。
つまり、充分に少量の核燃料を、一箇所に閉じ込め、最初から即発臨界だけを狙って設計し、更に充分に熱吸収をしてやることができれば、爆発せずに即発臨界を起こして熱を回収することができる。使用後は燃え尽きてしまうから、放射性はほぼ失っており、処理なり再利用なり、次の工程に「灰」を持っていくのも簡単になる。もし完全に燃え尽きなくても、従来に比べ廃棄物の量はずっと少なくなるはずだし、再利用するにしても小さいので扱いは簡単になる。
即発臨界を引き起こすには、高いウラン濃度と高圧が必要になる。だが即発臨界には物理的な限界があり、どこまでも小さくできるわけではない。核爆弾を前提とした場合、プルトニウムで1kg、高濃縮ウランで3kgが最小という情報があるが、これは「爆縮」と呼ばれる技法を使った場合である。現在はもっと高圧を出せる技術があり、それはズバリ「レーザー圧縮」だ。レーザー圧縮は核融合に使われる技術だが、核分裂の場合はこれよりずっと弱い出力で良い。その分、技術的には楽なはずだ。
レーザーが交差する空間を作っておき、ここに燃料球を投下する。レーザーが照射された燃料球は急激に温度が上昇し、表面から蒸発するが、それが非常に急激であるため、また球状の物質の周囲が均等に熱せられるため、その膨張力は球体の外側と同時に内側にも向かい、球体内部の圧力が急上昇する。これで核分裂が誘発される。核物質は充分に小さいので、照射の瞬間に殆ど全ての物質が臨界に達し、高熱を出して燃え尽きる。
レーザーは透明な物質を透過するから、核物質は透明な円筒を通って上から落ちるようにしておき、レーザーは円筒の外側から当ててやる。爆発の衝撃に耐えられないようなら、透明ではない物質で作っておいて、斜め上からレーザーを当て、爆発が下方向になるようにしてやる。下方向の空間を広げておけば衝撃を吸収できる。
また、円筒の周囲は水で満たしておく。この水は高圧にして気化を防いでおき、温度が上がったらパイプで誘導して低圧にすると、そこで蒸発する。この蒸気でタービンを廻す。核物質の量に対して熱吸収量と容器のサイズが充分大きければ、圧力変動で容器が破壊されることはない。
この方法の他の利点は、核物質を選ばないことだ。燃えにくい燃料でも、レーザーの出力と燃料球の設計次第で燃やすことができる。燃え残った核物質を再利用することもできる。また、原理的に暴走の危険がないし、放射線が漏れる量にも上限がある。
問題なのは、どれだけ小さく燃料球を作ることができるか、この一点である。こればかりは計算してみないと分からない。専門家のご意見を乞う。

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