2017年7月6日木曜日

バニラ・エア問題


なぜ声をあげた障害者がバッシングを受けるのか?バニラ・エア問題、本当の争点はどこにある

ニュースへのリンクは何れ消えてしまうだろうから概略を復習しておくと、2017/6/5、奄美大島から関西空港へ向かうバニラ・エアの飛行機に車椅子の男性が乗ろうとしたところ、空港職員に止められた、という話だ。男性は自力で(手を使って)乗ることを強制された。同行者もいたのだが、手伝うことを許されなかった。

記事そのものに特段不具合はなく、またバニラ・エアのその後の対応(謝罪し対策を講じた)にも問題はないと思うのだが、2chなどでこの車いすの男性を非難する声が非常に気になった。

実際に見てみると、非難9割、擁護1割という感じで、殆どが非難だった。曰く、
  1. 他に対応のよい(ANAやJALなど)を選ぶ自由があった
  2. LCCはサービスを削っている代わりに安いのだから当然
  3. バニラ・エアは事前連絡を求めているのにしなかった(からダメ)
  4. 障害を特権と思っている、思いやりを権利と勘違いしている
  5. 障害者のために金・手間が掛かる(のが迷惑)
  6. 他のところでも同様のクレームをしている(だからクレーマー)
これに「反吐が出る」「馬鹿」「アホ」「テロリスト」「ヤクザ」「プロ障害者」「付け上がり」「当たり屋」「クレーマー」などの誹謗中傷用語が付いてくる。こういう輩が一定数出てくるのはしょうがないと思っていたのだが、今回は中身がマトモなのにその殆どが誹謗中傷だった、というところが相当にショックだった。

ここまで一方的だとまともな議論もできない。従って2chの議論に参戦しようとは思わないが、(たとえ本人が本物のクレーマーだったとしても)バニラ・エアの最初の対応は間違っており、後の対応は正しかった。クレーム自体にも問題はない。よって、本人が批判される言われはない。バニラ・エアに関しても、後の対応に関して(行き過ぎ、障害者に媚び過ぎ、などの)批判があるとすれば、やはり間違いである。

公共の乗り物は全て、障害者に対する相応の配慮が必要で、これは義務であって親切の類ではない。それは法で定められているもので、LCCかどうかは関係ない。一方で事前連絡は、その上での義務とは認められない。これだけで上の1~5の内容は全て間違っている、と断言できる。

まあギリギリ、「特権」という気持ちは分からなくもない。だがその特権なるものもやはり法で定められたものであって、文句を言うなら自分(その法を制定した国会議員らを選挙で選んだ国民自身)に言うべきだ。障害者に対して、ではない。

自分の読んだ範囲では、ここまでを知った(知っていることを示した)上で誹謗中傷している文章はなかった。(今後調べたとしてもごく少数だろう。) 当然、その事実を踏まえた上での反論もなかった。つまり、今回見かけた9割の誹謗中傷者は、この事実を知らないか、知っていたとしても無視して発言していたことになる。

障害者に限らず、日本には様々な弱者保護の仕掛けがある。生活保護、年金、様々な控除・補助金、健康保険などの金銭的なもの。バリアフリーやユニバーサルデザインに関する法整備(地方自治体のものも含め)。盲導犬など介助犬の差別禁止。人種差別やヘイトスピーチなどへの規制。同和問題(出身地差別の禁止)、機微な個人情報の取得制限、就職差別の禁止。郵便配達は全国くまなく義務付けられているし、店舗への入店拒否にも一定の制限がある。他にもまだ色々あるだろう。

特に、差別の禁止に関する様々な法がなぜ整備されているのかというと、放っておけばそれらが容易に復活してしまうからだ。つまり人の自然な感情は、(今回の誹謗中傷者のように)差別をしたがるものなのだ。それを是正するには、一方では法整備があるが、もう一方では教育が必要になる。これは一応学校の道徳で習うけれども、それでは全く不足であり、親や社会から学ばなければならない。

こういう誹謗中傷が多くなっているということは、それら(広い意味での教育)が弱体化していることを意味する。学校の教育が大きく変わっているとは思わないし、自分の経験上、社会から学ぶ量の方が遥かに多かったから、社会全体のモラルの低下の影響の方が大きいのだろう。

そもそも論(なぜ差別がいけないのか、その(補助の)程度はどの程度が適切であるべきか)についてはここでは触れないが、この手の社会モラルにも当然成熟度があって、時代とともに向上してきた。だが、今までは一方的にどんどん(遅々として、かもしれないが)良くなっていくだけだと思っていたところ、ここ十年ほど(つまり景気の停滞に合わせて)低下しているように感じる。

所詮、差別は社会の余裕度と逆相関する程度のものであって、人類の英知とか精神性の高尚さとかとは関係ない、社会というものも退行するポテンシャルを秘めているのだなあ、と、一人嘆く次第である。

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