2017年1月25日水曜日

機械が人間の仕事を奪った後


政府が発表するような景気の回復が実感できない。給料は上がらないし、町に活気があるようにも見えない。何よりも、国民全体が疲れ切っている。
景気というのは、確かに数字でも測れるが、統計のウソで幾らでも操作できるから、国の主張を素直に信じるわけには行かない。やはり体感が大事である。端的に言えば、同じ給料をもらった時、レジャーに使おうと思うか、将来に備えて貯めておこうと思うか、その心理の平均こそが景気だと言える。
今、先進国の景気は軒並み低迷している。昔だったら回復も期待できたのだが、今の感じでは二度と昔のような好景気は来ないのだろうな、という諦めすら感じる。では新興国はどうかと言うと、まだ浮き沈みを続けながら好景気と言える時代は通過していくだろうが、先進国を追体験できる時間は短くなるだろう。
先進国が不景気になった原因として考えられることが幾つかある。その一つは、「平均的な普通の人でできるレベルの仕事の価値が下がった」点だ。
例えば、レジ打ちがバーコード読み取りになった。のこぎりが電化したり、コンピュータで正確に切断できるようになった。要は機械化である。誰でもできる仕事ばかりになれば応募者は殺到し、買い手市場になるのは明らかだ。
一方でよく言われるのが、「そうなったら新しい仕事が生まれて云々」だが、ここには量的議論が抜けている。新しい仕事には新しいスキルが必要で、それは今より難しいはずだし、途中転向することで学習時間も不利になる。更には新人であっても、習得までに掛かる時間は(以前あった仕事よりも)長くなる(より難しいので)から、当然それに対応できる人は少なくなる。また、新しい仕事が、古い仕事があぶれた分の人材を全部吸収できるほど多く発生するとは限らない。
また、もう一つ抜け落ちている観点がある。それは、技術の進歩の速度と人間のスキルの上達速度は違う、ということだ。一つ例を挙げると、昔は音楽は金持ちの道楽だった。レコードが、テープレコーダーが発明されると、音楽は大衆のものになった。更に、インターネットとICレコーダーやスマホが登場すると、一曲を聴くのに必要なコストはもはやタダ同然にまで下がった。
一方で、一人の人間が楽器の演奏や作曲法を習得するコストは、何ヶ月、何年の単位である。かつては金持ちに囲われていた(生活費を丸ごと面倒見てもらっていた)演奏家は、今では自力で勉強して何年も過ごし、一回演奏すればデジタルコピーされてタダ同然に配られ、殆ど手元にカネが落ちることはなくなった。音楽家人口は増え、聴く側の人口も増えたが、そこでの食い扶持は減った、と言える。
演奏や作曲はクリエイティブな仕事だ。伝統工芸などもそうだ。包丁、金物、陶器、着物(服)、などがそうだ。AIでもまだ人間越えは為しえていない。それでもこの有様だ。そうでない分野は言わずもがなである。
もっとレベルの低い、レジ打ちや切符切りのスキルは、とっくの昔に機械に追い越されてしまった。人間の能力習得には絶対的な限界があって、それを機械が超えると、もうそういった人間は「全て」不要になる。そのようなスキルがあちこちで生じ、平均的な人間のレベルを超えてしまったとき、『平均以下の人間は要らなくなる』。
誰もが平均以上でなければならない、そんなのは矛盾だ。一部のエリートが生き残る、とは言っても、これは言葉通りの意味ではなく、貧しいながらも生きていけるのが今までだが、この場合は違う。文字通り仕事がゼロになるのだ。そうなると、事実上は食い扶持がなくなることになる。
そうなった未来に考えられることは二つ。一つは、現状の平均以下の人たちは全てスラム化すること。もう一つは、そういった人たちもがAIやロボットを使って生活をするが、その全てがベーシックインカムや生活保護の範囲で行われる、ということだ。この両者は並立しうるので、例えば全人類の50%はスラムで、30%は生活保護で、20%が世界の富を作り出すエリート、という構図が想像できる。
当然、生活保護で支えなければいけない人数は極端に増えるため、よほどの大増税でもしない限り生活レベルは下がってしまう。救いがないのは、常に機械の方が能力・コスト共に上なので、働いて生活レベルを向上させるチャンスがない、ということだ。
これはもうディストピアと言えないだろうか。ちょっと暗すぎる未来なので、もう少し明るくなるよう考えを進めてみたいと思う。

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