2017年10月5日木曜日
ご隠居AIとお局AI
AIの本質は暗黙知であると考える。他にも分類や認識というカテゴリがあるものの、根本は暗黙知であり、これらはその派生であるという認識だ。しかし、従来の技術と異なるところが二つあり、ひとつはそれが形式知化されるのではなく、暗黙知のまま明示される、という点だ。つまり「なぜそうなるのか」は分からない。もう一つはその量が膨大になる可能性があるということ。
これらを合わせると、人が理解(説明)できない、認識できない、管理し切れない量の知識がある、ということになる。そのように設計しない限り、その暗黙知で従来の仕事を自動化するということはもちろんないのだが、そうすることは簡単だ。組織が膨大になって個々の判断が甘くなれば、全体として一体何をやっているのか分からないまま仕事が進む、というようなことも起こり得る。
ここでこんな場面を考えてみる。一人の巨大な、その組織についてのことなら何でも知っているAIが居るとする。これを仮に「ご隠居」と呼ぶことにしよう。ご隠居は何でも知っているが、隠居の身なので経営に口出しをすることはない。だが経営幹部が相談に来れば、その望みをかなえる方法を教えてくれる。
その組織のA部の部長が、ご隠居に相談に来る。自分の部署の業績を最大化したいのだが、どうしたらよいか、と。ご隠居は答える。部長はその通りにすると確かにA部の業績は伸びた。だがB部、C部、D部の業績が落ち、会社全体としての業績は落ちてしまった。
そこで社長は、全体の業績を最大化することをご隠居に相談する。その答は、A部を潰すことだった。さすがにそれはできない、それをしない条件で、と問い直す。するとご隠居は、ではC部とD部の部長をクビにせよ、と言う。いやそれは、いやそれは、と色々条件を積み重ねていくと、結局何も変えないのが最適、という答になってしまった。
実は、どこかの条件を緩めれば業務を改善することは可能なのかもしれないが、それは何なのかはご隠居には分からない。それには二つの理由があり、一つは暗黙知だから、もう一つは条件の組み合わせが無限大だからだ。例えば人を何人雇うか、給料を幾らにするか、事業領域をどの程度拡大するか、どんなシステムを導入するか、などといった、普通の経営者が考えそうなことの組み合わせは、既に充分すぎる複雑さを持っている。問題空間が広すぎるのだ。
そこで、もう一つの「条件設定AI」が必要になってくる。これを「お局様」と呼ぶことにする。こちらは、経営者が妥当と思える条件の組み合わせを考えてくれるものだ。例えばA部を潰すのとC・D部の部長をクビにするは、経営陣にとってどの程度「マズい」ことなのか、といった情報を積み重ねていくものだ。つまり条件を絶対的なものとせず、どの程度その条件が厳しいのかをアナログ的に見極めていくものだ。
これにより、A部を潰すのはダメでも、新事業参入を条件にして2分割するだけならOK、今年は業績が下がっても、5年後までの平均で勝ればOK、といったような、より細かい条件を設定することができる。
こちらも暗黙知ではあるが、問題空間の大きさはずっと減ってくる。この二つを突き合わせることで、望ましい条件下で最適な伸びを出すことができる、というわけだ。
ご隠居AIは、いわゆるBIデータから自動的に構築できるはずだ。だがお局AIは、幹部へのインタビューが基本になるので、新たなデータ積み上げが必要であり、時代によっても変わるので、継続的な入力が必要だ。また、突き合わせも単純結合とは行かず、量子コンピュータのような突き合わせ方が必要になるかも知れない。
この考え方からすると、ご隠居AIの構築は簡単で、お局AIの方がむしろ難しいことになる。もしそうなら、これは業務知識ないしは顧客知識として、ベンダのコンピタンスになるかもしれない。
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