2017年7月14日金曜日

車は諸悪の根源


そういう本があるそうで、少し齧ってみたら面白かった。特にエネルギー消費の観点で見ると、自分が別に試算していた結果と合う点があって興味深い。

エネルギー効率の点から見て、燃料を使うエンジン、つまりガソリンエンジンやディーゼルエンジン、ジェットエンジンなどというのは極めてリーズナブルなものなのだが、同時に大量のエネルギーを消費するものでもある。というのは、人間が生活するにあたって必要な衣食住の殆どは太陽エネルギーの賜物だが、そのエネルギーに比べて「移動」のエネルギーというのは物凄く大きいのである。

成人が一日に必要なエネルギー量をざっと2500kcalとすると、1 cal = 4.184 Jであるので、10.5MJ。一方でガソリンの発熱量は47.3MJ/kgであり、また比重は0.74(kg/L)であるので、リットル当たりで言うとその発熱量は64MJ/L。つまり(単純換算ではあるが)人は一日コップ一杯程度(164ml)のガソリンを飲めば生きていけることになる。そのコップ一杯で、燃費15km/Lの車なら2.5kmしか走れない。これは、人なら歩きで1時間、ジョギングで20分もあれば到達できる距離だ。

車は人と比べて非常に重いから、いくら燃料効率が良くても、人単独の移動に比べて遥かに効率が悪い。つまり、人の移動と共に車も移動するが、車の移動自体には意味がない(目的は人の移動なのだから)、しかも車の方が遥かに重いので、燃料の殆どは車の移動に費やされてしまう。これがその理屈だ。

これは化石燃料の枯渇という視点以外にも、太陽エネルギーの収支、あるいは持続性という点でも大きくマイナスである。つまり人類は、過去に万年単位で蓄積された太陽エネルギーを、新たに得られる分を大幅に凌駕して、百年単位で消費しているわけだ。「このまま後X年で石油が枯渇する」類の問題は、何十年も言われてきたわけであるが、新油田の発見や採掘技術の向上で都度延命され、今更感も出てきている。しかし、こういった視点から見ればやはり有効だ。

太陽エネルギーの収支から考えると分からなくなるので、間接的に二酸化炭素収支で考えるなら、現在の石油消費量は概ね半分にすべきである。それも、代替として他の化石燃料を使ってはならない。このうち、工業生産に使うものはごく僅かで、殆どは燃料として使われている。その二大用途は、移動と発電だ。2012年の世界の石油消費量は42億500万トンだそうだ。つまり、大雑把に年間20億トンの削減が必要ということになる。

移動に関して言うと、この問題の解決方法は三つしかない。①圧倒的に軽い(燃費の良い)車を作る、②(車での)移動を極端に減らす、③石油以外のエネルギーを使う、だ。

①の「圧倒的」は、目安として半分になる。②も概ね半分だ。①②を同時に行うなら、合わせ技でよいので各々のハードルはその分下がる。③は自然エネルギーか原子力だが、これは事実上困難だろう。むしろ発電所をそのように作って車は電気自動車にする、などの方が現実的だ。

例えば②に関し、人口の都市集中というのは考えられることだ。①はコミューターや電車が考えられる。3Dプリンタによる現地生産や、植物工場による現地栽培なども、これに含まれるだろう。だが、便利になればそれだけ贅沢をしてしまうのが人間だから、そう簡単にはいかない。

既存の交通機関で、最も、しかも極端に燃費がよいのは電車だ。乗員当たりで行くと5~10倍の差がある。だが勿論、電車は線路があるからこそ高効率なのだし、乗客数もそこそこ必要であるので、車のような自由度のあるものの代替にはならない。電気自動車ならどうかといってもそんなに変わらない。電車が根本的に自動車と違うのは、エネルギーが架線から供給されるため、大きく重いバッテリーがいらないからだ。

これより、①に関しては一つのアイデアが出てくる。電気自動車の重量の大部分を占めるのはバッテリとモーターだが、道路から電力供給ができればバッテリが要らなくなる。また、自動車のモーターを軽くするためには馬力を少なくすれば良いのだが、このためには急加速をしない、急な坂を上らない、という前提があればよい。つまり、坂が緩く電力の供給が可能な道路があればよい。

これにうってつけの道路がある。高速道路だ。高速道路には規格があり、坂の角度には上限がある。バッテリを減らすことで車重が軽くなれば、同じ加速度でもモーターの出力を減らすことができる。問題は電力供給だけだが、高速道路限定の車にすれば問題ない。つまり、道路の全面に渡って、例えば1kmおきに走行中無線給電ができるエリアを作っておき、その間は専用の車で移動するようにすれば、この問題は解決する。

これを実現するためには、高速道路の入口と出口で車を乗り換える必要があるが、当然入口の車は乗り捨てになり、出口の車はその車とは別になるから、車を個人で持つ場合は使えない。だから、経路の全ての車はレンタルないしはカーシェアになる。それも、ちゃんと遅滞なく繋がる保証がないと乗り辛いだろう。だから社会がそこまで充実して初めて実用になる。

ただ、トラックの場合は運送会社で閉じてやれば同じことができるから、先に物流でインフラ整備を進め、整ったところで一般に開放する、という手段は使えるだろう。

また、①のカーシェアについて、乗り合いバスを併用してやる。入口と出口が同じ人同士が一台の車をシェアすることで、行き交う車の数を減らすことができる。荷物の場合は混載が同じ効果を生む。また、空のトラックが帰ってくるということは避けられないが、その際のエネルギー効率も良いため、エネルギー節約に貢献する。

だが、②をやらないとかえって物流人流が増えてしまうかもしれない。コストが下がるからだ。だから技術的には①をやるにしても、政策的には②を進めるべきだ。これについては以前も議論しているので省略する。

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