2018年7月22日日曜日

AGIの誤謬


人間の頭は無限に大きくないし、速度も無限ではない。

なぜこんなことを言うのかというと、どうもAGIに対する懐疑的な考え方の中に、この事実を忘れている人がいるのではないか、と思うからだ。理論上の「汎用」と、現実世界における汎用は、大きく異なる。

例えば、よく言われる理屈。「AIは限られた場面でしか対応できないが、人間は対応できる。」これはウソだ。人間だって限られた対応しかできないし、AIも何らかの答えは出せる。それが適切かどうかは勿論別の話だが、それは人間だって同じことだ。

そんなことはない、と言えるだろうか。例えば宇宙飛行士がトラブルを回避するためには、地上で様々なシミュレーションを重ねる必要がある。これはつまり、「それ専用の学習」なのだ。人間だって学習しなければ対処できない。していれば対処できる。

では、熱いものに触って思わず手を引っ込める所作はどうか。人間は学習していない、と言えるだろうか。いや、言えない。それは反射回路として神経系に組み込まれているが、これは長年の進化の賜物だ。脳の学習ではないが、進化や自然淘汰も学習の一種である。
将棋専用のAIは囲碁には対応できない。それはその通りだ。だが、将棋専用の人間はそもそも居ないのだ。

その人間は何十年と「汎用の人間」として生きてきて、その間将棋以外のさまざまな体験(=学習)をしている。メシも食えば親に怒られたことだってあるだろう。根本的に学習の量が違うのだ。ルールを教えてもらう、ルールブックを読む、ということ自体、学習によって得た能力なのだ。比較するのは不公平、いや卑怯である。

つまり、今のAIは、人間に比べて学習量が圧倒的に不利なわけだ。生まれてから今まで、視覚触覚などの五感はずっと動いていて、常にインプットされてきた。また、脳の神経回路大きさは、今のAIのどんなニューロンネットでも適わないほど大きい。万年単位での進化も経験している。そんなGI(汎用知能)と、高々数十年の歴史しかないAIが勝負しても、勝てるはずがない。

人間と同じ大きさの神経回路を、五感を持つロボットに搭載して、二十年日夜教育する。そこまでして初めて、AGIが可能かどうかが分かる。本来はそういうものであるはずだ。そして、AIはデジタルツインやVR環境による学習の加速が可能だ。そこまでして学習してやることを前提とした場合、「AGIはできない」という主張にどれほどの説得力があるのか、個人的には大いに疑問である。

確かに今はその筋道は見えていない。しかしAGIが理論的に不可能だと言うには、まだ数十年は早いと思う。

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