80年近く飲まず食わず インド苦行者 医師らを仰天させる
もちろん胡散臭い類の話であり、完全に信じているわけではないが、もしこれが事実だとしたらどういった原理になっているのだろう。それを考えるのは面白い。
指摘の多くは、エネルギー保存の法則に反することと水の問題だと思う。曰く、
- 動くこと、体温を維持することにエネルギーが消費されるので、どこからか同等のエネルギーが供給されなければおかしい。
- 体表から水分が蒸発するので、その分の水の補給がなされなければおかしい。
まず、水から考えてみる。排泄がないとすると、体から出て行く水分は、体表からの蒸散及び呼気に含まれる水蒸気だ。
http://mizuiku.suntory.jp/kids/study/n005.html
によると、皮膚からの蒸発で600ml、呼吸で400mlが出ていく、となっている(汗は含まない)。 ここで単純に考えると、どこかで1000mlの補充が必要になるはずだ。次にエネルギーだが、成人男性で2000kcalとして、このエネルギーの補充が必要になる。
この問題を考えるに、方向性は二つある。一つは、それらの必要量を、この人の外部的観察事象から合理的である範囲で減らすこと。もう一つは、それでもゼロにはならないだろうから、通常とは異なる方法で補給しているはずだ。それが何かを推測することである。
まず、この人は食事はしないので、消化器は機能していないと考えられる。かつてはもちろん使っていただろうが、退化しているだろう。すると、この分のエネルギーは不要であるはずだ。一方で、呼吸、筋肉、体液循環はサボれない。
また、呼気や皮膚からの水の蒸散は、体温を低下させる効果がある。汗も含め、体内で熱を作り、体表や呼気で冷やすことで体温を保っているわけだ。だが、もし体内の熱生産が極めて合理的なら、その熱生産は僅かであり、即ち気温と体温との差に毛が生えた程度のものであるかもしれない。場所がインドであれば相応に暑いだろうから、その差は小さいはずだ。となれば体表や呼気からの発散も少なくてよいことになる。
この二つから、成人男性で必要なカロリー2000kcalを、半分程度に見積もることはできるだろう。
多く出ている仮説の中に、体表から空気中の水分を取り込めるのではないか、というものがある。だが、空気中から1000mlないしはそれに近い量を取り込むのは不可能だ。一日中大風の中にいる必要がある。また記事にないものに、水浴びや風呂についてどうしているか、がある。つまり、風呂に入る時に体表から水分を吸収する、あるいは尻の穴から水を吸い込むということも考えられる。一日の必要量が(皮膚からの蒸散が少ないと仮定して)数100mlで済むのなら、このどちらかないしは両方を使って水を補充することは十分に可能だ。
問題はやはりエネルギーである。考え方は三通りあり、まず食べ物以外のエネルギーを吸収しているのではないか、というもの。次は、通常の食べ物ではないものを実は食べているのではないか、というもの。三つ目は、体内で作り出しているのではないか、というものだ。
第一の候補は太陽、風、空気熱、電磁波、などだが、このうち1000kCal程度のエネルギーを持ちうるのは太陽だけだ。しかし実験では病院に入院していたというから、それほど直射日光を浴びているわけではないだろう。
第二の候補は土、昆虫(飛翔しているものなど)、空気中のゴミ(カビ粒子やフケの類)、などが考えられるが、これも入院の事実と合わないし、もしあったとしても相当の量が必要なので考えにくい。となると、第三の考えしかない。また、体内の元素レベルの収支で考えてみても、これは辻褄が合う。これを少し説明しておく。
例えば呼吸は、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すわけだが、これはつまり炭素が体内から出て行くことを意味する。炭素が体内から出て行っては収支が合わない。この収支を合わせるには、動脈と静脈の成分変化を考える必要がある。
ここには、大きくは三つの器官が絡んでいる。肺、腎臓、腸だ。食べ物の栄養を腸が吸収して血液に取り込み、これが細胞で消費(化学変化)されて老廃物が腎臓で漉されて小便になる一方、炭素は肺を通じて呼吸として排泄される。この人は排尿排便をしないので、老廃物は全て何らかの還元を受けていることになる。
体内の代謝はあまりに複雑で、個別に追いかけるのは不可能に近い。だが、元素レベルでの収支を考えるなら、老廃物として小便の尿素やアンモニアと呼吸の二酸化炭素を分解できれば、かなりの説明が可能になる。
体に必要な栄養素は多数あれど、その殆どは酸素、水素、炭素、窒素の組み合わせだ。つまり、ある組み合わせで入ってきたものを別の組み合わせにして出しているだけで、元素の総量で見れば変わらない。だから、体から出て行く組み合わせを体に入っていく組み合わせに変化させられれば、何も出て行くものはなく、体を維持できる。そしてこれを担ってきたのは、植物や微生物などを含め、他の生物の役割だったわけだ。つまり、そのための「回路」は自然界に既に存在している。
だから、その回路が体内にあれば、少なくとも元素レベルでの収支は合うわけだ。だがその「回路」を動かすにはエネルギーが必要で、その代表は太陽光だ。回路は当然光合成回路である。
先ほど、太陽光は望み薄だと言った。だが、回路が光合成回路でなければ別のエネルギー形態でも問題ないはずだ。そこで他の可能性を考えてみると、「質量変換」という奥の手を思いついた。
E=mc2 、という式を見たことがあるだろう。物質からエネルギーを直接取り出すことができるなら、ごく少量の物質でも充分だ。質量 1 kg をエネルギーに変換するとおおよそ9×1016 Jと等価、1J=0.239calということだから、100ngで2000kcalになる。この程度体重が減っても誰も気付くまい。
ということで、結論。この人は、
- シャワーや風呂などの際に、皮膚ないしは尻の穴から、1日1リットル程度の水を吸収している。
- 体内に質量変換回路を持ち、細胞老廃物を全てそのエネルギーで再生している。
- 実は呼吸はしているが二酸化炭素は吐き出していない。
無論、冗談である。
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