2017年10月19日木曜日

安室奈美恵の科学


先日、同氏が引退を発表した。世間はかなり騒いでいるようだ。自分もびっくりした。

氏が尊敬に値するところは、一流のダンスを踊りながらも口パクなしで歌い続けるところだ。これだけできる人は日本では恐らく氏くらいだろうし、世界中で考えても思い当たらない。

これを科学的に考えると、実は物凄いことなのではないかと考えている。

激しいダンスは、100m全力疾走とは言わないまでも、中距離走くらいの負荷は掛かっているはずだ。普通の人間はこれに対応するのに呼吸するのが精いっぱいで、歌うなどとんでもない。歌は、当たり前だが息を吐き続けなければできないから、吐いている時間と吸っている時間の比率(吐いている時間÷吸っている時間)は1を大幅に超える。恐らくは4か、それ以上になるはずだ。これに対して、普通の呼吸では1になる。このため、息を急激に吸うための肺の筋肉が強く、且つ気道を大きく開けて吸気のノイズを押さえるための喉の筋肉も強くなっている必要がある。

また、この状態では、肺の空気内の酸素量が少ない状態が長く続くため、肺から血液への酸素取り込み能力も強くなければならない。これは筋トレなどでは鍛えられない。生来のものがあったにせよ、何か特殊な訓練を行っているのではないか。

比率だけでなく、このサイクルは当然歌によって変わり、多くは2拍子の倍数で目まぐるしく変わる。例えば四分音符120(一分当たり120拍)だとすると1拍0.5秒だから、4拍で2秒、だいたいこれの倍数になる。2秒の場合もあるし、8秒の場合もあり得るわけだ。単純に肺活量が求められるだけでなく、体内の酸素量が歌の都合で激しく増減するのに耐えられなければならない。

もう一つ、ダンスをするということは、体が激しく揺れ、時には強い衝撃が掛かる。そのような状態で歌を歌えば、普通は衝撃に沿って音程や音量が乱れてしまう。ダンスをしながら歌うときに口パクが多用されるのはこのせいだ。それを避けるためのテクニックは二つあり、一つは衝撃を肺から喉までの期間に伝えないために、特に足から胸にかけての筋肉を制御して衝撃を吸収すること。もう一つは、胸郭の筋肉を緊張させることで衝撃にも揺るがないようにすることだ。恐らく両方やっているものと思う。

このためには、ダンスのための筋肉だけでなく、いわゆる内転筋の鍛錬が必要になる。肺にしても、単純な呼吸だけでなく、吸気と呼気の両方の筋肉を同時に緊張させてゆっくり吐く、といった動作が必要になる。

マラソン選手の呼吸や心拍は極端に遅いとか、赤血球の数が多いとかいう話は聞いたことがあるが、氏の場合も同様、血液や呼吸、筋肉などが常人をかなり超えているのではないかと推測する。バラエティで人間ドックに掛かったりするような人ではないだろうが、ちょっと興味がある事象ではある。

また、これも余計なお世話だが、アスリートとしても成功した人かもしれない。

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