以前の「自動運転車併走自動運転車」の最後、トイレ車やシャワー車が出てくる、というのを更に発展させると、家族一人ひとりに自動車がつき、家の機能を司る別の自動車が多数あって、用途に合わせて合体したり離散したり、という構図が出てくる。
人一人が単独で動くパーソナルコミューターと、これに接続して乗り降りができる出入口の設計を共通化することが鍵になる。このため、従来自動車メーカーがコンセプトモデルとして出してきたコミューターよりも、真四角で自動ドアがあるようなタイプが有望だ。また、車高の上げ下げができるタイプが重宝されるだろう。接続先は固定された家や施設でもよいだろうし、別の車(コミューターではない、やや大型の車)でもよい。
大人子供二人づつの一般家庭を考えると、中型バス程度のサイズのリビング・寝室車を拠点として、通勤通学買い物にはパーソナルコミューターを接続して乗り移る、といった運用になる。トイレくらいは内蔵してよいが、キッチンや風呂はあったりなかったり、様々なタイプがある。ゴミや排水は分離可能なタンク車にまとめ、いっぱいになると切り離されて指定場所に捨て、上水と燃料を補給して戻ってくる(あるいは新しいものと交替する)。
パーソナルコミューターは基本的にカーシェアリングであり、リビング車のみが個人所有になる。家族ぐるみでの移動は、リビング車がそのまま移動することで行う。但し、大きな観光地などに直接リビング車が乗り込むのは困難なので、近郊に駐車場を置き、そこからコミューターで移動する。
トイレ車やシャワー車の出番は、コミューターが渋滞で捕まったとき、リビング車が買えない困窮者や一人暮らし対応、高速移動で休憩が取れない、などに対処するときになる。このため、これらやコンビニ車などは基本的にタクシーと同じく「流し」で営業する。単価は安いが、ロボットの自動運転なので需要予測に従って動き、効率は最大化できる。
とはいえ一日中移動するわけではないし、エネルギーの供給も必要だ。キャンピングカーにおけるカープールのようなところがあちこちにでき、原則として寝る時はそこに停車する。これも決まった場所に置くのではなく、日々違っても構わない。
集客能力の高い大規模施設は従来とさほど変わらないだろうが、個人経営の食堂やコンビニ等は、土地に固着するより移動した方が有利になる。TV電話で注文を受け付け、調理しながら(状況によってはお互いに)近づき、着いたら引き渡して支払って終わり(皿は使い捨てにするか回収車を使う)にできる。ダイニングを店側に準備する必要がないので効率化できる。物品販売や宅配、クリーニングなども同様で、まずオンラインで予約や通知をして、それに従って店が動き、場合によってはリビング車も協調して動き、引取り・引渡しをする。
さて、リビング車が車である必然性はあるのだろうか。例えば朝、まず夫が通勤するのに駅の近くに行き、次に子供が学校に行くのに学校の近くに移動すれば、コミューターの移動距離は短く、通勤通学時間自体も短くなる。朝寝坊もできるというものだ。また、通勤通学に便利とか景色がよい空気がよい治安がよい、という土地の価値は、意味が薄くなる。不利なら移動すればよいし、寝る時は関係ないだろうからだ。
更に、固定資産を所有しなくても生きていけるから、その分の納税が不要になる。この形態が流行ると、固定資産評価額は下がるだろう。いわゆる「街の魅力」も怪しくなってくる。特定の居住地からの移動が楽かどうか、魅力的な(移動しない)店や施設があるかどうか、などという判断基準の軸が鈍るからだ。
家を固定しない習慣は、インフラ整備の節約にもなる。タンク車が指定の場所に来てくれるのであれば、個々の家に上下水配管を引っ張る必要がない。電気は太陽電池やハイブリッドカーで対応し、通信は無線でできる。ゴミも集積所に自動で運んでくれる。これは、土地の相続問題や、区画整理にも有利に働く。役所の出番は大いに減るはずだ。
また、使い捨て容器が減るかもしれない。ペットボトルのリユース(リサイクルでなく)、プラスチック段ボール(紙でなく)による通函の普及、緩衝材の削減、などだ。これも回収が容易になるために起こる現象である。
治安も向上するかもしれない。不用意に外出することはなくなるし、夜でも安全に移動できる。訪問者は車単位で認証される。宅配です、といって未登録の車が接続されれば、アラームを出すことができる。
また、時間効率が高くなるという利点も出てくる。例えば医者の待ち時間だ。医院の近くにリビング車を移動させておけば、順番待ちを医者の待合室で無為に過ごすことなく、他の用を済ますことができる。これは医院にとっても有利で、待合室の大きさを小さくできるし、感染症対策もやりやすくなる。逆に、リビング車をずらりと並べておいて、診療車が前から順番に訪問していく、という構図も考えられる。他にも、全員が外出している可能性が減るので、宅配の効率などは上がるだろう。
こうなると、もう「街」は不要と言えるかもしれない。だだっぴろい土地(但し地ならしは必要)と、遠距離移動用の高速道路だけあればよい。景色を堪能する必然性はあるが、街中は碁盤の目のような道路と駐車場だけ、たまに巨大ショッピングモールのような施設が点在、という世界も想像できる。
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