2016年11月4日金曜日

最適化の果て

AIがブームだ。そこに見え隠れするのが「最適化」の類だが、これはAI以前からも技術的には常に興味の対象だったと言っていい。AIにより、遂に究極の最適化が実現するのかもしれない。

Society 5.0の肝は、この最適化だと考えている。だが、ここでは少し斜め横から(ひねくれ目線)考えてみる。その1、その最適化とは誰目線か。その2、アクシデントへの対処は大丈夫か。

工場の中での生産性を最適化する、と一口に言っても、生産量、生産コスト、労働条件改善、などとパラメーターが沢山ある。そしてそれらは相反するものも多い。極端な話、従業員をロボットに置き換える、ブラックに働かせる、などの結論が出てしまっても良いのか。そして、これが工場であるならまだ良い。ステークホルダーが一人(工場長、社長など)だからだ。

卑近な話、部品納入業者との軋轢は生じないだろうか。部品の納期が細かく少数ロットになったり、数量が変動したり、競争入札になって価格が変動したりしたら。同じ部品を複数の、競合する会社で作っていたとして、生産量調整がされているのではないかと疑心暗鬼にならないか。あるいは、割り当て数に文句が出ないだろうか。これは関連会社でも起こる問題だ。

更に言えば、上には上がいる。生産した商品を市場で売る際、買い手側が同じような要求をしてこないだろうか。更にその上にお上が居たとして、市場流通量を調整せよ、と来たら。

例えば、自治体は地域の雇用を最大化したい、と考えるかもしれない。あるいは短期的な税収を上げたい、と思うかもしれない。国は環境(例えば二酸化炭素排出量)を改善したいと思うかもしれない。大枠での主旨には合意できたとしても、目の前の利益を奪う生産調整など、素直に言うことをきくところがあるとも思えない。大体、お上同士で思惑が相反することだって考えられるではないか。

もう一つの問題。山手線が止まると、わずか5分10分でホームに人が溢れる。日本の電車の効率は世界一だと思うが、一旦止まればその被害は大きい。もし社会全体が最適化したら、山手線どころの騒ぎではない。

どこで聞いたか忘れたが、魚を飼う場合、水槽の水は、魚1cmにつき1リットル必要だそうだ。何でもギリギリにすると余裕がなくなる。最適化が過剰に働いたとき、通常時は問題なくても、アクシデントのダメージが大きくなる。その程度は許容範囲なのだろうか。AIはそこまで考えてくれるのだろうか。もちろん考えてくれるのだろうが、それはあくまでベストエフォートであって、最大限の努力を払っても大幅な効率低下は免れない。

例えば、緊急車両が優先だとは言っても、エネルギー供給を犠牲にするわけにはいかない。物流だって止まれないだろう。大規模災害で道路が寸断して許容交通量が大幅に減ったとき、例えば食料供給が1/10になってそれが半年続いたら、大量の餓死者が出る可能性は否定できない。

つまり、最大のアクシデントの大きさを想定した場合の効率低下の度合いには許容範囲があるのだ。それを設定すると、必然的に最適化の程度は一定以下に抑えられなければならなくなるはずだ。だが今のAIはまだそれほど賢くない。最適化だけ精一杯やろうとしている。

もしかしたらもう許容範囲を超えているかもしれない。例えば関東大震災では10万人が死んだが、同じ規模の地震が起きたとしたら。直接の死者はそれより少ないかも知れないが、例えば薬や透析が必要な人、食料の殆どが近隣からの輸送に頼っていた、上下水道に頼り切っている(井戸がない、すっとん便所がない)、不潔やストレスに弱い、などと考えると、その後の死者が当時より酷いことになるのではないか。

もしそこを配慮したAIが現れたら、今とは逆の答を出すのかもしれない。「もっと効率を下げるべし、もっと余裕を持つべし」。

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