今の日本の状況では、自然災害から完全に逃れることはできず、ある程度の被害は避けられない。ではもし、全ての自然災害に対し完璧に防衛ができる都市があるとしたらどういうものになるのだろう。
想定する自然災害は、森林火災、地震、台風、ゲリラ豪雨、雷、噴火、隕石落下、くらいだろうか。このうち隕石については、近未来まで含めて技術的な回避手段はないので除外する。残った中で一番大きいのは噴火だ。これは日本でも実績があるし、現実的な問題だろう。
このうち、破局噴火と言われる巨大噴火は、やはり技術的な回避手段はないので除外する。残るは富士山の噴火だ。こちらは数百年に一回は噴火しているので、現実的な対応が必要になる。
過去の富士山の噴火から、おおむね1立方キロメートルの噴出物が出ると見込まれる。関東全域が10cm程度の降灰に見舞われる。火山灰はPM2.5を大量に含む。雨が降ったとしても全部が流れるわけでもなく、逆に固まって動かなくなり、地層を形成するようなことが起こるだろう。
このような状況に対応する技術的手段として考えられるのは、降り来る火山灰を全て吸い込んで素早く海に捨てるような(非現実的な)装置か、ドームや地下都市のように、閉鎖されエネルギーと食料の自給自足ができる施設、ないしは巨大なシェルターであろう。このうち最も現実的なのはシェルターで、但し自給自足は無理だから、例えば地下鉄や地下街を拡張して一時退避場所を作り、更に超長距離地下トンネルを掘って脱出に使用する。
但し、脱出専用となると非常に費用対効果が悪いので、ここでは貨物用を兼用として、各都市を繋ぐものを想定する。このトンネルは、普段は貨物用として使うために、通常の電車用より大幅に小さいものになる。トラックへの積み替えを考慮すると、鉄道用12フィートコンテナが最大であろうと思われる。シールド工法で作るとして、直径5m程度を2列(双方向)。また効率から考えれば当然鉄道を敷くことになる。
これを何処に配するのかというと、基本的には関東圏の人は東北へ、神奈川以西の人は名古屋へ避難するのが良かろう。これより遠くではトンネルにする意味が薄くなる。これを、宇都宮~つくば~東京~横浜~熱海~静岡~浜松として考えると、全長は概ね350kmとなる。
これを作るのに幾ら掛かるのか、トンネルの工事費を調べてみたのだが、余りにもバラバラで分からない。九州新幹線の1km50億円を元にして、断面積が1/5になるから1km10億円だ、と仮定すると、350kmで3500億円だ。物流の市場規模が20兆円となると、それほど非現実的な額でもない。また実際、首都圏内ではもう少し細かく網を形成して、物流の補助にすることは重宝するだろう。
では噴火における人の搬送能力はどの程度か。12フィートコンテナに人を20人詰め込んで、時速100kmで東京から宇都宮に脱出するとして、所要時間は2時間。10分毎に出発できるとしても1時間で120人、1日で2880人。コンテナは24台(行き帰り)。首都圏には4千万人居るので、38年掛かる計算になる。10台連結としても3.8年だ。
つまり、現実的には、脱出するのは病気などの生活弱者に限られ、大部分は残らざるを得ない。だから、その人達に向けての物流(救援物資)を噴火の影響に関係なく送り届ける、という目的の方が理に適っている。これは噴火でなく地震などでも使えるから、汎用自然災害用物資ラインとしても使える。
噴火自体は二週間もすれば落ち着くので、人が徒歩で移動することは可能になる。そのタイミングまでに物資を届けることで、シェルターや地下街から地下鉄の線路を通じて23区全体に配布が可能になる。
但し、これでも上下水道と電気・通信の問題は残る。発電所も発電機も、降灰でダメになるから、燃料を送ってもあまり意味がない(暖を取る効用はあるが)。直接電気を送るには、トンネルの電力を分ける手があるが、量的には全く不足する。シェルターの発電にはスターリングエンジンを使う手があり、これなら灰に強いのだが、一から準備するのは大変だろう。水にしても、必要量は膨大で、とても足りない。ただ、排泄は灰に混ぜることである程度処理できるかもしれない。
こう考えると、シェルターにしてもトンネルにしても焼け石に水かもしれない。噴火に対抗するには、個人がシェルターを作り、何か月分もの備蓄をする、それしかないのかもしれない。
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