2016年12月22日木曜日

ブロックチェーンの行き着く先


ブロックチェーンを銀行が研究している理由は、自身の存続を危うくしているという意識があるからではないか。
銀行の主な役割は、①預金②送金③融資④金融商品の提供、である。このうち①②がブロックチェーンで無くなる可能性があるものだ。そして、①がなくなってしまえば③ができなくなる。また③④は銀行でなくてもできる。
ユーザが銀行に①②を依存する理由は、①に関しては「利子」「ATM(保管の安全性とセットで)」、②に関しては「それしか手段が無かった」からだが、現在は既に超低金利時代であり、ATMについては日本が現金主義であるためまだ需要があるが、電子マネーが普及しており、徐々にその価値は低下している。また送金はBitCoinやPayPalの方が便利になっていて、相手さえ対応していればそちらの方が安く早く送れる。それも圧倒的にだ。(クレジットカードも同じことが言える)
そうやって預金から人が離れていくと、融資の原資がなくなってしまう。銀行が真に恐れているのはそこなのではないか。銀行の儲けの原資は融資だから、その元手がなくなれば生きていけない。
これは結構笑えない話で、融資が減れば痛手を受けるのは自己資本の少ない企業、特に中小企業だ。今でも銀行の融資は渋い印象があるが、銀行が潰れるか縮小すれば、企業も潰れてしまう。
生き残るのは自己資本、しかも現金の比率が多い企業だけになる。相対的に、設備や土地の価値は下がる。そういった企業はやはりブロックチェーン預金(財布)に頼るだろうから、銀行はますます居場所を失うことになる。
大規模な銀行網や支店、ATMの類は、従来は必要な投資(自身にとっての)だったが、この時代には負債になりかねない。過渡期の二重投資のようなもので、ブロックチェーンと銀行網が両方ある時代が長く続き、これは真綿で首を絞めるように銀行の経営を苦しめる。
銀行が生き残る道は二つある。一つは自らブロックチェーン網を作ることだ。これは自らの網に預金を確保し、融資の原資を得ることが目的になるので、BitCoinの「財布」的なものではなく、あくまで「預金(個々の銀行の紐付き)」である。つまり、預金凍結などの危険がある代わり、従来のように利子が付き、送金の手数料などは安くできる。
もう一つは、預金送金での利益を諦め、保険や投資に特化することだ。これは保険会社や証券会社と競合するので、バトルの末再編、という道を辿ることになる。
注目されるのは、銀行網に相当するブロックチェーンを誰が作るか、だ。三菱東京UFJが実験しているらしいが、その通貨単位は当然「円」である必要があり、相場は変動しない。これはBitCoinとは大きく違う点で、BitCoinで言う報酬や採掘の概念はそのままでは使えないから、概念レベルで相当考えなければならない。
そしてそこに中央集権や閉鎖性を持ち込むなら、単なる「新たな銀行網」でしかないから、本物のブロックチェーンを駆逐することにはならない。少なくとも他の銀行とは繋ぐ必要があるし、個人の端末がそれに参加することを阻むことはやってはならない。もしそれをやるなら、それをやらない別のブロックチェーンに移るだけだ。そしてそれを構築するのにカネは掛からない。
例えば、「円」ブロックチェーンを何処かの企業が立ち上げたとする。この企業は、国際送金の代行を行う。自分の「円」口座から企業に送金し、企業はこれを相手の銀行口座に送金するが、その際の手数料は国内送金のそれになり、差額が企業の利益になるため、それより安い料金設定ができる。(国内でも同一銀行内で安い手数料を設定している場合は同様のことができる)
現在でもPayPalやNettelerなどが同じことをやっているが、ブロックチェーンではこういった企業が複数現れて同じネットに接続できるため、より健全な市場が形成されることになる。PayPalはキャズムを超えられていないが、円ブロックチェーンならその可能性がある。そうすれば銀行独自の円ブロックチェーンは意味がなくなる。
ブロックチェーンは同様に電子マネーやクレジットカード市場も破壊する。ブロックチェーン口座対応のデビットカードが出てきてもおかしくないが、恐らくはカード形態ではなくスマホのソフトになるだろう。リーダーライターは従来クレジットカード会社や電子マネー会社が主導して開発・普及させてきたものだが、この時代にはどちらもそのモチベーションが保てなくなる。相手側もスマホやPC接続型になる可能性が高い。
そんな時代に大きな危機を迎えるのは銀行だけではない。もし企業がそのような体質(現金主体で自己資本比率がかなり高い企業ばかりになる)になった時、銀行の規模が大幅に縮小した時、国債は誰が買ってくれるのだろう。もちろん融資の原資として国債比率が上がるためもっと売れる、という可能性は否定しないが、素直に考えればそれは一時的な話であって、融資自体の市場が減っていくから、金融機関は国債を(そのうち)買わなくなる。
国債が売れなければ国は借金ができないわけだから、今まで借金三昧をしていた日本の財政は立ち行かなくなる。年金は減り、税は上がり、給料は下がり、・・・ 土地建物の価値も下がる(上述)から、経済活動が大きく損なわれることになる。
結構恐ろしい未来だが、銀行がブロックチェーン口座を作り、その預金利子などを絶妙にコントロールできれば、痛手は最小限に抑えられるだろう。銀行網や口座維持管理のコストをブロックチェーンに逃がすことでコストダウンし、個人口座側からの利益を諦めて融資の原資として特化すれば、企業の淘汰も抑えられ、銀行自身も生き残りの道はある。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注目の投稿:

ダイナミック租税とその指標

今の法律では、税率は一定の計算式で表されるが、そのパラメータは固定である。需要と供給のバランスによって商品の価格を変えるダイナミックプライシングというのがあるが、あれを租税にも適用してはどうかと考えてみた。 納税者の声をベースにして様々な租税や補助金を自動調節して、どこか一箇所...

人気の投稿: